13 / 106
12話 酒場にて(猫田視点)
しおりを挟む
「ホントあり得ないですよ、あの男! 今思えば証拠かき集めて裁判でもやれば良かったって思いますから!」
「そ、そうだな」
まだビールを一口しか飲んでいないのにもう酔っぱらった深川に苦笑を禁じ得ない。
それにしてもこの子が言うことが本当であれば、あの会社の終わりは近いな。今更あの会社がどうなろうとどうでも良いが、潰れてくれるならそれに越した事は無い。
言わずもがな、あやかしデジタルの仕事が増えるからである。
そんな腹黒いことを考えていると深川はビールをくいっと飲み、顔を更に赤くする。
「ムリすんなよ?」
「むりしてないですぅ……」
その言葉とは裏腹に彼女は意識が朦朧としているような素振りを見せ、俺はその様子からもう手遅れであると察する。
やがて彼女はへなへなと机に突っ伏し始め、俺が声を掛ける間も無く酔いつぶれてしまった。
「やっぱりな?」
思わず呟きながら残っていた唐揚げを食べた俺は電話でタクシーを呼び、小声で謝りながらテーブルに置かれた深川の財布から免許証を取り出す。
住所を暗記した俺はそれを財布へ戻し、彼女に肩を貸すようにして立たせ、店員に同情の目線を送られながら会計を済ませて外へ出る。
と、丁度到着したタクシーから中年の男性運転手が降りて来て。
「猫田さんですか?」
「はい、猫田です」
「あらら、酔いつぶれましたか」
「そうなんですよ。ドア開けて貰って良いですか?」
俺がそう言うと運転手はドアを開け、深川を席に座らせるのを手伝ってくれた。
礼を言って反対側からタクシーに乗り込んだ俺は運転手に彼女の住所を伝えながらシートベルトを締めると同時、タクシーは走り出す。
深川へと目を向けるとすやすやと幸せそうな寝息を立てていて、さっきまでの騒がしさが嘘のように見える。
それにしても、こうしてちゃんと見てみると顔立ちは整っていてかなり可愛らしい。
セミロングの頭髪もしっかり手入れされているのか艶があり、俺の好みで――
そこまで考えた俺は慌てて自分の頬を抓り、会社で買った水を取り出して一気飲みする。
どうやら深川のことを馬鹿に出来ない程度には俺も酔っぱらっているらしい。
「どうかしましたか? もし気分が悪いようでしたら止めますよ」
「す、すいません。喉乾いただけです」
心配した様子の運転手に慌てて誤魔化し、俺はペットボトルに残った水を飲み干して鞄へ突っ込む。
タクシーに乗っただけなのにここまで精神的に疲れるとは予想外だ。
そうして数十分後、無事に深川のアパートの前へ到着し、タクシーを降りた俺は完全に寝てしまった深川を負ぶって、事前に深川の鞄から取り出しておいた鍵で一〇ニ号室の扉を開け、室内に入った俺は明かりを付ける。
整理整頓された部屋の端に位置するベッドに彼女を寝かせた俺はそこから離れようとすると腕を掴まれた。
「ねこたさん……」
「起きたのか?」
そう質問しながら振り返ると起きている訳では無く、むにゃむにゃと寝言を言っているだけで、寝惚けているのだと察する。
「ほら、放しなさい」
そう言いながら手を引っ張ってみるが意外にも深川の力は強く、中々放れないし放そうとしない。
どうしようかと悩んでいると急に彼女は俺の手をグイっと引っ張り、油断していた俺はそのまま彼女の横に倒れ込む。
息がかかる程近くまでその可愛らしい顔が近付き、恋愛経験の無い俺は頭の中が真っ白になっていると――
「……猫田さん?」
最悪なタイミングで深川は目を覚まし、元々赤らんでいた顔を耳まで真っ赤にさせた。
「そ、そうだな」
まだビールを一口しか飲んでいないのにもう酔っぱらった深川に苦笑を禁じ得ない。
それにしてもこの子が言うことが本当であれば、あの会社の終わりは近いな。今更あの会社がどうなろうとどうでも良いが、潰れてくれるならそれに越した事は無い。
言わずもがな、あやかしデジタルの仕事が増えるからである。
そんな腹黒いことを考えていると深川はビールをくいっと飲み、顔を更に赤くする。
「ムリすんなよ?」
「むりしてないですぅ……」
その言葉とは裏腹に彼女は意識が朦朧としているような素振りを見せ、俺はその様子からもう手遅れであると察する。
やがて彼女はへなへなと机に突っ伏し始め、俺が声を掛ける間も無く酔いつぶれてしまった。
「やっぱりな?」
思わず呟きながら残っていた唐揚げを食べた俺は電話でタクシーを呼び、小声で謝りながらテーブルに置かれた深川の財布から免許証を取り出す。
住所を暗記した俺はそれを財布へ戻し、彼女に肩を貸すようにして立たせ、店員に同情の目線を送られながら会計を済ませて外へ出る。
と、丁度到着したタクシーから中年の男性運転手が降りて来て。
「猫田さんですか?」
「はい、猫田です」
「あらら、酔いつぶれましたか」
「そうなんですよ。ドア開けて貰って良いですか?」
俺がそう言うと運転手はドアを開け、深川を席に座らせるのを手伝ってくれた。
礼を言って反対側からタクシーに乗り込んだ俺は運転手に彼女の住所を伝えながらシートベルトを締めると同時、タクシーは走り出す。
深川へと目を向けるとすやすやと幸せそうな寝息を立てていて、さっきまでの騒がしさが嘘のように見える。
それにしても、こうしてちゃんと見てみると顔立ちは整っていてかなり可愛らしい。
セミロングの頭髪もしっかり手入れされているのか艶があり、俺の好みで――
そこまで考えた俺は慌てて自分の頬を抓り、会社で買った水を取り出して一気飲みする。
どうやら深川のことを馬鹿に出来ない程度には俺も酔っぱらっているらしい。
「どうかしましたか? もし気分が悪いようでしたら止めますよ」
「す、すいません。喉乾いただけです」
心配した様子の運転手に慌てて誤魔化し、俺はペットボトルに残った水を飲み干して鞄へ突っ込む。
タクシーに乗っただけなのにここまで精神的に疲れるとは予想外だ。
そうして数十分後、無事に深川のアパートの前へ到着し、タクシーを降りた俺は完全に寝てしまった深川を負ぶって、事前に深川の鞄から取り出しておいた鍵で一〇ニ号室の扉を開け、室内に入った俺は明かりを付ける。
整理整頓された部屋の端に位置するベッドに彼女を寝かせた俺はそこから離れようとすると腕を掴まれた。
「ねこたさん……」
「起きたのか?」
そう質問しながら振り返ると起きている訳では無く、むにゃむにゃと寝言を言っているだけで、寝惚けているのだと察する。
「ほら、放しなさい」
そう言いながら手を引っ張ってみるが意外にも深川の力は強く、中々放れないし放そうとしない。
どうしようかと悩んでいると急に彼女は俺の手をグイっと引っ張り、油断していた俺はそのまま彼女の横に倒れ込む。
息がかかる程近くまでその可愛らしい顔が近付き、恋愛経験の無い俺は頭の中が真っ白になっていると――
「……猫田さん?」
最悪なタイミングで深川は目を覚まし、元々赤らんでいた顔を耳まで真っ赤にさせた。
25
お気に入りに追加
1,440
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。


もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話
ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。
完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる