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32話 食後

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 腹いっぱい食べて、満足した様子で体を伸ばすミワを傍目に私は食器を洗う。
 幼女にはあの量は少し多いのでは無いかと思ったのだが、意外にもそんな事は無く、ペロリと平らげてしまった。
 どうやら幼女なのは見た目だけで、食べる量は私とそんなに変わらないらしい。

 ぼんやりと考えている間に食器を洗い終え、少し疲労を感じた私は風呂に入る事に決め、棚から服を取り出す。
 と、ミワの着替えが無い事に気付き、私はどうしようかと悩みながら振り返る。

「吾輩は風呂に入らないからな。昨日入ったんだから構わぬだろう?」

「えー、女の子なのに美意識低いのはよろしくないんじゃない?」

「吾輩は風呂に入らなくとも十分に美しいから問題無い」

 自分でいうのかと言い返してやりたいが、確かにその見た目は美しく、反論してやることが出来ない。
 まあ、今日は家を一歩も出て無いし、風呂は入らなくても大丈夫だろう。汗もかくような事はしていないだろうし。
 私は自分にそう言い聞かせて立ち上がると同時、今朝のやり取りを思い出した。
 ――ネズミの匂いがするから冷凍ネズミは要らないという発言である。

「ねえミワ、ネズミって結局どこに居たの?」

「冷蔵庫の下だ」

 その言葉で慌てて冷蔵庫の下を照らしながら覗き込むと、蛇が通ったような埃の後と、奥の方には争った跡が残っている。
 血液のようなものは見えず、絞め殺したのだと察しながら。

「ってことはさ、その体ってネズミと戯れた時のままってことだよね?」

「いいや、意外にもすばしこくてな。その穴から逃げられてしまった」

 ミワが指差した先には通気口があり、そこからネズミが出入りしているという事実に、私は自然と顔を引きつらせる。
 
「そっか、お勤めご苦労様。汗もかいただろうし、埃も被っただろうからやっぱりお風呂入ろう? ちょっとその状態で一緒に寝るのは、ね?」

「分かった分かった、風呂に入ってやるからそんなに嫌そうな顔をするな」

 私が本当に嫌なのだと察してくれた様子でそう答えたミワは、突如その姿が蛇に戻った。
 一切の予備動作も無いその変身に驚いていると、彼女は今朝のダンディーな声で。

「小娘の姿で共に風呂に入ったら何をされるか分からないからな。この姿で洗ってくれ」

「えー、お母さんの気持ちになってみたかったのに」

「吾輩は貴様の子供では無い! それに、年ならば吾輩の方が何万倍も上だ」

 その割には色々ポンコツだったり、見た目相応な行動が多く見られたが、これは黙っておこう。その方が可愛い所を沢山見せてくれるだろうし。
 私はそんな事を考えながらミワを片手で持ち上げ、まだ沸いたばかりの風呂へ入るべく脱衣所に入った。
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