上 下
45 / 106

40話 知りたがり

しおりを挟む
 社員証を鞄に仕舞いながらエレベーターに乗り込み、誰もいないこの空間で私は一つ溜息を吐いた。
 その理由はと言えば、今日は家を出るのが遅かった事もあって結局猫田さんと会う事は無く、一人で会社に来ることになったからで、要は少し寂しかったのである。
 どうやらいつもならいる人がいないというのは思ったよりも効くらしい。

 そんな寂しさを紛らわそうとミワの事を考えていると目的では無い階に止まり、扉がゆっくりと開いた。
 私は普段通り邪魔にならない場所に動こうとするが、乗り込んで来た人物が人物なこともあって体が硬直する。

「久しぶりだな」

「お、お久しぶりです」

 唐突な鬼塚社長の登場によって緊張しながらエレベーターの端へ寄る。
 
「最近調子はどうだ? 仕事とか、何か困ったこととか無いか?」

「仕事は順調です。分からないところがあっても先輩が優しく教えてくれますし、問題は全くありません」

 最初からここに就職していれば、大村に就職したての時のような苦労をせずに済んだかもしれないと思うと、あの頃の自分にビンタしてやりたいくらいだ。
 鬼塚社長は「そうか」と呟き楽しげに笑うと、何かを思い出した様子で私に目を向けて。

「そう言えば喋るエビを買う事になったと聞いたが本当か?」

「は、はい。エビじゃなくて蛇ですけど飼う事になりました。もしかして猫田さんからですか?」

 もしかしたら今の私のようにエレベーターでばったり出会った時にでも話したのかもしれない。
 そう思って猫田さんの名を出したが、社長は「いや」と首を振って。

「各階を視察していた天狗木があんたと誰かが話してるのを耳に挟んだらしい。エビと聞き間違えてるがな」

 ガハハと笑った社長は話を続ける。

「それで、本当にその蛇は喋るのか?」

「はい、本当に喋ります。何なら幼女にもなります」

「……幻覚を見ているとかでは無いんだよな?」

 それは初めて遭遇した時の私も疑ったものだ。
 しばらく何か考える素振りをみせた鬼塚社長はふむと一つ頷き。

「ちょっと社長室まで来てもらって良いか? 詳しくその蛇について教えて欲しい」

「わ、分かりました」

 きっと話したらそうなるだろうなとは思っていたが、どうやら予想通りだったらしい。
 もしかしたらミワの正体を突き止める事も出来るかもしれないし、必要とあらばここへ連れて来ても良いかもしれない。

 そう考えながら本来降りるはずだった階を無視して、エレベーターは社長室のある最上階へ登って行く。
 停止したエレベーターから降りると待っていたらしい天狗木さんが「お待ちしておりました」と言いながら頭を下げ、鬼塚社長は楽にするよう言って。

「傘に深川は遅れると伝えてくれ。少し話をするから」

「了解です。行って参ります」

 短く言葉を返した天狗木さんはエレベーターに乗り込んで降りて行き、鬼塚社長は付いて来るように行って先を歩き始める。
 返事をしながらその後を追うといつぞやに来た時と変わらない様子の社長室に通され、私と社長はそれぞれ高級感のある席に腰掛けた。

「さて、喋れる蛇について教えてもらおうか」

 幼い子供のように目を輝かせる鬼塚社長に、自然と緊張感が緩みながら私はミワのことについて、出会った時から現在までのことを話した。
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!

黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。 ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。 観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中… ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。 それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。 帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく… さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ
ファンタジー
兄は知らない、俺を無能だと馬鹿にしあざ笑う兄は真実を知らない。 本当の無能は兄であることを。実は俺の能力で勇者たりえたことを。 俺の能力は、自分を守ってくれる勇者を生み出すもの。 どれだけ無能であっても、俺が勇者に選んだ者は途端に有能な勇者になるのだ。 だがそれを知らない兄は俺をお荷物と追い出した。 ならば俺も兄は不要の存在となるので、勇者の任を解いてしまおう。 かくして勇者では無くなった兄は無能へと逆戻り。 当然のようにパーティは壊滅状態。 戻ってきてほしいだって?馬鹿を言うんじゃない。 俺を追放したことを後悔しても、もう遅いんだよ! === 【第16回ファンタジー小説大賞】にて一次選考通過の[奨励賞]いただきました

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...