上 下
30 / 106

27話 出社

しおりを挟む
 目覚ましの音で起き上がり、何となく気配を感じ取った私は枕の横へ目を向ける。
 するとそこにはとぐろを巻いて寝るミワの姿があり、私は思わず笑いながら真っ白な頬を撫でる。
 意外にももちもちな感触が手に伝わり、その驚きから完全に眠気が吹き飛んだ。

「……何をしている」

「勝手にお布団に上がった罰です」

 別に布団に上がられようと構まわないのが本音だったりするが黙っておこう。
 と、されるがままにされていたミワはジト目を私に向けて。

「今日は仕事なのだろう? こんなことをしていて良いのか」

「あっ」

 その言葉で時計を見てみれば確かに時間が少し過ぎていて、私は渋々撫でる手を止めてキッチンへ向かう。
 コーヒーを淹れるべく湯を沸かし、その間にパンをトースターに入れて着々と朝食の準備を進める。
 と、こちらへ近付いて来たミワに、ご飯が食べたいのだと察した私は。

「ああ、ご飯のネズミとかは今日用意するから待っててね」

「その必要は無い。近くからネズミの匂いがするからな」

「……嘘でしょ?」

 お湯が沸いたやかんに掛けた手を止め、恐る恐るミワに目を向けると彼はおかしそうに。

「ネズミが出ないわけが無かろうぞ。やつらはどこにでも湧く」

「じゃ、じゃあ、駆除をお願いします」

「フハハハ! 吾輩に任せておけ!」

 やけに気合の入っているミワはそう言ってテーブル横のクッションでとぐろを巻き、ご機嫌な様子で舌をチロチロと出す。
 どこか子供っぽいその仕草に思わず笑いながら沸いた湯でインスタントコーヒーを作り、焼けあがったパンを取り出す。
 そうして朝の支度をパッパと済ませた私は、終始ご機嫌な様子のミワに見送られて家を出た。

 ミワの餌をどこで買おうかと考えながら、家から徒歩十分程度の距離に位置する駅の方へ歩く。
 すると背後に誰か近付いている事に気付き、追い抜かすだろうと考えながら道の端へ寄ると。

「おはよう。疲れは取れたか?」

 聞き慣れた声に内心驚きながら振り返ると、小さな寝癖の残っている猫田さんの姿があり、私は少し緊張しながら。

「おはようございます。疲れは全部落ちたんですが……ちょっと相談を良いですか?」

「何だ?」

 私の横に並んだ猫田さんは不思議そうに首を傾げて見せ、笑われないかと少し不安になりながら。

「実は昨日、記憶喪失の喋れる白い蛇が家に出たんです」

「喋れる蛇? ……それは、大変だな」

 顔を青くしながらそう言う猫田さんを見て蛇が嫌いなのだと察しながら、相談したいことを尋ねる。

「それで、その蛇が言うには蛇神で国を造ったとか言ってるんです。何か知りませんか?」

「蛇神? メデューサとかじゃないか?」

「声は男なんですよ」

「じゃあナーガとか?」

 あり得そうだが記憶が確かならナーガはインドの神話に出て来る神だったはずだ。何かの要因で日本に来た可能性もあるが、普通に日本語が話せている辺り違う気がする。
 昨日、洗ってやった後にネットで調べてみても情報はあまり出て来なかったし、本当に正体が分からない。
 
 案の定、答えが出る前に駅へ到着してしまった私たちは、普段通り満員電車へと乗り込み。
 会社へ着く頃には疲れからその話の事を忘れてしまっていた。
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。 煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。 そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。 彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。 そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。 しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。 自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。

ルナール古書店の秘密

志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。  その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。  それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。  そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。  先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。  表紙は写真ACより引用しています

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

処理中です...