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19話 服選び
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「お疲れ様でしたー。お先に失礼します」
職場で帰り支度をする先輩たちにそう声を掛け、一人でエレベーターに乗り込む。
ついさっきまでいつも通り猫田さんと一緒に帰るつもりだったのだが、明日の映画鑑賞のことを話していた時に、とある大問題に気付いてしまったのである。
――まともな私服が一切無いことに。
遊ぶ暇が無かった私にとってお洒落な私服なんて不要なもので、必要最低限のものしか揃えていなかった。
そのため、私はこれから会社からすぐ近くの服屋にでも行って私服を揃えるつもりだ。
……良い服を揃えられると良いのだけど。
そんな不安を胸に目的の服屋へ到着し店内に入った私だったが、案の定ずらりと並ぶお洒落な洋服を見てどれを買うべきか分からず頭を悩ませる。
やはり今まで可愛らしさでは無く機能面ばかりを重視していた私が見た目の良し悪しで服を選ぶのは難しいようだ。
と、後ろから肩をトントンと叩かれ振り返ると、
「こんなところでどうしたの?」
少し心配するように首を傾げて見せる狐塚さんの姿があり、私は安堵から思わず変な笑みが零れながら事情を説明した。
すると彼女はおかしそうに笑うと手を引いて。
「じゃあ私が良さげな服を選んであげるよ」
「本当? 狐塚さんありがとう」
「良いってことよ。それと、前も言ったけど私の事は七海で良いから。ほとんど同い年なのにさん付けなんて変でしょ?」
「分かった、頑張ってみる」
どうしても先輩として見てしまうため、ため口には出来ても名前を呼ぶ時はどうしても苗字にさん付けになってしまっていた。
ここまで言われたらもう直さなければならないだろう。
私は自分にそう言い聞かせながら、先を歩く狐塚改め七海の後を付いて歩く。
そうして一時間後。
試着室の鏡に映るカーキのタイトスカートにネイビーニットという雑誌に載っていそうな服装の自分を見て、私は七海の服を選ぶセンスの良さに感動した。
「どう? 着替え終わった?」
「あ、うん」
外で待つ七海の声に短く返事してカーテンを開け、この姿を見せると七海は「おおっ」と声を上げて。
「中々似合うじゃん。猫田もベタ惚れするよ、きっと」
「うるさいな、もう」
余計な一言さえなければ素直に感謝出来ると言うのに、この人はなぜこうも余計なことをしてくれるのだろうか。
私のジト目を気にする様子無くケラケラと笑った七海は籠から服を取り出して。
「それじゃあ、こっちにも着替えてみてよ。絶対に似合うから」
「良いけど……その籠に入ってるの全部着せるつもり?」
「そりゃもちろん。桂里奈を着せ替え人形にするために服選び手伝ったんだから」
「そうだったの?!」
それから着せ替え人形のように様々な服を着せられ、解放されたのは一時間程度後のことだった。
職場で帰り支度をする先輩たちにそう声を掛け、一人でエレベーターに乗り込む。
ついさっきまでいつも通り猫田さんと一緒に帰るつもりだったのだが、明日の映画鑑賞のことを話していた時に、とある大問題に気付いてしまったのである。
――まともな私服が一切無いことに。
遊ぶ暇が無かった私にとってお洒落な私服なんて不要なもので、必要最低限のものしか揃えていなかった。
そのため、私はこれから会社からすぐ近くの服屋にでも行って私服を揃えるつもりだ。
……良い服を揃えられると良いのだけど。
そんな不安を胸に目的の服屋へ到着し店内に入った私だったが、案の定ずらりと並ぶお洒落な洋服を見てどれを買うべきか分からず頭を悩ませる。
やはり今まで可愛らしさでは無く機能面ばかりを重視していた私が見た目の良し悪しで服を選ぶのは難しいようだ。
と、後ろから肩をトントンと叩かれ振り返ると、
「こんなところでどうしたの?」
少し心配するように首を傾げて見せる狐塚さんの姿があり、私は安堵から思わず変な笑みが零れながら事情を説明した。
すると彼女はおかしそうに笑うと手を引いて。
「じゃあ私が良さげな服を選んであげるよ」
「本当? 狐塚さんありがとう」
「良いってことよ。それと、前も言ったけど私の事は七海で良いから。ほとんど同い年なのにさん付けなんて変でしょ?」
「分かった、頑張ってみる」
どうしても先輩として見てしまうため、ため口には出来ても名前を呼ぶ時はどうしても苗字にさん付けになってしまっていた。
ここまで言われたらもう直さなければならないだろう。
私は自分にそう言い聞かせながら、先を歩く狐塚改め七海の後を付いて歩く。
そうして一時間後。
試着室の鏡に映るカーキのタイトスカートにネイビーニットという雑誌に載っていそうな服装の自分を見て、私は七海の服を選ぶセンスの良さに感動した。
「どう? 着替え終わった?」
「あ、うん」
外で待つ七海の声に短く返事してカーテンを開け、この姿を見せると七海は「おおっ」と声を上げて。
「中々似合うじゃん。猫田もベタ惚れするよ、きっと」
「うるさいな、もう」
余計な一言さえなければ素直に感謝出来ると言うのに、この人はなぜこうも余計なことをしてくれるのだろうか。
私のジト目を気にする様子無くケラケラと笑った七海は籠から服を取り出して。
「それじゃあ、こっちにも着替えてみてよ。絶対に似合うから」
「良いけど……その籠に入ってるの全部着せるつもり?」
「そりゃもちろん。桂里奈を着せ替え人形にするために服選び手伝ったんだから」
「そうだったの?!」
それから着せ替え人形のように様々な服を着せられ、解放されたのは一時間程度後のことだった。
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