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26話 仮名

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 ご機嫌な様子で私が用意した座布団の上でとぐろを巻く自称神の白蛇。
 その体は透き通るように美しく、顔を近付けてみると自分の顔が反射で映っているのが分かる。

「吾輩の美しさに見惚れたか」

「美しくしたのは誰だったかな?」

「ぐぅ……」

 ぐうの音を出した白蛇は勝てないと見たらしく、何も言い返さずに自分の体に頭を置いた。
 と、そんな白蛇を見ていてさっきの疑問を思い出した私は、その横に腰掛けながら。

「そう言えばどこから入って来たの? それといつから入って来たの?」

「昨日の夜に窓の隙間から入った」

「神様なのにコソコソするんだね」

「神と言えどもこの小さな体では人間には勝てぬ」

 疲れを感じさせる口調でそう言った白蛇は目を閉じる。
 そう言えば私を見た時に怯えるようにして皿の後ろに隠れたり、洗ってやった時には体に幾つか傷があったりと、人に何かされたような痕跡は幾つか見受けられた。
 どうやら気丈に振舞っているだけで、本当はかなり苦労していたらしい。

 私は目を合わせようとしない白蛇の体に手を当て、ぷにぷにな感触を楽しむように撫でる。
 するとジト目をこちらへ向けて。

「吾輩は飼い犬では無い」

「じゃあ居候?」

「吾輩はネズミと卵、そして酒を好物としている。この意味は分かるな?」

「ここでネズミ出たこと無いけど、もし出たらお願いね」

 その言葉に危機感を覚えた様子で白蛇はビクッと体を震わせ顔を逸らす。
 居候になるのが嫌なのか、それともネズミを食べられないのが嫌なのか、理由は定かでは無いが、私に出来ることならやってあげても良いかもしれない。
 神を自称するとは言え、ペットなのだから。

「自己紹介まだだったよね。私は深川桂里奈、これでも何かのあやかしの血を引き継いでるみたいなの。よろしくね」

「うむ、よろしく願おう。吾輩の事は記憶が戻るまでは呼びやすい名を勝手に付けるが良い」

「ポチ?」

「辞めろ」

 動物を買ったらポチと名付けてみたかったのだが、どうやらそれは気に入らないようだ。
 となると、それっぽい物にしなければいけないということになるが、自称神の蛇が気に入るものは一体どんなものだろうか。
 と、何かを思い出した様子で「あっ」と呟いた白蛇は私の方を向いて。

「一体いつの記憶かは知らぬが、ミワと呼ばれていた記憶がある。そう呼ぶが良い」

「えー、名付けて良いって言ったのに」

「ポチだのなんだの付けられるくらいなら自分で付けた方が良いからな。だが悪くは無いだろう?」

「仕方ないなー」

 私は思わず溜息を吐きながら新たな家族となった白蛇改めミワの頭を撫でる。
 すると意外にもくすぐったそうにしたミワは、しかしすぐに恥ずかしがるように再びとぐろを巻いた。
 可愛らしいものだ。
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