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58話 成敗

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 バールを片手にこちらへ近付く鳩山の動きをゆっくりと観察する。
 完全な殺意を見せるその姿は普段であれば恐怖しか感じられないのだろうが、今は不思議と怒りだけが湧き上がる。
 すると素早い動きで鳩山の後ろに回り込んだ水樹が慣れた手つきでバールを取り上げた。
 驚いた様子で振り返った鳩山に水樹はにっこりと笑って。

「男なら正々堂々拳で戦えよ。丁度、あいつもお前の事ぶん殴りたいみたいだしなあ?」

 顔を青褪めさせた鳩山は黙って頷いてこちらを向き、ボクサーのようなファイティングポーズをする。
 しかし、そこから感じ取れる雰囲気から何となく素人なのだと察し、私はゆっくりと歩き出す。

「死ね!」

 顔は青くしたまま私の顔面目掛けて繰り出した拳を裏拳で弾き、今まで憎みに憎んだその顔面に全力の拳を叩き込んだ。
 骨の砕けるような音と共に勢いよく倒れ込んだ鳩山は呻き声を上げれど動く事は無く。
 あっさりと気絶させれてしまった事実に、私は困惑からその場で硬直した。
 と、鳩山の元に近付いた水樹が鼻で笑って。

「こいつ、鼻と前歯折れてんな。お前怪物かよ」

「同じ目に遭わせてあげようか」

 余計な一言を付け加えてくれた水樹にジト目を向けながら言うと、「滅相もありません」とだけ言って鳩山の拘束を始めた。
 何となく後ろを振り返ると若干引いた様子の波留と、面白そうに笑うミワの姿があり、私は何だと問う。
 
「小娘、貴様は吾輩よりも怪物だな。誇って良いぞ」

「やかましい。っていうか、乙女に大して怪物って本当に失礼だからね」

「面白い冗談だ」

 この小生意気な蛇は絶対に辱めを受けさせてやる。
 と、外でパトカーのサイレンが聞こえる事に気付き、私は玄関の鍵を開けに向かった。
 
 それから数分後、到着した警察によって鳩山は連れて行かれ、私たちはその場で事情聴取を受けることになった。
 流石に警察官でもこれほど度の過ぎた犯罪者は見たことが無いらしく、話しを聞いてくれた人たちは皆一様に顔を引きつらせていたのはここだけの話だ。
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