さらばブラック企業、よろしくあやかし企業

星野真弓

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41話 

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 一通り話を聞いた鬼塚社長は何か考えるような素振りを見せる。 
 連れて来いと言われてしまうのだろうかと予想を立てていると、鬼塚社長はふむと一つ頷いて。

「その蛇が嫌がらなければだが、ここに連れて来てくれないか? 何なら、あんたが働いてる間はこちらで預かったって構わない」

「本当に大丈夫ですか? その……かなり上から目線でものを言って来ますけど」

「構わない。そういうのは慣れてるからな」

 何となくどこぞのブラック企業の社長を思い出した私は、彼のその言葉に少し納得した。
 
「そうだな、帰ってからその蛇に確認を取って、それから俺に連絡をしてくれ」

「分かりました。その……酷いことはしないですよね?」

「俺は話すだけだから安心しろ。それにロリコンでも無いしな」

 釘を刺すようにロリコンを否定した鬼塚社長に、心を見透かされたような気分になりながら私は愛想笑いを浮かべて見せた。
 どうやら私が内心で少し疑っている事に気付いていたらしい。流石は社長である。
 そう考えつつ、話せる事は話した私は立ち上がり。

「で、では、私は仕事に戻りますね」

「おう、頑張ってな」

 短く激励の言葉をくれた鬼塚社長に私は一礼して社長室を出た。
 緊張から開放されて肩が軽くなったような幻覚を覚えながら清掃の行き届いた廊下を歩き、エレベータの方へ向かっていると、不意に窓に映る絶景に目が吸い込まれた。
 雲一つ無い青空に照らされ、生き生きとしたこの街の景色は不思議な魅力を持ち、気付けば足が止まっていた。

「ここの景色、素晴らしいでしょう」

 唐突に声を掛けて来たのは、さっき私が遅れることを傘部長へ伝えに行っていた天狗木さんだった。
 
「はい、本当にいい景色です」

「私も休憩時間はここに来て眺めるんですよ。ここに来るのは自由ですから、来たい時に来てくれて構いませんよ」

「本当ですか? でしたら、またいつかここにお邪魔します」

 私はそれだけ言って天狗木さんに一礼し、慌ててエレベーターの方へ向かう。
 本当はもう少しぼーっと眺めていたかったが、そんな事をして仕事をサボっているわけにはいかないのである。
 自分にそう言い聞かせながら私の部署がある階層まで降り、エレベーターを出て足早に自席に向かうと、コピーを取ろうとしていたらしい七海が。

「おはよー。社長に呼び出されて何話されたの?」

「この前話した喋る蛇のことを聞かれただけだから気にしないで」

 少し心配したような声色を感じ取り、その優しさに嬉しく思いながら答え、自分の席に着いた私はパソコンの電源を付ける。 
 と、横で作業をしながら猫田さんが。

「まさか蛇の話がもう社長に知られてるとは驚いたな。会いたいとか言われたのか?」

「はい。良かったら連れて来てくれないかって話されました」

「記憶喪失みたいなこと言っていたよな。案外社長がその正体突き止めたりするかもな」

 私としても正体が気になるから是非突き止めて欲しいものだ。
 そんな事をぼんやりと考えながらいつも通り作業に入った私は知る由も無かった。

 ――ミワの正体がとんでもない大物であることを。
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