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53話 蛇と鳩
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「いやぁ、説明分かりやすくて助かりますわぁ!」
ヘラヘラと媚びへつらう鳩山に矢壁先輩は嬉しそうに笑う。
しかし、その隣の七海は何か勘付いている様子で、仕事道具を片付けながら鳩山を睨み付けている。
もしかしたら、さっきのやり取りを聞いてしまったのかもしれない。
「深川、ちょっと良いか?」
隣でパソコンの電源を落としていた猫田さんの囁き声に反応してそちらを向けば、心配した様子で私を見つめていた。
「あの男に何言われた?」
「……言えないです」
もう全て吐き出したい気持ちが喉まで上がって来るが、何をして来るかも分からないあの男の事を考えると、その気持ちは自然と消えてしまう。
猫田さんはしばらくじいっと私を見ていたが、やがて諦めたように一つ溜息を吐いて。
「分かった、話せるようになったらその時にな」
「はい」
それが一体いつになるのか分からないが、味方がいるだけでも大村の頃よりはずっと気が楽だ。
私は自分にそう言い聞かせ、もやもやした様子の猫田さんと一緒に、エレベーターの前へ移動する。
一階で止まっていたエレベーターがゆっくりと上がって来るのを表示灯で確認していると、荷物をまとめた鳩山と矢壁先輩が私たちの斜め後ろに並んだ。
「ここの自販機、エナドリ全く無いんすね! これってつまり、残業する必要が無いから置いて無いって事すよね?」
「そういうこと。偶に眠くなることがあるから飲む事あるけど、残業で飲むことはほとんど無いよ」
気分良さげに答える矢壁先輩に鳩山は大仰に振舞い、大村の頃を再び思い出してしまった私は自然と溜息が出る。
と、丁度良いのか悪いのか、そんなタイミングでエレベーターが到着し、私たちが乗り込むとすぐに動き出す。
「それにしても、まさか深川がここにいるなんて思わなかったなあ。また同じ職場で働けるなんて驚いたわ」
「……そうだね」
私のアパートを特定しておきながら驚いたとは何の冗談だろうか。全く笑えない。
再び溜息が出そうになるのをグッと堪えているとエレベーターが一階に到着し、私はそそくさとこの最悪な密室から抜け出す。
出入口近くのベンチにミワと鬼塚社長が座っているのが見え、不思議と安心感が湧き出しながら近付くと、二人はこちらに気付いた様子で手を振った。
「何だお前、社長と仲良くなってんの?」
ヘラヘラと話し掛けて来た鳩山は胸ポケットから名刺を取り出しながら鬼塚社長の元へ駆けて行き。
「初めまして、鳩山海斗と言います! 今日からここで働くことになりました!」
「あー、あんたが飯塚にスカウトされた新人か。頑張ってな」
鬼塚社長はあまり興味無さそうにそう言って、鳩山の差し出した手の先を少しだけ握る。
すると鳩山はミワに気付き、頭を撫でようと言うのか手を伸ばしながら。
「もしかしてその子、社長のお子さんですか? かわいい……なぁ」
触られたくない、私がそう思うのと同時、鳩山は急に手を引っ込めて顔を逸らした。
その不振極まりない行動に疑問が湧き上がりながら私たちが近付くと同時、ミワは鳩山を指差して。
「貴様、この前の盗人では無いか。何故ここにいる?」
爆弾発言によって鳩山には幾つもの視線が突き刺さる。
私はそんな光景を眺めながら警察を呼ぶ準備を始め、猫田さんは小さな声で「犯罪者かよ……」と呟いた。
ヘラヘラと媚びへつらう鳩山に矢壁先輩は嬉しそうに笑う。
しかし、その隣の七海は何か勘付いている様子で、仕事道具を片付けながら鳩山を睨み付けている。
もしかしたら、さっきのやり取りを聞いてしまったのかもしれない。
「深川、ちょっと良いか?」
隣でパソコンの電源を落としていた猫田さんの囁き声に反応してそちらを向けば、心配した様子で私を見つめていた。
「あの男に何言われた?」
「……言えないです」
もう全て吐き出したい気持ちが喉まで上がって来るが、何をして来るかも分からないあの男の事を考えると、その気持ちは自然と消えてしまう。
猫田さんはしばらくじいっと私を見ていたが、やがて諦めたように一つ溜息を吐いて。
「分かった、話せるようになったらその時にな」
「はい」
それが一体いつになるのか分からないが、味方がいるだけでも大村の頃よりはずっと気が楽だ。
私は自分にそう言い聞かせ、もやもやした様子の猫田さんと一緒に、エレベーターの前へ移動する。
一階で止まっていたエレベーターがゆっくりと上がって来るのを表示灯で確認していると、荷物をまとめた鳩山と矢壁先輩が私たちの斜め後ろに並んだ。
「ここの自販機、エナドリ全く無いんすね! これってつまり、残業する必要が無いから置いて無いって事すよね?」
「そういうこと。偶に眠くなることがあるから飲む事あるけど、残業で飲むことはほとんど無いよ」
気分良さげに答える矢壁先輩に鳩山は大仰に振舞い、大村の頃を再び思い出してしまった私は自然と溜息が出る。
と、丁度良いのか悪いのか、そんなタイミングでエレベーターが到着し、私たちが乗り込むとすぐに動き出す。
「それにしても、まさか深川がここにいるなんて思わなかったなあ。また同じ職場で働けるなんて驚いたわ」
「……そうだね」
私のアパートを特定しておきながら驚いたとは何の冗談だろうか。全く笑えない。
再び溜息が出そうになるのをグッと堪えているとエレベーターが一階に到着し、私はそそくさとこの最悪な密室から抜け出す。
出入口近くのベンチにミワと鬼塚社長が座っているのが見え、不思議と安心感が湧き出しながら近付くと、二人はこちらに気付いた様子で手を振った。
「何だお前、社長と仲良くなってんの?」
ヘラヘラと話し掛けて来た鳩山は胸ポケットから名刺を取り出しながら鬼塚社長の元へ駆けて行き。
「初めまして、鳩山海斗と言います! 今日からここで働くことになりました!」
「あー、あんたが飯塚にスカウトされた新人か。頑張ってな」
鬼塚社長はあまり興味無さそうにそう言って、鳩山の差し出した手の先を少しだけ握る。
すると鳩山はミワに気付き、頭を撫でようと言うのか手を伸ばしながら。
「もしかしてその子、社長のお子さんですか? かわいい……なぁ」
触られたくない、私がそう思うのと同時、鳩山は急に手を引っ込めて顔を逸らした。
その不振極まりない行動に疑問が湧き上がりながら私たちが近付くと同時、ミワは鳩山を指差して。
「貴様、この前の盗人では無いか。何故ここにいる?」
爆弾発言によって鳩山には幾つもの視線が突き刺さる。
私はそんな光景を眺めながら警察を呼ぶ準備を始め、猫田さんは小さな声で「犯罪者かよ……」と呟いた。
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