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30話 帰宅
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会社からほど近い場所に爬虫類店から出ると、既に外は暗くなり始めていた。
それもこれも店長の蛇についての長い解説を聞いていたせいだが、ある程度は役に立ちそうだから良しとしよう。
疲労を訴える足腰に無駄ではなかったと言い聞かせながら地下鉄へ向けて進む。
いつもなら人通りがそこそこ多い道なのだが、ピークは当に過ぎているだけの事もあってまばらに通行人が見える程度で、どうしても違和感を覚えてしまう。
ぼんやりとそんな景色を眺めながら地下鉄構内へ入り、改札を通り抜けるとやはりそこにはほとんど人が居なかった。
今日は暑苦しい電車に乗らなくて良いのだと少し安心しながら乗り口に並ぶ。
「お、深川じゃん」
唐突な聞き慣れた声に驚きながら振り返ると、相変わらずあやかしの正体が分からないという矢壁先輩の姿があった。
いつもなら体力作りのために地下鉄は使わず、歩きで家に帰っているのだが、今日は珍しくこれで帰るらしい。
「お疲れ様です。今日は地下鉄なんですね」
「今日はちょっと足の調子が悪くてね。今日は休む事にしたんだよ」
左足を摩りながら矢壁先輩は言う。
と、そんな話をしている間に電車が到着し、私たちは一度話を辞めて乗り込む。
電車内は部活帰りなのであろう学生たちが楽し気に話していることで少し騒がしく、何となく学生の頃を思い出す。
「それにしても、今日は猫田君と一緒じゃないんだね?」
「今日はお昼の時に話した蛇のご飯を買いに行かなきゃいけなくて会社で別れたんです」
「っていうとネズミ?」
「はい、冷凍のネズミです」
きっとこれでミワも喜んでくれるに違いない。
と、矢壁先輩は興味があるようで。
「俺もその内ペット飼ってみたいな。蛇はちょっと無理だけど」
「寂しさが減りますし、飼ってみるのも良いと思いますよ」
実際、私も家に帰れば迎えてくれるペットがいると思うと少し嬉しかったりする。
「おっと、俺はもう降りる。気を付けてな」
「先輩もお気を付けて」
ドアが開くと矢壁先輩は軽く手を振って車両を出て行き、ガヤガヤと騒がしかった学生たちも半分程度降りて行った。
それによって一気に静かになったように感じる電車内で、私は少し寂しさを覚える。
そう言えばいつも猫田さんと一緒に帰っていたから、こうして一人で帰るのは大村で働いていた頃以来だ。
ならば異様に寂しく感じるのは普通だろう。
寂しがりになってしまった自分に内心呆れながら目的の駅で降り、構内から出ると外は真っ暗になっていた。
その久し振りな光景に懐かしさを覚えながら、街灯の明かりに照らされる道を歩いていると、家々から美味しそうな料理の匂いがして、空腹から腹が鳴る。
しかし、有難いことに周囲には誰も居らず、私の情ない音を聞かれることは無かった。
「……あれ?」
私のアパートの反対側に位置する歩道に、昼頃に見た黒いセダンが止まっている事に気付いた。
偶々同じ車種だった、そう考えるが何となく嫌な予感が頭を過り、私は駆け足でアパートに駆け込む。
振り返ると誰かが追いかけて来ているなんて事は無く、私は一安心して部屋へ入ると――
「やっと帰ったか子娘よ。吾輩は退屈だったぞ」
両腕を組んで偉そうに喋る白髪の幼女の姿があり、私の脳はオーバーヒートを起こした。
それもこれも店長の蛇についての長い解説を聞いていたせいだが、ある程度は役に立ちそうだから良しとしよう。
疲労を訴える足腰に無駄ではなかったと言い聞かせながら地下鉄へ向けて進む。
いつもなら人通りがそこそこ多い道なのだが、ピークは当に過ぎているだけの事もあってまばらに通行人が見える程度で、どうしても違和感を覚えてしまう。
ぼんやりとそんな景色を眺めながら地下鉄構内へ入り、改札を通り抜けるとやはりそこにはほとんど人が居なかった。
今日は暑苦しい電車に乗らなくて良いのだと少し安心しながら乗り口に並ぶ。
「お、深川じゃん」
唐突な聞き慣れた声に驚きながら振り返ると、相変わらずあやかしの正体が分からないという矢壁先輩の姿があった。
いつもなら体力作りのために地下鉄は使わず、歩きで家に帰っているのだが、今日は珍しくこれで帰るらしい。
「お疲れ様です。今日は地下鉄なんですね」
「今日はちょっと足の調子が悪くてね。今日は休む事にしたんだよ」
左足を摩りながら矢壁先輩は言う。
と、そんな話をしている間に電車が到着し、私たちは一度話を辞めて乗り込む。
電車内は部活帰りなのであろう学生たちが楽し気に話していることで少し騒がしく、何となく学生の頃を思い出す。
「それにしても、今日は猫田君と一緒じゃないんだね?」
「今日はお昼の時に話した蛇のご飯を買いに行かなきゃいけなくて会社で別れたんです」
「っていうとネズミ?」
「はい、冷凍のネズミです」
きっとこれでミワも喜んでくれるに違いない。
と、矢壁先輩は興味があるようで。
「俺もその内ペット飼ってみたいな。蛇はちょっと無理だけど」
「寂しさが減りますし、飼ってみるのも良いと思いますよ」
実際、私も家に帰れば迎えてくれるペットがいると思うと少し嬉しかったりする。
「おっと、俺はもう降りる。気を付けてな」
「先輩もお気を付けて」
ドアが開くと矢壁先輩は軽く手を振って車両を出て行き、ガヤガヤと騒がしかった学生たちも半分程度降りて行った。
それによって一気に静かになったように感じる電車内で、私は少し寂しさを覚える。
そう言えばいつも猫田さんと一緒に帰っていたから、こうして一人で帰るのは大村で働いていた頃以来だ。
ならば異様に寂しく感じるのは普通だろう。
寂しがりになってしまった自分に内心呆れながら目的の駅で降り、構内から出ると外は真っ暗になっていた。
その久し振りな光景に懐かしさを覚えながら、街灯の明かりに照らされる道を歩いていると、家々から美味しそうな料理の匂いがして、空腹から腹が鳴る。
しかし、有難いことに周囲には誰も居らず、私の情ない音を聞かれることは無かった。
「……あれ?」
私のアパートの反対側に位置する歩道に、昼頃に見た黒いセダンが止まっている事に気付いた。
偶々同じ車種だった、そう考えるが何となく嫌な予感が頭を過り、私は駆け足でアパートに駆け込む。
振り返ると誰かが追いかけて来ているなんて事は無く、私は一安心して部屋へ入ると――
「やっと帰ったか子娘よ。吾輩は退屈だったぞ」
両腕を組んで偉そうに喋る白髪の幼女の姿があり、私の脳はオーバーヒートを起こした。
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