さらばブラック企業、よろしくあやかし企業

星野真弓

文字の大きさ
上 下
57 / 106

51話 新人

しおりを挟む
「良い子にしてるんだよ? 暴れたりしたらダメだからね?」

「やかましいわ小娘が。吾輩を子ども扱いするな」

 ミワが反抗的にそう言い返すと同時、エレベーターの扉は閉まって行き。
 見えなくなるまで見送った私は何故だか寂しく思いながら自席へと向かう。
 と、飲み物を買いに来たらしく財布を片手に持った七海が角から現れ、私と目が合うとにっこり笑う。

「おっはよー。今日は新人さんが来るって聞いた?」

「天狗木さんから聞いたよ。どんな人なのかって分かる?」

「全然。傘部長が内緒だって言って教えてくれなかった」

 やはり、まだ教えられてないか。早いところ誰が来るか分からない不安から解放されたかったのだが。
 そんな事を考えながら七海と別れ、自席に着くとまだ木綿谷さんしか来ていなかった。
 理由を聞いてみると三十分程度前に何人か来ていたが、昼食を食べに二口食堂に行ってしまったのだと言う。
 それならもう少し前に来て一緒に行けば良かったと、少し後悔しながら仕事の前準備を始めていると――

「ひゃっ!」

 いきなりうなじに冷たいものを当てられ、思わず変な声が出た。
 何だと振り返ればお茶の入ったペットボトルとジュースの入ったそれを二本持ち、イタズラが成功したという笑みを浮かべる七海の姿があった。

「ビックリした?」

「寿命縮むから辞めてね」

「まあまあ、そう言わずに。これ上げるから」

「……今回だけだからね」

 物を貰ってしまうと強く言えない自分が情けない。
 それからしばらく七海と他愛も無い話をして時間を過ごしていると、少し遅れて猫田さんがやって来た。
 何でも時間に余裕があるからと、猫に構ってやっていたら少し遅れてしまったらしい。
 それを横でお茶を飲みながら聞いていた七海はおかしそうに笑ってスーツを指差すと。

「スーツに引っ掻いた跡があるのはそう言う事なんだ?」

「え、マジ?」

 よく見れば二の腕の辺りに、猫が引っ掻いたのであろう傷が付いていて、まだ行かないでとしがみ付かれたのだと察する。
 しかし、猫田さんは大して気にする様子無く、何か思い出した様子で。

「それより、新人が来るって昨日木綿谷から連絡が来たけど本当か? どんな奴か聞いてる?」

「まだ誰も聞いてないみたいです。大村から来たという話は聞きましたけど……」

 ジュースの入ったペットボトルを片手にそう答えると、猫田さんは「げっ……」と嫌そうな顔をする。

「よりによって大村かよ。マジで碌なやついなかったから不安しかねえな」

「私もあそこの知り合いでまともだったのが部下だけだったので、ちょっと心配なんですよね」

 あの上司はもちろんのこと、全く働かない癖して私の作成した表などに対してグチグチと文句を言って来る部長だったり、仕事中に嫌味たらしく彼氏自慢をして来る同僚だったりと、本当にまともと言える人間がいなかった。
 ……あやかしデジタルここの人事部の人たちを信じよう。

「お、皆さんもう集まっていマスネ?」

 唐突に独特な片言な言葉が響き、新人がどんな人かを予想して遊んでいた皆が目を向ける。
 
「おやおや、新人さんが来ることは知っていましたか。では、来てもらいましょうか」

 エレベーター側の私たちからは死角となるところへ傘部長が手招きすると、その新人は堂々とした歩き方で現れた。

「どうも、大村から来ました――鳩山海斗です」

 最悪の新人は私と目が合うと、気持ちの悪い笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

処理中です...