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35話
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靴を履いて立ち上がり、少し寂しそうな雰囲気を漂わせるミワを振り返る。
「それじゃ行って来るけど、さっきも言った通りトースターと電子レンジ以外は使っちゃダメだからね。パソコンも使うのは良いけど、決まりを守って――」
「吾輩を子ども扱いするな! 良いか小娘、吾輩は貴様より百倍は生きている。くれぐれもそれを忘れるでない」
「反抗期かな?」
不機嫌そうに頬を膨らませ、ぷいとそっぽを向くミワはやはり反抗期の子供そのものだ。
気分を癒されながらアパートを出ると、昨日の車が同じ場所に路駐されている事に気付いた。
建物の影が掛かっているせいで中の様子は見えず、よく見れば全体的にかなり汚れていて、長らく洗車されていないのだと分かる。
もしも父だったら発狂しながら洗車場に駆け込みそうだが、あの車の持ち主はそこまで気にならないらしい。
ぼんやりとそんな事を考えながら目を離し前を向くと、見覚えのある背中が見えて、私は少しドキッとしながらスマホを取り出す。
そしてアプリで「今、あなたの後ろにいるの」とメッセージを送ってみると、彼はポケットからスマホを取り出し、こちらを向いた。
苦笑気味に笑った彼は私を待つようにその場で止まり、予想通りの人だと確信を持てた事で私は足早に道を進む。
「普通に恐いから辞めてくれない?」
「大丈夫です、食べたりしませんから」
「そういう問題じゃねえよ」
呆れ顔でそう呟いた猫田さんは私が横に来たのを見て歩き出し、さっきの言葉の割には少し楽し気な雰囲気を見せる。
と、猫田さんの上着に猫の毛が付いている事に気付き、昨日の会話を思い出した私は。
「そう言えば昨日、猫ちゃんを預かったって話してたじゃないですか。家に一人にさせて心配じゃないですか?」
「そうなんだよ。まあ、元々の飼い主が言うには留守番に慣れてるから大丈夫だって言ってたし、多分問題は無いと思うんだけどな。深川の蛇はどうなんだ?」
「勝手に料理とかして火傷しないかが心配です」
「は? ……は?」
頭のおかしな人間を見るような目を向けて来る猫田さんに、そう言えば昨日の事を全く話していなかった事実に気付きながら。
「違うんです、薬をやってるとかでは無くて、昨日家に帰ったら小っちゃい女の子になってたんです」
「色々ツッコミたい事がある……というよりツッコミ入れるところしか無いんだけど、本当にお前はクスリやって無いよな?」
「そこを疑わないで下さい。七海に酷いこと言われたって泣きつきますよ?」
「社会的に殺す気か?」
もしもそんな事をされたらどうなるかを想像してしまったらしく、苦笑した猫田さんは話を逸らすように咳払いをする。
「それはさて置き、幼女になったってのはどういうことだ?」
「古来より持つ能力とか何とか言ってました。そんな事より、その姿が本当に可愛いんですよ」
「そんな事で済ませて良いのか……?」
戦慄したような顔をする猫田さんだったが、サンドウィッチを頬張るミワの写真を見せると、私が「そんな事」で済ませた理由を理解してくれたらしく、「可愛すぎだろ……」と呟いた。
どうやらミワの可愛らしさの前では蛇が嫌いなんて問題は些細な事らしい。
「それじゃ行って来るけど、さっきも言った通りトースターと電子レンジ以外は使っちゃダメだからね。パソコンも使うのは良いけど、決まりを守って――」
「吾輩を子ども扱いするな! 良いか小娘、吾輩は貴様より百倍は生きている。くれぐれもそれを忘れるでない」
「反抗期かな?」
不機嫌そうに頬を膨らませ、ぷいとそっぽを向くミワはやはり反抗期の子供そのものだ。
気分を癒されながらアパートを出ると、昨日の車が同じ場所に路駐されている事に気付いた。
建物の影が掛かっているせいで中の様子は見えず、よく見れば全体的にかなり汚れていて、長らく洗車されていないのだと分かる。
もしも父だったら発狂しながら洗車場に駆け込みそうだが、あの車の持ち主はそこまで気にならないらしい。
ぼんやりとそんな事を考えながら目を離し前を向くと、見覚えのある背中が見えて、私は少しドキッとしながらスマホを取り出す。
そしてアプリで「今、あなたの後ろにいるの」とメッセージを送ってみると、彼はポケットからスマホを取り出し、こちらを向いた。
苦笑気味に笑った彼は私を待つようにその場で止まり、予想通りの人だと確信を持てた事で私は足早に道を進む。
「普通に恐いから辞めてくれない?」
「大丈夫です、食べたりしませんから」
「そういう問題じゃねえよ」
呆れ顔でそう呟いた猫田さんは私が横に来たのを見て歩き出し、さっきの言葉の割には少し楽し気な雰囲気を見せる。
と、猫田さんの上着に猫の毛が付いている事に気付き、昨日の会話を思い出した私は。
「そう言えば昨日、猫ちゃんを預かったって話してたじゃないですか。家に一人にさせて心配じゃないですか?」
「そうなんだよ。まあ、元々の飼い主が言うには留守番に慣れてるから大丈夫だって言ってたし、多分問題は無いと思うんだけどな。深川の蛇はどうなんだ?」
「勝手に料理とかして火傷しないかが心配です」
「は? ……は?」
頭のおかしな人間を見るような目を向けて来る猫田さんに、そう言えば昨日の事を全く話していなかった事実に気付きながら。
「違うんです、薬をやってるとかでは無くて、昨日家に帰ったら小っちゃい女の子になってたんです」
「色々ツッコミたい事がある……というよりツッコミ入れるところしか無いんだけど、本当にお前はクスリやって無いよな?」
「そこを疑わないで下さい。七海に酷いこと言われたって泣きつきますよ?」
「社会的に殺す気か?」
もしもそんな事をされたらどうなるかを想像してしまったらしく、苦笑した猫田さんは話を逸らすように咳払いをする。
「それはさて置き、幼女になったってのはどういうことだ?」
「古来より持つ能力とか何とか言ってました。そんな事より、その姿が本当に可愛いんですよ」
「そんな事で済ませて良いのか……?」
戦慄したような顔をする猫田さんだったが、サンドウィッチを頬張るミワの写真を見せると、私が「そんな事」で済ませた理由を理解してくれたらしく、「可愛すぎだろ……」と呟いた。
どうやらミワの可愛らしさの前では蛇が嫌いなんて問題は些細な事らしい。
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