65 / 106
59話 実家
しおりを挟む
一人暮らしを始めた頃と何も変わらない実家を前に、懐かしさから溜息が出る。
家の中からはガヤガヤと騒がしい兄弟の声が聞こえ、相変わらずの騒がしさに笑ってしまう。
なぜ帰省しているのかと言えば、アパートに大穴を開けられた件について社長に連絡したら、しばらく休暇をくれることになったためである。
「ほう、ここが小娘の育った家か。意外と大きいじゃないか」
「まあね。大家族だし、仕方ないと思うよ」
「この騒がしいのはお主の兄妹か?」
「うん」
頷いた私は横に並ぶ水樹と波留と共に玄関へ近付き、インターホンを鳴らす。
すると中から返事と共にドタドタと騒がしい足音が聞こえ、やがて引き戸が勢いよく開かれた。
「おお、よく帰って来たな。てか、本当に子ども出来てんのな」
今年で高校2年になる次男の晴人が揶揄うように笑う。
実際は違うことを理解していそうなその様子に少しイラッとした私はミワをむぎゅと抱きしめながら。
「可愛いでしょ。私の自慢の娘だから」
「……マジで姉貴の子どもなの?」
途端にヘラヘラしていた態度から真剣なものに変わり、後ろで話を聞いていた水樹が吹き出した。
それを見て嘘だと理解した様子で晴人は不機嫌そうに中へと戻って行き、私たちもその後を追うように中へ入る。
懐かしい木の香りを嗅ぎながら玄関を見渡すと、母の綺麗好きは変わっていないらしく、あの頃と同じ清潔感が漂っている。
と、ミワが靴を脱いで上がりながら。
「ほお、こんなに清潔な家に住むのは初めてだ。吾輩はここに住んでも良いな」
「待って、それって私の部屋が汚かったって事?」
「そうだが?」
知らなかったのかとでも言いたげな目を向けて来るミワに言い返そうとするが、あまり丁寧な掃除をしていなかった自覚もあって言葉が出ない。
ケッと小馬鹿にするように鼻で笑う彼女に顔を赤くする事しか出来ないでいると、波留が何か思い出したようにケラケラと笑って。
「そう言えばお姉ちゃんが仕事行ってる間ゴキブリが出てミワが泣いて逃げ回ってたもんね。そりゃ汚いって言いたくなるわあ」
「な、内緒にすると約束しただろう?!」
顔を真っ赤に染めて波留に掴みかかるミワを見て、私はさっきまでの態度に納得する。
ゴキブリに追い掛け回されるなんてことになったら、そりゃお前の部屋は汚いと言いたくなるものだ。
少なくとも私なら言う。
「玄関で何を騒いでるの?」
廊下の奥から掛けられた声の主へ目をやると、久しぶりの母の姿が見えた。
その顔は最後にここを出た時と大して変わっておらず、実年齢が五十を超えるとは思えない若々しいオーラがある。
「とっとと上がって、居間でゆっくりしたら? あやかしのこととか、色々分かったこと教えてあげるから」
「おお、ありがとう!」
私は遂に自分の血に宿るあやかしの正体を知れるかもしれないという事実に胸を躍らせながら、三人と共に家へ上がった。
家の中からはガヤガヤと騒がしい兄弟の声が聞こえ、相変わらずの騒がしさに笑ってしまう。
なぜ帰省しているのかと言えば、アパートに大穴を開けられた件について社長に連絡したら、しばらく休暇をくれることになったためである。
「ほう、ここが小娘の育った家か。意外と大きいじゃないか」
「まあね。大家族だし、仕方ないと思うよ」
「この騒がしいのはお主の兄妹か?」
「うん」
頷いた私は横に並ぶ水樹と波留と共に玄関へ近付き、インターホンを鳴らす。
すると中から返事と共にドタドタと騒がしい足音が聞こえ、やがて引き戸が勢いよく開かれた。
「おお、よく帰って来たな。てか、本当に子ども出来てんのな」
今年で高校2年になる次男の晴人が揶揄うように笑う。
実際は違うことを理解していそうなその様子に少しイラッとした私はミワをむぎゅと抱きしめながら。
「可愛いでしょ。私の自慢の娘だから」
「……マジで姉貴の子どもなの?」
途端にヘラヘラしていた態度から真剣なものに変わり、後ろで話を聞いていた水樹が吹き出した。
それを見て嘘だと理解した様子で晴人は不機嫌そうに中へと戻って行き、私たちもその後を追うように中へ入る。
懐かしい木の香りを嗅ぎながら玄関を見渡すと、母の綺麗好きは変わっていないらしく、あの頃と同じ清潔感が漂っている。
と、ミワが靴を脱いで上がりながら。
「ほお、こんなに清潔な家に住むのは初めてだ。吾輩はここに住んでも良いな」
「待って、それって私の部屋が汚かったって事?」
「そうだが?」
知らなかったのかとでも言いたげな目を向けて来るミワに言い返そうとするが、あまり丁寧な掃除をしていなかった自覚もあって言葉が出ない。
ケッと小馬鹿にするように鼻で笑う彼女に顔を赤くする事しか出来ないでいると、波留が何か思い出したようにケラケラと笑って。
「そう言えばお姉ちゃんが仕事行ってる間ゴキブリが出てミワが泣いて逃げ回ってたもんね。そりゃ汚いって言いたくなるわあ」
「な、内緒にすると約束しただろう?!」
顔を真っ赤に染めて波留に掴みかかるミワを見て、私はさっきまでの態度に納得する。
ゴキブリに追い掛け回されるなんてことになったら、そりゃお前の部屋は汚いと言いたくなるものだ。
少なくとも私なら言う。
「玄関で何を騒いでるの?」
廊下の奥から掛けられた声の主へ目をやると、久しぶりの母の姿が見えた。
その顔は最後にここを出た時と大して変わっておらず、実年齢が五十を超えるとは思えない若々しいオーラがある。
「とっとと上がって、居間でゆっくりしたら? あやかしのこととか、色々分かったこと教えてあげるから」
「おお、ありがとう!」
私は遂に自分の血に宿るあやかしの正体を知れるかもしれないという事実に胸を躍らせながら、三人と共に家へ上がった。
24
お気に入りに追加
1,439
あなたにおすすめの小説
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う
ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。
煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。
そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。
彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。
そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。
しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。
自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。
ルナール古書店の秘密
志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。
その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。
それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。
そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。
先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。
表紙は写真ACより引用しています
安息を求めた婚約破棄
あみにあ
恋愛
とある同窓の晴れ舞台の場で、突然に王子から婚約破棄を言い渡された。
そして新たな婚約者は私の妹。
衝撃的な事実に周りがざわめく中、二人が寄り添う姿を眺めながらに、私は一人小さくほくそ笑んだのだった。
そう全ては計画通り。
これで全てから解放される。
……けれども事はそう上手くいかなくて。
そんな令嬢のとあるお話です。
※なろうでも投稿しております。
【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです
gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる