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白蛇と鬼
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正面の席に腰掛ける鬼の子を前に、吾輩は不思議と高揚感を覚える。
それはこの男も同じらしく、幼い子どものように目をキラキラと輝かせ、何から話そうかとウズウズしている。
「で、では、私は仕事に戻りますね」
「ああ、頑張ってくれ」
小娘に短く言葉を返した鬼の子は吾輩に目を戻し、少し前屈みの姿勢を取る。
何を質問されるのだろうかと予想しながらお茶を一口すすると同時、出て来た問は単刀直入なものであった。
「あんたは何者だ?」
「吾輩は蛇神だ。名前は忘れた」
蛇神という単語に反応した鬼の子を見て、吾輩はやっとこの反応を見られたことに嬉しさを感じる。
どこぞの小娘は喋れるだけの蛇として扱い、小娘の妹は最初こそ驚きはすれど、まるで普通の幼児のように扱いおった。
普通の反応を見れた事に内心喜びを感じていると、鬼の子は目を更に輝かせて。
「蛇神と言っても様々な種類がある。何か偉業を成したとか、そう言うのは無いか?」
「国を造ったな。それは偉業となるか?」
考える素振りを見せた鬼の子だったが、これと言って思い当たらない様子で唸る。
吾輩の功績は遥か昔のこと。何千年と経った今、そんな物が言い伝えられている訳が無いか。
少し寂しく思いながら再び緑茶を啜っていると、鬼の子は話題を変えて。
「深川とは一体どこで出会った? 神社とかか?」
「いいや、人間に殺されそうになってな。慌てて逃げ込んだ先があの娘の家だった」
「怖がられなかったのか?」
「可愛がられたな」
あの時は本当に驚いたものだ。
人間の女も男も吾輩を見るなり臭いガスを吹き掛けて来たり、書物のようなもので殴りかかって来たりと、必ず攻撃的な行動を見せたのに、あの小娘は吾輩を見るなり手を伸ばして来た。
認めるのは癪だがあの時は嬉しかったものだ。
しばらく考える素振りを見せていた鬼の子は、「よし」と呟いて立ち上がると付いて来るように言って部屋の出口へ歩き始める。
どこに行くつもりなのか少し疑問に思いながらその後を追って部屋を出ると、向かっていた先はエレベーターだった。
「どこへ行く?」
「地下だ。まあ、着いたら分かる」
そう言って鬼の子は『B3』と書かれたボタンを押した。
少しの浮遊感と共にエレベーターは止まる事無く下がって行き、やがて空気がどんよりとした階層に到着する。
「……何だここは」
「凄いだろ? 集めるのに苦労したんだ」
自慢げにそう言った鬼の子が手で差し示した先。
そこには古めかしい書物がぎっちりと詰め込まれた巨大な本棚が並び、部屋の奥ではその書物を読んでいるあやかしの匂いを漂わせる人間達が見える。
吾輩はその光景が依然見た動画と似ている事に気付き、恐る恐る尋ねる。
「強制労働してるのか?」
「俺を何だと思ってんだ。バカなこと言ってないで付いて来い」
何言ってんだこいつとでも言いたげな目を向けた鬼の子は先を歩き始め。
吾輩はここなら見つかるかもしれないと、少しの期待を胸にその後を追った。
それはこの男も同じらしく、幼い子どものように目をキラキラと輝かせ、何から話そうかとウズウズしている。
「で、では、私は仕事に戻りますね」
「ああ、頑張ってくれ」
小娘に短く言葉を返した鬼の子は吾輩に目を戻し、少し前屈みの姿勢を取る。
何を質問されるのだろうかと予想しながらお茶を一口すすると同時、出て来た問は単刀直入なものであった。
「あんたは何者だ?」
「吾輩は蛇神だ。名前は忘れた」
蛇神という単語に反応した鬼の子を見て、吾輩はやっとこの反応を見られたことに嬉しさを感じる。
どこぞの小娘は喋れるだけの蛇として扱い、小娘の妹は最初こそ驚きはすれど、まるで普通の幼児のように扱いおった。
普通の反応を見れた事に内心喜びを感じていると、鬼の子は目を更に輝かせて。
「蛇神と言っても様々な種類がある。何か偉業を成したとか、そう言うのは無いか?」
「国を造ったな。それは偉業となるか?」
考える素振りを見せた鬼の子だったが、これと言って思い当たらない様子で唸る。
吾輩の功績は遥か昔のこと。何千年と経った今、そんな物が言い伝えられている訳が無いか。
少し寂しく思いながら再び緑茶を啜っていると、鬼の子は話題を変えて。
「深川とは一体どこで出会った? 神社とかか?」
「いいや、人間に殺されそうになってな。慌てて逃げ込んだ先があの娘の家だった」
「怖がられなかったのか?」
「可愛がられたな」
あの時は本当に驚いたものだ。
人間の女も男も吾輩を見るなり臭いガスを吹き掛けて来たり、書物のようなもので殴りかかって来たりと、必ず攻撃的な行動を見せたのに、あの小娘は吾輩を見るなり手を伸ばして来た。
認めるのは癪だがあの時は嬉しかったものだ。
しばらく考える素振りを見せていた鬼の子は、「よし」と呟いて立ち上がると付いて来るように言って部屋の出口へ歩き始める。
どこに行くつもりなのか少し疑問に思いながらその後を追って部屋を出ると、向かっていた先はエレベーターだった。
「どこへ行く?」
「地下だ。まあ、着いたら分かる」
そう言って鬼の子は『B3』と書かれたボタンを押した。
少しの浮遊感と共にエレベーターは止まる事無く下がって行き、やがて空気がどんよりとした階層に到着する。
「……何だここは」
「凄いだろ? 集めるのに苦労したんだ」
自慢げにそう言った鬼の子が手で差し示した先。
そこには古めかしい書物がぎっちりと詰め込まれた巨大な本棚が並び、部屋の奥ではその書物を読んでいるあやかしの匂いを漂わせる人間達が見える。
吾輩はその光景が依然見た動画と似ている事に気付き、恐る恐る尋ねる。
「強制労働してるのか?」
「俺を何だと思ってんだ。バカなこと言ってないで付いて来い」
何言ってんだこいつとでも言いたげな目を向けた鬼の子は先を歩き始め。
吾輩はここなら見つかるかもしれないと、少しの期待を胸にその後を追った。
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