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57話 奇襲

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 喉の渇きで目が覚め、私は欠伸をしながら起き上がる。
 横を見れば幸せそうにミワを抱き締める波留の姿があり、その寝顔は十年前と変わらないものがあり、何となく実家で暮らしていた頃を思い出す。
 しかし、すぐに喉の渇きによって思い出が消し飛び、私は眠気が冷めぬうちにとベッドを出る。

「どうした、トイレか?」

 こんな時間だと言うのに作業をしていたらしい水樹の言葉に、私は喉が渇いただけと答えながら台所に向かう。
 さっき洗ったばかりのコップを棚から取り出し、軽く濯いでから水道水を汲む。
 ひんやりと冷たい水によって眠気がほぼ完全に吹き飛んでしまい、これから寝るのは難しいであろうことを察しながら布団へ戻ろうとすると、外で車が急停車する音が聞こえた。
 
 何となく嫌な予感がした私はベランダへと出て、心地良い夜風に吹かれながら車道の方へ目を向ける。
 そこから見えたのはサイドミラーやドアが無くなったボロボロのバンで、どういう訳かこのアパートの方を向いてエンジンを吹かしている。
 暗さ故に運転席は見えないが、その異様な雰囲気に押される様にして私は眠りこける二人を起こすことに決め、小走りで駆け寄る。

「外のうるさいのなんだ?」

「ボロボロのバンがエンジン吹かしてるの。しかもこっち向いた状態で」

「突っ込んで来る気じゃねえよな?」

 そう呟きながら水樹はリモコンで常夜灯から普通の明かりに変え、その間に私は眠りこける波留とミワを起こすべく体を揺さぶる。
 すると車の走り出す音が近付いて来ている事に気付き、私は慌てて寝惚け眼な二人に被さるようにして飛び込んだ。
 ――車が突っ込んで来たのは、それと同時だった。

 部屋は大きく揺れて背に破片が当たり、波留が混乱した様子で悲鳴を上げる。
 車のエンジン音が聞こえなくなったところで後ろを振り返ると、そこにはさっきのバンが突っ込んでいて、そこにあったはずの本棚はぺしゃんこに潰れている。
 運転席にめをやれば中からフロントガラスを蹴り破ろうとしている男の姿が見え、私は何となくその正体が誰なのか察した。
 二人にケガが無いかを確認した私は起き上がるのと同時に車から男――改め鳩山が現れ、にんまりと気色悪い笑みを浮かべる。

「よお……待たせたな」

 煽るようにそう言った彼はバールを握り直し、ゆっくりとこちらへ歩き出す。
 そんな姿を見て、私の中に湧き上がったのは恐怖でも何でも無く、何ものにも代えがたい怒りだけで――
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