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63話 敬語

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 沢山のキャリーケースやバッグを乗せて回るベルトコンベアをぼけっと眺める。
 さっきまでぐっすり眠っていたせいで、体中は痛いしまだ頭は覚醒し切っていないしで散々である。
 欠伸をしながら自分の荷物が流れて来るのを待っていると、ガイドブックを眺めていた猫田さんが。

「なあ、あやかしのこと調べ終わったら出雲大社と鳥取砂丘でも行ってみないか? ここの写真が欲しいって傘部長に言われてな」

「良いですよ。お土産買って行きたいですし」

 答えながらベルトコンベアの上をゆっくりと移動してやって来たキャリーケースを取ると、猫田さんはどこか嬉しそうな雰囲気を醸し出す。
 出雲大社も鳥取砂丘も、いつの日か行ってみたいとは思っていたし丁度良いだろう。
 そんな事を考えていると、少し遅れてやって来たキャリーケースを手に取った猫田さんが先導するようにして受取所の外に向けて歩き出す。
 何となく幼い頃に母の後を追って歩いたことがあったなと思い出していると、お腹が間抜けな音を鳴らした。
 その音はしっかり聞こえていたらしく、猫田さんは笑いながら振り返って。

「腹減ったか?」

「は、はい」

 時刻は十三時を少し過ぎた頃で、飛行機に乗る前も乗った後もお菓子くらいしか食べていないのだから空腹になるのは必然である。
 自分に言い聞かせるように言い訳じみた事を考える私に、猫田さんは近くの案内板の方へ歩き出して。

「飲食店それなりにあるな。どれか行きたいところあるか?」

「そうですね……この卵かけご飯のお店行ってみたいです」

 私が指差したそれを見た猫田さんはおかしそうに笑う。

「卵かけご飯か。まあ、美味そうだしここで良いか」

「ありがとうございます」

 飛行機に乗る前にネットで検索して出て来たこのお店は少し気になっていた。
 卵かけご飯はどこぞのブラック企業で働いていた時に夕食の手間を省くためによく食べていたのだが、その時から好物の一つになってしまったのだ。
 と、何か思い出した様子で猫田さんはこちらを振り返る。

「ずっと言おうと思ってたんだけど、俺には敬語使わなくて良いからな。先輩って言っても年はそんなに離れてないし」

「そうですか? なら、使わないように気を付けますね」

「言ってる傍から敬語なんだな」

「そういうものです」

 いきなり敬語を辞めると言うのは思っているよりも難しいものだ。
 私はどうやって敬語をやめようか考えながら、猫田さんと共に店へ向かって歩いた。
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