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44話 心配

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 鬼塚社長は平気だと言っていたが、あのミワが何か失礼極まりないことをしていないか不安で仕方ない。
 私の事を小娘と呼んだ様に、小僧とでも呼んだりしていそうな気がして恐怖さえ感じる。
 思わず溜息を吐くと同時、エレベーターの扉が開き、降りようとするとそこには自販機を眺める七海の姿があった。

「あ、おかえりー」

「ただいま」

 こちらを振り返りながら自販機のボタンを押した七海はポケットから硬貨を取り出す。

「社長婦人には飲み物奢らないとね?」

「婦人じゃないけど奢ってくれるなら甘える」

 この会話を社長に聞かれていたら一発でクビを言い渡されそうだが、奢って貰えるのであれば甘える外無い。
 そんな下衆な事を考えながら今日はお茶では無く、それより十円高いジュースを選ぶと、七海は少し予想外だった様子でぐぬぬと唸る。
 たった十円、されど十円。この精神はどうやら七海にもあったらしい。

「いつも安いお茶にするのに……」

「奢って貰えるからこそジュースにするんだよ。社長婦人は賢いからね」

「ちゃちい婦人だなぁ……」

 呆れたようにそんな事をぼやきながらも買ってくれた七海に礼を言って受け取り、彼女と共に自席の方へ向かう。
 すると今日はそんなに忙しい日では無かったらしく、少し暇そうにしている皆の姿があり、私は少しホッとしながら席に着いた。

 というのも、この会社ではゴールデンウィーク前などの忙しい日を除いて、基本的に残業などが禁止されている。
 それは言い換えれば今日出された仕事は時間内に終わらせなければならず、その日までに終わらせなければならなくなってしまうのである。
 大村のように大量の仕事を押し付けて来るなんてことがないおかげで苦にはなっていないから問題無いが、間に合わなかった時の事を考えると少し不安だったりする。

「お、戻ったか。暇だったから深川の分もある程度やっといたから安心してな」

「本当ですか?! ありがとうございます」

 想定外の猫田さんの言葉に思わず大きな声を出してしまった。
 少し恥ずかしく思いながらスリープモードになっているパソコンを動かし、本当にほとんど終わっている事実に改めて驚く。
 
「それにしても、まさかあんなに可愛い子どもがいるなんてなあ。いつ結婚したんだ?」

「お前、次そんなこと言ったら顎砕くからな」

 木綿谷先輩の揶揄い口調に猫田さんは顔を赤く染めながら言い返し、何だかその姿が可愛らしく見えながら仕事を始める。
 ……ミワが社長に対して失礼な事をしていないと良いのだが。
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