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36話 力比べ
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それはそれは美味しそうにステーキ肉に食いつくミワを眺めながら、焼き上がったばかりの良い香りが漂うそれを私も齧る。
噛む度に肉汁が溢れ出す高級肉の美味しさと食感に思わず変な声が出る。
と、見た目相応の可愛らしい笑みを見せたミワが楽し気に。
「吾輩を餌付けする気か?」
「分かってるじゃん。良い子にしてたらまた買って来て上げる」
「ほう、ならばこの家に上がって来る害獣は全て吾輩が駆除してやろう」
いつになくやる気に満ち溢れた目をするミワのチョロさに、このままでは悪い男に騙されてしまうのではないかという不安が湧く。
しかし、美味しい肉のせいでそんな不安が打ち消され、もう一生食べていたいと言う叶わぬ願望が脳裏を過る。
「今まで食べてきたどんな料理よりも美味い。盗人を喰わなくて良かった」
「でしょ? ……待って、今何て?」
ステーキを口に運ぼうとしていた手を止めて、幸せそうな笑みを見せるミワに目を向ける。
ミワは「そう言えば話していなかったな」と呟き、フォークを切り分けた次のステーキに差しながら。
「昼間に盗人がそこの窓からこの家に入ろうとしたから喰おうと思ったんだがな。吾輩を見るなりニコニコ笑って逃げおった」
「えっ」
血の気が引きながら窓に近付き、ベランダを見てみれば靴の形の土汚れがあり、その話が本当なのだと察する。
ミワを振り返れば全く気にする様子無くパクパクとステーキを口に運んでいて、私は何も無かった事にホッとしながら。
「もし襲われたらどうするつもりだったの? もしかしたら変な趣味の人だったかもしれないし、そのまま誘拐なんてことになったら――」
「安心しろ小娘。吾輩は見た目は幼子でも人間程度容易に喰い殺せる。心配するな」
「本当に? じゃあ、ちょっと腕相撲しよっか」
「行儀が悪いぞ」
ジト目を向けるミワだったが、私が本気で心配していると察してくれた様子で、大人しく片肘をテーブルに付ける。
少し力を入れただけで壊れてしまいそうな小さなもち肌の手を取り、腕相撲の姿勢を取って。
「いくよ? よーい、どん!」
私の掛け声と共に、確かにかなり強い力が私の腕に掛かり、言っていることは嘘では無いのだと理解する。
「……小娘、貴様化け物か?」
「乙女に向かって何さ。ミワの力が弱いだけだよ」
必死に抵抗するミワの拳を反対側に倒しながらそう言うと、彼女は本当に化け物を見るような目を私に向ける。
「はい、それじゃあ今度から怪しい人が家に近付いて来たら警察に電話するように。そして食べないように」
「ぐぅ……」
「電話の仕方は後で教えてあげる……ねえ、怪物を見るような目を辞めてくれない?」
話している間もずっと化け物を見る目を向けるミワに、私は少し傷付きながら睨み付ける。
ビクッと体を震わせたミワは話を逸らすようにステーキを齧り。
「う、うむ、この肉は実に美味である。小娘も冷める前に早く食べよ」
話を逸らすのが下手糞すぎやしないだろうか、そうも思ったが確かに美味しい肉が冷めてしまうのはよろしくない。
そう考えながら元の場所に戻り、ステーキを刺したままだったフォークを手に取りながら。
「今日は抱き枕にして寝るから」
「吾輩を潰す気か?」
ミワは揶揄い口調で言ってくれた。
今日は快眠となりそうだ。
噛む度に肉汁が溢れ出す高級肉の美味しさと食感に思わず変な声が出る。
と、見た目相応の可愛らしい笑みを見せたミワが楽し気に。
「吾輩を餌付けする気か?」
「分かってるじゃん。良い子にしてたらまた買って来て上げる」
「ほう、ならばこの家に上がって来る害獣は全て吾輩が駆除してやろう」
いつになくやる気に満ち溢れた目をするミワのチョロさに、このままでは悪い男に騙されてしまうのではないかという不安が湧く。
しかし、美味しい肉のせいでそんな不安が打ち消され、もう一生食べていたいと言う叶わぬ願望が脳裏を過る。
「今まで食べてきたどんな料理よりも美味い。盗人を喰わなくて良かった」
「でしょ? ……待って、今何て?」
ステーキを口に運ぼうとしていた手を止めて、幸せそうな笑みを見せるミワに目を向ける。
ミワは「そう言えば話していなかったな」と呟き、フォークを切り分けた次のステーキに差しながら。
「昼間に盗人がそこの窓からこの家に入ろうとしたから喰おうと思ったんだがな。吾輩を見るなりニコニコ笑って逃げおった」
「えっ」
血の気が引きながら窓に近付き、ベランダを見てみれば靴の形の土汚れがあり、その話が本当なのだと察する。
ミワを振り返れば全く気にする様子無くパクパクとステーキを口に運んでいて、私は何も無かった事にホッとしながら。
「もし襲われたらどうするつもりだったの? もしかしたら変な趣味の人だったかもしれないし、そのまま誘拐なんてことになったら――」
「安心しろ小娘。吾輩は見た目は幼子でも人間程度容易に喰い殺せる。心配するな」
「本当に? じゃあ、ちょっと腕相撲しよっか」
「行儀が悪いぞ」
ジト目を向けるミワだったが、私が本気で心配していると察してくれた様子で、大人しく片肘をテーブルに付ける。
少し力を入れただけで壊れてしまいそうな小さなもち肌の手を取り、腕相撲の姿勢を取って。
「いくよ? よーい、どん!」
私の掛け声と共に、確かにかなり強い力が私の腕に掛かり、言っていることは嘘では無いのだと理解する。
「……小娘、貴様化け物か?」
「乙女に向かって何さ。ミワの力が弱いだけだよ」
必死に抵抗するミワの拳を反対側に倒しながらそう言うと、彼女は本当に化け物を見るような目を私に向ける。
「はい、それじゃあ今度から怪しい人が家に近付いて来たら警察に電話するように。そして食べないように」
「ぐぅ……」
「電話の仕方は後で教えてあげる……ねえ、怪物を見るような目を辞めてくれない?」
話している間もずっと化け物を見る目を向けるミワに、私は少し傷付きながら睨み付ける。
ビクッと体を震わせたミワは話を逸らすようにステーキを齧り。
「う、うむ、この肉は実に美味である。小娘も冷める前に早く食べよ」
話を逸らすのが下手糞すぎやしないだろうか、そうも思ったが確かに美味しい肉が冷めてしまうのはよろしくない。
そう考えながら元の場所に戻り、ステーキを刺したままだったフォークを手に取りながら。
「今日は抱き枕にして寝るから」
「吾輩を潰す気か?」
ミワは揶揄い口調で言ってくれた。
今日は快眠となりそうだ。
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