さらばブラック企業、よろしくあやかし企業

星野真弓

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25話 自称神

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 バケツの中でご機嫌な様子で舌をチロチロと出しながら、つぶらな瞳を向けて来る白蛇。
 それだけなら可愛い可愛いと撫で回すところなのだが――

「どうした小娘。吾輩が恐いか」

「やっぱり喋った……」

 やはり幻聴でも幻覚でも無く、この蛇は声優のような男らしい声で喋ってみせる。
 過労で頭がおかしくなったままなのかなんて考えてると白蛇は何を勘違いしたのかバケツから身を乗り出して。

「小娘、吾輩の素晴らしい姿に見惚れているのだな? ならば、しっかりと世話の方を――」

「あまりうるさいと捨てるよ?」

「ぐっ……」

 それは困るらしく無言のままバケツの中へ戻り、どこか寂しげにとぐろを巻いた。
 私はまだまだ疑問が湧き出す頭の中を整理しながらバケツへ顔を近付けて。

「まあ、蛇飼ってみたかったから飼って上げるけど……あなたは何者なの?」

 その問いに目を煌めかせた白蛇は上体をもたげると。

「驚くが良い、吾輩は蛇神として崇められ、国をも造った……」

「名前は?」

「……はて、なんだったか」

「は?」

 それはそれは凄い神の名前が出て来るのかと期待したのだが、ボケボケなただの喋れる蛇だったらしい。
 思わず溜息を吐くと白蛇は少し慌てた様子で。

「ま、待ってくれ。記憶の通りなら吾輩は体を新しいものに変えたのだ。だからしばらくは自分に関する記憶があやふやなのだ」

「へー。餌は卵で良いの?」

「……ああ」

 何か言いたげな目を私に向けた白蛇は一つ溜息を吐くと、哀愁を漂わせながらバケツの中で再びとぐろを巻いた。
 その姿は反抗期だった私に嫌いと言われて凹んでいた父を彷彿とさせ、何だか可哀想に思えて来た私はその背を撫でて。

「悪かったって。ちゃんとお世話してあげるから、そんなに拗ねないでよ」

「……本当か?」

「うん。でもその前にお風呂入ろうか」

「えっ」

 体は一見すると綺麗であるが、その体を触った軍手は泥で汚れてしまっている。
 流石に土足のような状態で室内をうろちょろされたくないがためにバケツに入れた私としては、風呂に入れるなりして自由にさせたいのである。
 と、風呂はあまり好きではないらしく、嫌そうな目をする白蛇が。

「それは強制なのか?」

「強制はしないけど……綺麗な体なら部屋の中を好きなように移動して良いよ?」

「ほう。ならばその提案、引き受けよう」

 乗り気になった白蛇に微笑ましく思いながらバケツを手に取り、私はそのままお風呂へと向かう。
 そうして水攻めから逃げようと必死に暴れる白蛇と戦闘を繰り広げたのはそれから数分後の事であった。
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