さらばブラック企業、よろしくあやかし企業

星野真弓

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実家にて

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 スマホの画面に映るサンドウィッチを食べる可愛らしくも美しさのある幼女。
 そして『子どもならいるよ?』という一文。
 私は思わず『やば』と返信しながらベッドから起き上がり、リビングでがやがやと騒いでいる皆の元へ駆け出す。
 今日も今日とて飽きもせずにゲームを楽しんでいる兄貴たちの元へ来た私は全員に聞こえるように。

「桂里奈姉ちゃんに子供出来た!」

 その一言で騒がしかったリビング内は一気に静まり返り、ゲームをしていた兄貴たちだけではなく、恋バナをしていた妹たちも私に驚きの目を向ける。
 テレビにゲームオーバーの文字が映っているのを傍目に、私はスマホを皆に見せつけるように突き出して。

「これさっき送られて来た写真なんだけど、めっちゃ可愛い子が映ってるの。これヤバくない?」

 するとノンアルコールの酒を飲んでいた父が恐る恐るこちらへやって来て。

「……い、いつの間に? 知らない間に子供が……出来ていたのか?」

「このくらい育ってるってことはもう五年くらいは経ってるってことだし、この子が生まれたのって……」

 私がそこまで言いかけると父は勢いよく立ち上がり、椅子がバタンと音を立てて倒れるが気にする様子無く私の両肩を掴むと、真っ青な顔をして。

「波留、明日の朝に桂里奈の元に行って話を聞いて来い」

「う、うん。暇潰しも兼ねて行って来る」

 幸いにも今は春休みな上に、友達と遊びの約束もしていない。
 私が直接出向いて相手の男は誰なのか、そして子供を産んだのはいつなのかをしっかりと問い詰めなければならない。
 そしてそのついでに都会の観光もしていくとしよう。
 そんな事を考えていると黙って話を聞いていた長男の水樹みずきがこちらへ近付いて。

「お前だけってのは心配だから俺が車出してやるよ。毎回迷子になって泣き喚くのがオチだからな」

「迷子になってギャン泣きしたのは兄貴も同じじゃん!」

 おもちゃ屋で私たちとはぐれてギャン泣きしたくせによくそんな事が言えた物だ。
 兄貴は恥ずかしさと怒りで顔を赤くするが、呆れた様子で溜息を吐いた母が間に割って入り。

「二人で仲良く行ってきなよ。もしお父さんよりも良い男だったら教えてね」

「俺より良い男だったらどうするつもりなのか聞こうじゃないか」

 関係無い所で争いが起こり始め、さっきの数倍はうるさくなったリビングから私は自室へ戻り、旅行に行く時のように荷造りを始める。
 着替えや化粧品、そして暇潰しになりそうなものと兄貴の車の中で食べる予定の駄菓子を詰め込む。
 
 粗方必要な物が整った私は明日に備えてもう寝ることに決め、部屋の電気を消してベッドに寝転がる。
 しかし、普段なら普通に起きている時間帯な上に、無意識的に久しぶりに行く都会で何をしようかなんて考えてしまい、中々寝付くことは出来ず。
 結局寝れたのはいつもと同じ十二時過ぎであった。
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