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一方その頃、鳩山は 3

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 自分以外には数人しかいない室内で、鳩山は深々と溜息を吐く。
 デスクの端を見ればかなり処理したはずなのに全く小さくならない書類の山があり、その反対側にはエナドリやコーヒーの入っていた缶が乱雑に並んでいる。
 なぜそんなに仕事が残っているのかと言えば、鳩山の処理能力そのものが低いのもあるが、それに加えて恨みを持った他の社員らが押し付けて来るようになったのである。
 
「クソが……」

 小さな声で呟いた鳩山はしかし、多勢に無勢なことを理解しているため、イラついたまま仕事を続ける。
 無論、そんな精神状態でまともに仕事が進む筈が無く、しばらくすると手が止まり、再び深々と溜息を吐いた。

「あんたが招いた事だろ? 一々溜息着くなよ」

 唐突にイラついた口調でそんな事を言ったのは少し離れたデスクで鳩山の仕事を手伝ってくれている槙井隆二まきいりゅうじだ。
 自分で招いた事態とは言え、とんでもない量の仕事を押し付けられている鳩山を不憫に思い、わざわざ残ってくれているのである。
 
「ちげえよ。元はと言えば深川が辞めなきゃこうはならなかった」

「その子が辞める要因を作ったのはどこの誰だ?」

 その反論に、自分の判断ミスが招いた事態であることを理解している鳩山は口を閉ざす。
 すると槙井はそんな鳩山を見て少し笑うと。

「まあ、でもその子はもしかしたら感謝してるかもしれないな。こんないつ潰れるかも分かんねえ会社から逃げれた上に、ホワイト企業に就けたんだから」

「待て、どういうことだ」

 思わず立ち上がった鳩山に槙井は「知らなかったのか?」と意外そうに呟いて。

「あの子はあやかしデジタルに勧誘されて就職したらしいぞ?」

「は?」

 俺はこんなに苦労しているのに、あいつだけ楽をしている?
 本来ならあいつがやるはずだった仕事を俺がしているのに、あいつは遊んでいる?

 そんな的外れな考えが彼の脳内を支配し――気付けば槙井の引き留める声を無視して会社を飛び出していた。
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