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50話
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スーツに着替えた私は充電の完了したスマホと鞄を手に取り、蛇の姿に戻ったミワの頭を軽く撫でてから玄関へ向かう。
今日も今日とて私のベッドに寝転がっていた波留が見送りをしに後を付いて来る。
「ミワちゃんのことは任せて。私がちゃんと守ってあげるから」
「それ以上嫌われないようにね」
言ってる傍から波留はミワを抱き締めて頬ずりを始め、関係の悪化はますます深まりそうだと察する。
と、作業を終えてスッキリした様子の水樹が体を軽く伸ばしながら。
「俺がミワちゃん守ってやるから安心して会社行って来い。強盗が来たら俺が首取ってやるから」
「私の家を事故物件にしないで」
この兄はやろうと思えば本当にそれが出来てしまいそうだから恐ろしい。
思わず溜息を吐きながら波留の腕の中から逃げ出して私の元へ来たミワを撫でて気分を落ち着かせていると、アパートの前に聞き覚えのあるエンジン音とともに車が停止する音が聞こえた。
何となく察しながら玄関扉を開け、外の様子を伺うと昨日私が載せて貰ったのと同じ車で。
運転席から降りて来る天狗木さんの姿も一緒に見えた。
「……ミワ? 何で天狗木さんが来てるか知ってる?}
元凶であろうミワに尋ねると、幼女の姿に戻った彼女は「あっ」と少し間抜けな顔をして。
「昨日別れ際に明日迎えを寄越すと話していたな。吾輩の事をもっと調べたいとかなんとか……」
「そう言う大事なことはちゃんと言ってくれないかな?」
「忘れていたのだから仕方あるまい。悪意は無いのだから許せ」
そう言っててへと笑って見せたミワに、私は文句を言いたい気持ちと許してしまいたい気持ちが入り乱れる。
この様子だと可愛いから何でも許されると思っているのだろう。ここで許してしまえば、今後も調子に乗るようになってしまうかもしれない。
しかし――
「許してあげるのは今回だけだからね?」
「うむ、肝に銘じる」
ニヘラと笑ったミワの手を取り、クスクスと腹の立つ笑い方をする二人を無視して部屋を出る。
すると待っていましたとばかりにこちらへ駆けて来た天狗木さんが私たちに一礼して。
「お待ちしておりました。それでは、ご乗車ください」
「は、はい」
二日連続、会社から迎えが来ているという事実を前に腹痛を覚えながら私はミワを連れて車に乗り込む。
私の部屋の座椅子よりも圧倒的に座り心地の良い座席に腰掛け、シートベルトをしていると、運転席に乗り込んだ天狗木さんが何かを思い出したようにこちらを向いて。
「今日から新しい社員さんが深川様の部署に配属されるそうです。何でも、大村から来た人だとか」
「大村、ですか」
何だか久振りに聞いた名前だ。早いところ倒産して欲しいものだ。
まともな人であることを祈りながらミワのシートベルトを付け終えると、車はエンジン音を鳴らして動き出す。
やがてミワは腕に抱き着きながら横ですやすやと寝息を立て始め、その様子を写真に収めた私は波留にそれを送り付け。
嫉妬のスタンプ連打を喰らったのはそれからすぐのことだった。
今日も今日とて私のベッドに寝転がっていた波留が見送りをしに後を付いて来る。
「ミワちゃんのことは任せて。私がちゃんと守ってあげるから」
「それ以上嫌われないようにね」
言ってる傍から波留はミワを抱き締めて頬ずりを始め、関係の悪化はますます深まりそうだと察する。
と、作業を終えてスッキリした様子の水樹が体を軽く伸ばしながら。
「俺がミワちゃん守ってやるから安心して会社行って来い。強盗が来たら俺が首取ってやるから」
「私の家を事故物件にしないで」
この兄はやろうと思えば本当にそれが出来てしまいそうだから恐ろしい。
思わず溜息を吐きながら波留の腕の中から逃げ出して私の元へ来たミワを撫でて気分を落ち着かせていると、アパートの前に聞き覚えのあるエンジン音とともに車が停止する音が聞こえた。
何となく察しながら玄関扉を開け、外の様子を伺うと昨日私が載せて貰ったのと同じ車で。
運転席から降りて来る天狗木さんの姿も一緒に見えた。
「……ミワ? 何で天狗木さんが来てるか知ってる?}
元凶であろうミワに尋ねると、幼女の姿に戻った彼女は「あっ」と少し間抜けな顔をして。
「昨日別れ際に明日迎えを寄越すと話していたな。吾輩の事をもっと調べたいとかなんとか……」
「そう言う大事なことはちゃんと言ってくれないかな?」
「忘れていたのだから仕方あるまい。悪意は無いのだから許せ」
そう言っててへと笑って見せたミワに、私は文句を言いたい気持ちと許してしまいたい気持ちが入り乱れる。
この様子だと可愛いから何でも許されると思っているのだろう。ここで許してしまえば、今後も調子に乗るようになってしまうかもしれない。
しかし――
「許してあげるのは今回だけだからね?」
「うむ、肝に銘じる」
ニヘラと笑ったミワの手を取り、クスクスと腹の立つ笑い方をする二人を無視して部屋を出る。
すると待っていましたとばかりにこちらへ駆けて来た天狗木さんが私たちに一礼して。
「お待ちしておりました。それでは、ご乗車ください」
「は、はい」
二日連続、会社から迎えが来ているという事実を前に腹痛を覚えながら私はミワを連れて車に乗り込む。
私の部屋の座椅子よりも圧倒的に座り心地の良い座席に腰掛け、シートベルトをしていると、運転席に乗り込んだ天狗木さんが何かを思い出したようにこちらを向いて。
「今日から新しい社員さんが深川様の部署に配属されるそうです。何でも、大村から来た人だとか」
「大村、ですか」
何だか久振りに聞いた名前だ。早いところ倒産して欲しいものだ。
まともな人であることを祈りながらミワのシートベルトを付け終えると、車はエンジン音を鳴らして動き出す。
やがてミワは腕に抱き着きながら横ですやすやと寝息を立て始め、その様子を写真に収めた私は波留にそれを送り付け。
嫉妬のスタンプ連打を喰らったのはそれからすぐのことだった。
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