上 下
54 / 106

48話 絵師

しおりを挟む
 私の膝上でとぐろを巻くミワの背をゆっくりと撫でる。
 洗ったばかりな事もあってその体は温かく、まるで湯たんぽを膝に乗せているかのようだ。

「お姉ちゃんばかりズルくない? 何で私の事は嫌がるのさ」

「貴様はしつこすぎる。神への接し方を学び給え」

「まだまだだな我が妹よ。子どもって言うのは構って欲しいって言ってる時に構ってあげるものなのだよ」

「吾輩を子ども扱いするな。それと口調の真似も止めろ!」

 不機嫌そうに睨み付けて来るミワだが、撫でられるのは気持ち良いらしく、私の膝上から動く様子は無い。
 何の神か分かったところで、やはりミワはミワのままだ。この可愛らしさはずっと残って欲しいものだ。
 と、ドライヤーで髪を乾かし終えた水樹が水道水をコップに組みながら。

「イチャイチャしてるところ悪いけど、俺これから仕事初めて良いか?」

「ニート卒業したんだ。知らなかった」

「俺は一度もニートになってねえよ。ちゃんとイラストレーターやってるっつうの」

 半笑いで言い返しながら水をグビッと一気飲みした水樹はコップを軽く水でゆすぎ、もう一度水道水を入れてこちらへやって来る。
 てっきり仕事が無いからこっちに来たのだと思っていたが、どうやらそんな事は無かったらしい。
 と、膝上で私を見上げるミワが首を傾げながら。

「いらすとれーたーとは何だ?」

「か、可愛い……」

「し、質問に答えよ!」

 思わず下顎を指で撫でまわすとミワは尻尾をべしべしと振り回して抵抗して見せる。
 すると自分のノートパソコンを開き、作業の準備を始めた水樹が。

「イラストレーターってのは要は絵描きだ。本の表紙とかポスターとか作るんだよ」

「ほう……では吾輩を書いても良いのだぞ?」

「依頼されたやつ終わって気力が残ってたらな」

 少し意地の悪い笑みを見せた水樹を見てどんな絵を描くつもりなのか何となくで察する。
 この性格の悪い兄貴のことだ。それはそれは可愛らしい服装に仕立て上げ、ミワの事を赤面させる事だろう。
 ――過去に私もやられたし。

 嫌な記憶が蘇ったことで気分がげんなりした私はもう寝ることに決め、どんな風に描かれるのか楽しみにしている様子のミワを抱き抱えてベッドへ入る。
 さっきまで波留が寝転がっていた事もあってほんのりと温かく、布団の冷たい感触が好きな私は非常にもやもやして仕方ない。
 
 しかし今日一日で色々な事があった私は次第に瞼が重くなり始め。
 気付けばミワを抱き枕に夢の世界へ旅立っていた。
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。 煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。 そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。 彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。 そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。 しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。 自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。

ルナール古書店の秘密

志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。  その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。  それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。  そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。  先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。  表紙は写真ACより引用しています

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...