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59話 実家
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一人暮らしを始めた頃と何も変わらない実家を前に、懐かしさから溜息が出る。
家の中からはガヤガヤと騒がしい兄弟の声が聞こえ、相変わらずの騒がしさに笑ってしまう。
なぜ帰省しているのかと言えば、アパートに大穴を開けられた件について社長に連絡したら、しばらく休暇をくれることになったためである。
「ほう、ここが小娘の育った家か。意外と大きいじゃないか」
「まあね。大家族だし、仕方ないと思うよ」
「この騒がしいのはお主の兄妹か?」
「うん」
頷いた私は横に並ぶ水樹と波留と共に玄関へ近付き、インターホンを鳴らす。
すると中から返事と共にドタドタと騒がしい足音が聞こえ、やがて引き戸が勢いよく開かれた。
「おお、よく帰って来たな。てか、本当に子ども出来てんのな」
今年で高校2年になる次男の晴人が揶揄うように笑う。
実際は違うことを理解していそうなその様子に少しイラッとした私はミワをむぎゅと抱きしめながら。
「可愛いでしょ。私の自慢の娘だから」
「……マジで姉貴の子どもなの?」
途端にヘラヘラしていた態度から真剣なものに変わり、後ろで話を聞いていた水樹が吹き出した。
それを見て嘘だと理解した様子で晴人は不機嫌そうに中へと戻って行き、私たちもその後を追うように中へ入る。
懐かしい木の香りを嗅ぎながら玄関を見渡すと、母の綺麗好きは変わっていないらしく、あの頃と同じ清潔感が漂っている。
と、ミワが靴を脱いで上がりながら。
「ほお、こんなに清潔な家に住むのは初めてだ。吾輩はここに住んでも良いな」
「待って、それって私の部屋が汚かったって事?」
「そうだが?」
知らなかったのかとでも言いたげな目を向けて来るミワに言い返そうとするが、あまり丁寧な掃除をしていなかった自覚もあって言葉が出ない。
ケッと小馬鹿にするように鼻で笑う彼女に顔を赤くする事しか出来ないでいると、波留が何か思い出したようにケラケラと笑って。
「そう言えばお姉ちゃんが仕事行ってる間ゴキブリが出てミワが泣いて逃げ回ってたもんね。そりゃ汚いって言いたくなるわあ」
「な、内緒にすると約束しただろう?!」
顔を真っ赤に染めて波留に掴みかかるミワを見て、私はさっきまでの態度に納得する。
ゴキブリに追い掛け回されるなんてことになったら、そりゃお前の部屋は汚いと言いたくなるものだ。
少なくとも私なら言う。
「玄関で何を騒いでるの?」
廊下の奥から掛けられた声の主へ目をやると、久しぶりの母の姿が見えた。
その顔は最後にここを出た時と大して変わっておらず、実年齢が五十を超えるとは思えない若々しいオーラがある。
「とっとと上がって、居間でゆっくりしたら? あやかしのこととか、色々分かったこと教えてあげるから」
「おお、ありがとう!」
私は遂に自分の血に宿るあやかしの正体を知れるかもしれないという事実に胸を躍らせながら、三人と共に家へ上がった。
家の中からはガヤガヤと騒がしい兄弟の声が聞こえ、相変わらずの騒がしさに笑ってしまう。
なぜ帰省しているのかと言えば、アパートに大穴を開けられた件について社長に連絡したら、しばらく休暇をくれることになったためである。
「ほう、ここが小娘の育った家か。意外と大きいじゃないか」
「まあね。大家族だし、仕方ないと思うよ」
「この騒がしいのはお主の兄妹か?」
「うん」
頷いた私は横に並ぶ水樹と波留と共に玄関へ近付き、インターホンを鳴らす。
すると中から返事と共にドタドタと騒がしい足音が聞こえ、やがて引き戸が勢いよく開かれた。
「おお、よく帰って来たな。てか、本当に子ども出来てんのな」
今年で高校2年になる次男の晴人が揶揄うように笑う。
実際は違うことを理解していそうなその様子に少しイラッとした私はミワをむぎゅと抱きしめながら。
「可愛いでしょ。私の自慢の娘だから」
「……マジで姉貴の子どもなの?」
途端にヘラヘラしていた態度から真剣なものに変わり、後ろで話を聞いていた水樹が吹き出した。
それを見て嘘だと理解した様子で晴人は不機嫌そうに中へと戻って行き、私たちもその後を追うように中へ入る。
懐かしい木の香りを嗅ぎながら玄関を見渡すと、母の綺麗好きは変わっていないらしく、あの頃と同じ清潔感が漂っている。
と、ミワが靴を脱いで上がりながら。
「ほお、こんなに清潔な家に住むのは初めてだ。吾輩はここに住んでも良いな」
「待って、それって私の部屋が汚かったって事?」
「そうだが?」
知らなかったのかとでも言いたげな目を向けて来るミワに言い返そうとするが、あまり丁寧な掃除をしていなかった自覚もあって言葉が出ない。
ケッと小馬鹿にするように鼻で笑う彼女に顔を赤くする事しか出来ないでいると、波留が何か思い出したようにケラケラと笑って。
「そう言えばお姉ちゃんが仕事行ってる間ゴキブリが出てミワが泣いて逃げ回ってたもんね。そりゃ汚いって言いたくなるわあ」
「な、内緒にすると約束しただろう?!」
顔を真っ赤に染めて波留に掴みかかるミワを見て、私はさっきまでの態度に納得する。
ゴキブリに追い掛け回されるなんてことになったら、そりゃお前の部屋は汚いと言いたくなるものだ。
少なくとも私なら言う。
「玄関で何を騒いでるの?」
廊下の奥から掛けられた声の主へ目をやると、久しぶりの母の姿が見えた。
その顔は最後にここを出た時と大して変わっておらず、実年齢が五十を超えるとは思えない若々しいオーラがある。
「とっとと上がって、居間でゆっくりしたら? あやかしのこととか、色々分かったこと教えてあげるから」
「おお、ありがとう!」
私は遂に自分の血に宿るあやかしの正体を知れるかもしれないという事実に胸を躍らせながら、三人と共に家へ上がった。
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