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43話 揶揄い合い

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「それで、さっき言っていた話とは何だ?」

 お茶を飲みながら呟いたミワに、紅茶を飲もうとしていた私は完全にその事を忘れていたことに気付く。
 ミワはそんな私を見て呆れたように鼻で笑うと、

「ポンコツだな。そんなでよく吾輩を娘扱い出来たものだ」

 そう言って私がさっき用意してあげた緑茶をちびちびと口にする。
 無性に悔しくなって来た私はニッコリと笑みを見せ、その真っ白で触り心地の良い長髪を撫でながら。

「そっかあ、美味しいお肉はもう食べたく無いかあ」

「ぐふっ」

 どうやらこの一言は聞いたらしく、ミワはお茶を噴き出しそうになりながら私にジト目を向けた。
 と、下らないやり取りをボケーっと見つめていた波留が、以前私が買ったぬいぐるみを抱き抱えたまま。

「それで、話って何なの?」

「そ、そうだ! 話というのを聞こうじゃないか」

 まるで誤魔化すかのように同調したミワだったが、同調されたのが嬉しい様子の波留に抱き締められ、少し後悔したような表情を浮かべる。
 さて、これ以上脱線して話し忘れるなんてことが起こったら嫌だし、とっとと言ってしまおう。波留から奪い返すのは二の次だ。

「あのね、私が働いてる会社の社長がミワに会いたいって言ってるの。もしかしたら記憶が戻るかもしれないし、行ってみない?」

「なんだ、そんなことか。別に構わん」

 名も知らぬ相手なのだからもう少し警戒するのかと思っていたのだが、どうやらそんな事は無いらしい。
 するとベッド横で来客用の布団を敷いていた水樹が驚いた様子で。

「お前社長と仲良くなってんのか? もしかして前言ってた彼氏ってその社長の事だったのか?」

「彼氏なんていないし社長ともそんな関係じゃないから! あんたはとっとと寝る準備して寝なさい」

「お袋みたいなこと言うなよ。老けて見えるぞ」

「やかましいわ」

 相変わらずこの男は人の癇に障る事を言ってくれる。いつだったかの地獄を再現してやろうか。
 そんな野蛮な事を考えていると私のスマホが着信音を鳴らし、手に取ってみれば猫田さんからのメッセージが届いたようだった。
 アプリを開いてみればそこにはいつかの猫がソファの上で真っ白な腹を見せて寛ぐ姿があり、無性に撫でまわしたくなる魅力を感じる。
 
「その人が彼氏?」

「んな?!」

 さっきまで食卓を挟んだ反対側にいた筈の波留が、いつの間にかミワを抱えたまま真横に現れ、思わず変な声が出た。
 しかし波留は一切気にする様子無く勝手に会話を遡り始め、私が慌てて抵抗するとにんまりと笑みを浮かべて。

「なーんだ、心配すること無さそうだね」

「な、何が?」

「何でしょうねー。さて、私は先にミワちゃんとお風呂入って来るねー」

 それだけを言うと波留は抵抗を諦めた様子のミワを連れて風呂の方へ歩き出し。
 リビングに残された私は何かを見透かされたような焦燥と、今の発言の意味が分からない事によるモヤモヤに挟まれながら、猫田さんに返信のメールを打ち始めた。
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