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60話 先祖
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パソコンの前で敵がどこ行っただの死んだだのと騒ぐ父と弟たちを傍目に、私はゆっくりと緑茶をすする。
茶畑を持っている親戚が送ってくれた採れたての茶葉を使っているだけのことはあって、スーパーで買ったものより匂いも味も良く、気付けばもう一口飲んでいた。
これなら私も遠慮しないで貰っておけば良かったかもしれないと後悔していると、母がメモを片手に私室から戻って来た。
「お待たせ。それじゃあ、色々話していこうか」
「うん、お願い」
頷きながら答えると母はノートを開き、それを見ながら話し始める。
「まず結果から言えばあやかしの正体が何なのかは分からなかったけど、深川家のご先祖が元々住んでいた場所は斐伊川の近くだったことが分ったの」
「よくそんなこと分かったね。誰に聞いたの?」
「お爺ちゃんたちよ。放置してた倉庫とか押し入れとかから色々見つけたんだって」
知らぬ間に捜査の手が拡大しているとは驚いた。お爺ちゃんたちには迷惑をかけてしまって申し訳無い。
今度会った時には何かお礼をしようと考えながらお茶を啜ると、母は話を続ける。
「それともう一つ分かったのは深川家は必ず子どもが八人出来るんだって。不思議だよね」
「言われてみれば八人兄妹だね……」
母の言う通り、我が家は確かに八人兄妹で、父の代も祖父の代もそうだった。
偶然にしては出来過ぎているように感じるし、これもきっと妖怪の特徴の一つなのだろう。
と、私が考えている横でぐびっとお茶を一気飲みした水樹は大して興味が無い様子でパソコンを取り出す。
「その斐伊川に行けばなんかあるかもな。どうせしばらく休み貰えたんしよ、行って来たらどうだ?」
「まあ、社長に言えば行って来いって言われそうだけど……」
なんならあんな事件が無くてもそう言われそうだし、もっち言えば付いて行きたいなんて言い出しそうだ。
それはそれで楽しそうだなんて考えていると、メモを閉じた母が驚いた様子で。
「あら、イケメン君の次は社長と良い感じなの? 知らない間に男誑しになったのねえ」
「お母さんはいつでも脳内ピンクだねえ」
「褒めないでよ」
「えぇ……」
「待って、その反応は違う」
思わずドン引きした私に母は驚いた様子で身を乗り出し、横で見ていた波留がおかしそうに笑う。
と、私の横で緑茶を美味しそうに飲んでいるミワと目が合った母は何か思い出したように。
「そう言えば聞いてなかったけどこの子って結局誰の子なの? お友達?」
「あれ、教えて無かったっけ。ほら、自己紹介して」
「うむ」
意外と素直に私の言葉に従ったミワは湯飲みをテーブルに置くと、こほんと咳払いをした。
「吾輩は美和之大物主神、この世に唯一生き残る神である」
「うんうん、可愛いねえ」
「やかまし――こっちに来るな!」
俊敏な動きでこちらへやって来た母は娘を可愛がるかのように抱き締め、ミワはそこから抜け出そうと藻掻くが私でも敵わない怪力から抜け出せるわけが無く。
助けを求めるような目を向けて来るが、どうしようもないことを知っている私は見て見ぬ振りをしてお茶を再び啜った。
後で口を利いてくれなくなったのは言うまでもない。
茶畑を持っている親戚が送ってくれた採れたての茶葉を使っているだけのことはあって、スーパーで買ったものより匂いも味も良く、気付けばもう一口飲んでいた。
これなら私も遠慮しないで貰っておけば良かったかもしれないと後悔していると、母がメモを片手に私室から戻って来た。
「お待たせ。それじゃあ、色々話していこうか」
「うん、お願い」
頷きながら答えると母はノートを開き、それを見ながら話し始める。
「まず結果から言えばあやかしの正体が何なのかは分からなかったけど、深川家のご先祖が元々住んでいた場所は斐伊川の近くだったことが分ったの」
「よくそんなこと分かったね。誰に聞いたの?」
「お爺ちゃんたちよ。放置してた倉庫とか押し入れとかから色々見つけたんだって」
知らぬ間に捜査の手が拡大しているとは驚いた。お爺ちゃんたちには迷惑をかけてしまって申し訳無い。
今度会った時には何かお礼をしようと考えながらお茶を啜ると、母は話を続ける。
「それともう一つ分かったのは深川家は必ず子どもが八人出来るんだって。不思議だよね」
「言われてみれば八人兄妹だね……」
母の言う通り、我が家は確かに八人兄妹で、父の代も祖父の代もそうだった。
偶然にしては出来過ぎているように感じるし、これもきっと妖怪の特徴の一つなのだろう。
と、私が考えている横でぐびっとお茶を一気飲みした水樹は大して興味が無い様子でパソコンを取り出す。
「その斐伊川に行けばなんかあるかもな。どうせしばらく休み貰えたんしよ、行って来たらどうだ?」
「まあ、社長に言えば行って来いって言われそうだけど……」
なんならあんな事件が無くてもそう言われそうだし、もっち言えば付いて行きたいなんて言い出しそうだ。
それはそれで楽しそうだなんて考えていると、メモを閉じた母が驚いた様子で。
「あら、イケメン君の次は社長と良い感じなの? 知らない間に男誑しになったのねえ」
「お母さんはいつでも脳内ピンクだねえ」
「褒めないでよ」
「えぇ……」
「待って、その反応は違う」
思わずドン引きした私に母は驚いた様子で身を乗り出し、横で見ていた波留がおかしそうに笑う。
と、私の横で緑茶を美味しそうに飲んでいるミワと目が合った母は何か思い出したように。
「そう言えば聞いてなかったけどこの子って結局誰の子なの? お友達?」
「あれ、教えて無かったっけ。ほら、自己紹介して」
「うむ」
意外と素直に私の言葉に従ったミワは湯飲みをテーブルに置くと、こほんと咳払いをした。
「吾輩は美和之大物主神、この世に唯一生き残る神である」
「うんうん、可愛いねえ」
「やかまし――こっちに来るな!」
俊敏な動きでこちらへやって来た母は娘を可愛がるかのように抱き締め、ミワはそこから抜け出そうと藻掻くが私でも敵わない怪力から抜け出せるわけが無く。
助けを求めるような目を向けて来るが、どうしようもないことを知っている私は見て見ぬ振りをしてお茶を再び啜った。
後で口を利いてくれなくなったのは言うまでもない。
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