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14話 始業前の喧噪
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翌日。
会社に到着した私は昨日のことで緊張と不安に襲われながらエレベータ―に乗り込み、ボタンを押して上階へと向かう。
と、三階まで上がったところでエレベーターは止まり、扉が開くとそこには――
「お、昨日ぶりだな。職場には慣れたか?」
「は、はい。かなり慣れました」
最上階のボタンを押しながら尋ねて来る鬼塚社長にそう答えると、彼は「それなら良かった」と笑う。
緊張の板挟みになった私はキリキリと痛むお腹を押さえ、このまま死んでしまうのでは無いかなんておかしな考えが頭を過る。
すると何か思い出したようにこちらを見た社長は、私が腹痛に襲われている事には気付いていない様子で。
「昨日、あんたの苗字について色々調べたんだ。基本的にあやかしの血を継いでいるなら、俺みたいに苗字に何かしら入るからな」
確かに鬼塚社長も猫田さんも全員もれなく苗字に妖怪と関係ある名前が入っている。となると深川という苗字にもあやかしと関係があるのだろうか。
腹痛を紛らわすためそう考えていると鬼塚社長は話しを続ける。
「結論から言えば川と関係がある可能性が出たくらいで、何も分からなかった。あんたのあやかしを突き止めるのはかなり時間が掛かりそうだ」
「やっぱり特定は難しいんですね。私も今度の休日にでも実家へ帰って調べてみます」
本当は昨日から電話かけて調べるつもりだったのだが、あんなことがあったせいで忘れてしまった。今日こそはしっかりと調べる必要がありそうだ。
考え事をして気分を紛らわせたのが功を奏したのか、丁度腹痛が収まり始め、エレベーターは私の目的の階に到着し、私は社長に一礼して降りる。
まだ始業時刻じゃないこともあって談笑する声が聞こえる室内に入ると、コーヒーを飲む猫田さんの姿があり、落ち着いたはずの腹痛が再び襲い掛かる。
私は軽く深呼吸をして挨拶をしながら自分の席へ向かう。
猫田さんはこちらに気付くと気まずそうに目を逸らし、やはり昨日のことを気にしているのだと察した私はどうしようかと頭を悩ませながら席に着き、仕事の準備を始める。
「お、おはよう。体調はどうだ?」
「全然大丈夫です。昨日はありがとうございました」
「昨日何かあったの?」
後ろから掛けられた言葉で振り返ると今来たばかりらしい狐塚さんの姿があり、猫田さんは面倒くさそうな声色で。
「まあ、昨日色々あってな」
「ふーん。もしも蒼馬に変なことされたら私に言ってね」
「何もしてねえよ!」
威嚇する猫の様な雰囲気のある叫びに狐塚さんは「こわいこわい」と笑って自席へと駆けて行く。
そんな会話を周りで聞いていた先輩たちが猫田さんをからかい始め、それに抗うように彼が言い返し、室内が一層騒がしくなる。
「そろそろ始業時間デス。猫田さんが変なことしたようですが、それについては昼休みにでも詳しくお話願いマス」
「部長まで揶揄わないで下さい!」
傘部長はいたずらな笑みを浮かべ、猫田さんもなんやかんやで楽しい様子で笑う。
そうして仕事が始まると室内はさっきの喧噪が嘘だったかのように静かになり、昨日放された通り私は少し重要な仕事を任されることになった。
会社に到着した私は昨日のことで緊張と不安に襲われながらエレベータ―に乗り込み、ボタンを押して上階へと向かう。
と、三階まで上がったところでエレベーターは止まり、扉が開くとそこには――
「お、昨日ぶりだな。職場には慣れたか?」
「は、はい。かなり慣れました」
最上階のボタンを押しながら尋ねて来る鬼塚社長にそう答えると、彼は「それなら良かった」と笑う。
緊張の板挟みになった私はキリキリと痛むお腹を押さえ、このまま死んでしまうのでは無いかなんておかしな考えが頭を過る。
すると何か思い出したようにこちらを見た社長は、私が腹痛に襲われている事には気付いていない様子で。
「昨日、あんたの苗字について色々調べたんだ。基本的にあやかしの血を継いでいるなら、俺みたいに苗字に何かしら入るからな」
確かに鬼塚社長も猫田さんも全員もれなく苗字に妖怪と関係ある名前が入っている。となると深川という苗字にもあやかしと関係があるのだろうか。
腹痛を紛らわすためそう考えていると鬼塚社長は話しを続ける。
「結論から言えば川と関係がある可能性が出たくらいで、何も分からなかった。あんたのあやかしを突き止めるのはかなり時間が掛かりそうだ」
「やっぱり特定は難しいんですね。私も今度の休日にでも実家へ帰って調べてみます」
本当は昨日から電話かけて調べるつもりだったのだが、あんなことがあったせいで忘れてしまった。今日こそはしっかりと調べる必要がありそうだ。
考え事をして気分を紛らわせたのが功を奏したのか、丁度腹痛が収まり始め、エレベーターは私の目的の階に到着し、私は社長に一礼して降りる。
まだ始業時刻じゃないこともあって談笑する声が聞こえる室内に入ると、コーヒーを飲む猫田さんの姿があり、落ち着いたはずの腹痛が再び襲い掛かる。
私は軽く深呼吸をして挨拶をしながら自分の席へ向かう。
猫田さんはこちらに気付くと気まずそうに目を逸らし、やはり昨日のことを気にしているのだと察した私はどうしようかと頭を悩ませながら席に着き、仕事の準備を始める。
「お、おはよう。体調はどうだ?」
「全然大丈夫です。昨日はありがとうございました」
「昨日何かあったの?」
後ろから掛けられた言葉で振り返ると今来たばかりらしい狐塚さんの姿があり、猫田さんは面倒くさそうな声色で。
「まあ、昨日色々あってな」
「ふーん。もしも蒼馬に変なことされたら私に言ってね」
「何もしてねえよ!」
威嚇する猫の様な雰囲気のある叫びに狐塚さんは「こわいこわい」と笑って自席へと駆けて行く。
そんな会話を周りで聞いていた先輩たちが猫田さんをからかい始め、それに抗うように彼が言い返し、室内が一層騒がしくなる。
「そろそろ始業時間デス。猫田さんが変なことしたようですが、それについては昼休みにでも詳しくお話願いマス」
「部長まで揶揄わないで下さい!」
傘部長はいたずらな笑みを浮かべ、猫田さんもなんやかんやで楽しい様子で笑う。
そうして仕事が始まると室内はさっきの喧噪が嘘だったかのように静かになり、昨日放された通り私は少し重要な仕事を任されることになった。
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