さらばブラック企業、よろしくあやかし企業

星野真弓

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37話 警察

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「では、こちらで付近の防犯カメラなどの映像を解析し、怪しい人物の特定を急ぎます」

「よろしくお願いします」

 私が軽く頭を下げると警官はパトカーに乗ってアパートの前から去って行き、疲れた様子でミワは溜息を吐いた。
 
「まさか吾輩が幼子の話し方をさせられるとはな……。母上が今頃笑っていそうだ」

「まあ、良いんじゃない? 警官もちょっと笑ってたし」

 私たちで言う普通の話し方に慣れていないこともあり、頑張って話すその様子は幼女そのものであった。
 おかげで強面の警官二人が終始ニコニコすることになってしまっていたが、ちょっと面白かったから良しとしよう。
 ちなみに私とミワの関係性については知人の子供を預かっていることにして、白過ぎる髪についてはアルビノということにしておいた。
 犯罪者側では無いから、この嘘がバレる事は恐らく無いだろう。

 そんな事を考えながら台所へ戻り、まだ洗っていなかった皿の片付けを始める。
 調理に色々と道具を使った事もあって洗わなければならない物は多く、その面倒くささから思わず溜息を吐いているとミワが。

「吾輩も手伝ってやろう」

「今日は珍しく積極的だね?」

「そもそも吾輩があの場で食っていればここまで面倒なことにならなかったからな。罪滅ぼしというやつだ」

「だから食べちゃダメだって」

 この子を家に一人にしておくのは危険かもしれない。
 ミワが怪我を負う事になりかねないのもそうだが、魔法のような力でも使って泥棒を食べるなんて事になったら更に面倒なことになる。
 ……実家に送り付けて面倒を見てもらうのも一つの手かもしれない。

「今不穏な事を考え無かったか?」

「気のせいダヨ?」

 おっと、意外にも勘は鋭いらしい。
 ジト目を向けて講義して来るミワから目を逸らしながら洗い物をスポンジで擦り始めると、彼女は溜息を吐きながら泡の付いた物を水で流し始める。
 娘と洗い物をする時の気分を味わいつつ、私は普段通りの速さで手を動かし。
 ミワも初めての手伝いにしてはかなり手早く作業をこなした。

 そうして普通に一人でやるよりは少し早く終わり、時計を見れば午後十時を回ろうとしていた。
 今日は泥棒のせいでかなり疲れが溜まった私はとっとと風呂に入ろうと思いながら着替えの準備を始める。

「おい、何か来たぞ」

 その言葉でミワを見てみれば、その手には私のスマホが握られていて。
 受け取ってホームボタンを押してみれば、確かに波留からのメッセージを受信していた。

『恋人とは順調?』

 彼氏が出来た前提のそのメッセージにイラっとしながら『帰省したら覚えて置け』と送ってやると、波留は更に揶揄うように、

『子ども出来たって言いふらして良い?』

 そんな一文を送って来た波留に、今度はこっちからからかってやろうとミワの写真を送り付ける。

『子どもならいるよ?』

 ついでに短い一文を添えて送信してみると、波留は『やば』と一言だけ返して沈黙した。
 私はやり返してやった心地良さに酔いしれながら、蛇の姿に戻ったミワを抱っこして風呂へ向かう。

 ――実家が大騒ぎになっているなんて思いもせずに。
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