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16話

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 昼食後に新たに任された仕事を終え、時計を見れば五時四十分を指していた。
 完全に暇になってしまった私は残りの時間で何か出来ないかと考えてみるが特に何も思い付かず、猫田さんの方を見ると何か悩んでいる様子でパソコンと睨めっこしていた。
 すると彼は視線で気付いたらしく、私を見ると。

「どうした、もう終わったか?」

「はい、終わりました」

「そうか。ならもう帰る支度しちゃいな」

「分かりました……あの、何か手伝えることありますか?」

 再び画面との睨めっこを始めた猫田さんにそう尋ねると、彼は少し申し訳無さそうに画面を指差して。

「ここに入れる数値がどれか分からんのよ。どれか分かる?」

「……この数値じゃないんですか?」

 ざっと書類を見回し、それらしき数値を見つけた私がその部分を指差すと猫田さんは「これだ」とスッキリした様子で笑みを見せ、その数字を空いてるカ所に打ち込んだ。
 どうやらこの様子だと単純に見落していただけのようだ。

「助かった助かった、よく分かったな」

「大村でよくやらされたものだったので」

 嫌という程やらされたのは記憶に新しい。その上、思い出すだけでエナドリの味が蘇る。
 幻味を紛らわそうとさっき買ったお茶を飲んでいると、他の階に行っていた傘部長が戻って来て。

「では、今日はそろそろ終業にしマス。帰る支度を済ませてしまってクダサイ」

 その言葉で静かだった室内はがやがやと騒がしくなり、私はずっと同じ体勢だったことで疲れてしまった体をぐいと空へ向けて伸ばす。
 と、猫田さんは書類や資料を鞄に仕舞いながら。

「深川さん優秀だから、近々もっと難しいのを任せるかもしれないんだよ。だから厳しいようだったら言ってな」

「分かりました、頑張ります!」

 これはチャンスだ。ここで一つ活躍出来れば私はきっと一社員として認められることになるだろう。
 そんな事を考えつつ荷物をまとめ終えた私は他の人たちが帰り支度を済ませるのを待っていると猫田さんはスマホを弄りながら。

「そう言えば深川さんって何か趣味無い? 俺、最近何もやる気起きなくて困ってんだよ」

「趣味というより、最近はまっていることなら映画見ることですね」

「お、映画か。どんな映画が好きなんだ?」

「アクション……では無く、恋愛とかのんびりしたものですかね」

 本当は某カーアクション映画や戦争映画の方が好きだが黙っておこう。
 
「恋愛か……見たこと無いな。アクションしか見ないんだ」

「じゃ、じゃあ今度アクション映画でも見に行きますか?」

「そうだな、なら今週末暇だし行こうか」

「はい!」

 返事をしてから私はふと気付く――異様に喜ばしく思っていることに。
 ただ趣味が合いそうな人を映画に誘っただけ、それなのになぜ喜びが湧き出してしまうのだろう。

 彼女がその原因を知ることになるのはまだまだ先の話であった。
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