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28話 騒がしい職場

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 猫田さんと共にエレベーターを降り、デスクの並ぶ室内へ入ると先に来ていた数人の先輩の視線が突き刺さる。
 何となく何を言われるのか察していると、にんまりと笑みを浮かべた七海が。

「やっぱり付き合ってるじゃん。式はいつ挙げるの?」

「おい化け狐。それ以上言ったらお前の家に犬送り付けるからな」

「こ、この私が犬に屈すると思ってるの?」

 その言葉の割には目を泳がせていて、全く平気では無いことが伺える。
 そう言えば狐は犬や狼が天敵だから苦手なんだったか。どうやらあやかしの血は好き嫌いも受け継がれてしまうらしい。
 別に犬は恐くないと言いながら大人しく自分の席に戻って行く七海を眺めていると、猫田さんは勝ち誇ったように。

「フハハハ! 世界で愛される猫様に敵うと思うなよ化け狐が!」

「狐の方が可愛いに決まってるじゃん!」

 今日も今日とて揶揄い合う二人を眺めていると、月曜という憂鬱な日であることを忘れられ、不思議と元気が湧いて来る。
 と、ケラケラ笑っていた木綿谷先輩が空になったのであろうコーヒーカップを片手に立ち上がり、私の方を向いて。

「毎日騒がしくて悪いな。恋愛話に飢えてる狐が原因だけど、代わりに謝っとくよ」

「いえ、このくらい騒がしい方が楽しいですよ。大村はキーボード打つ音しか聞こえませんでしたから」

「おっと、嫌な記憶思い出させちゃったな。悪い」

「気にしないで下さい」

 どうやら大村の話をすると気を遣われてしまうようだ。あそこの話は出さないように気を付けよう。
 そんな会話をしている間に始業時間が近付き、揶揄い合っていた猫田さんたちもそれに気付いた様子で席に着き始める。
 
「そろそろ始業時間デスので、準備の方をお願いしマス」

 いつも通り気付かぬうちに現れる部長に内心驚きながら、既に準備が終わっている私はコーヒーをすする。
 すると猫田さんがパソコンを起動させながら。

「部長が何で語尾が片言なのか気になるのか?」

 思い切り勘違いしているのにお見通しだという雰囲気を出す猫田さんのせいでコーヒーを噴き出しそうになる。

「それも確かに気になりますけど、いつもいきなり現れるからビックリするんです」

「そ、そっちだったか。いつも唐突に現れるように感じるのは足音が全く無いからだな」

 少し恥ずかしそうに猫田さんは目を逸らしてそう答える。

「確かに聞こえませんね。それで、語尾がおかしいのはどうしてですか?」

「二年くらい留学してたら発音がおかしくなって、語尾だけ治せなくなったらしい。最近は面倒になって治すのは辞めたって言ってたけどな」

 傘部長が留学しているところが全く想像出来ないが気にしない方が良いだろう。
 そうして今日も程よく忙しい一日が始まった。
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