10 / 106
9話
しおりを挟む
久々の美味しい料理によってすっかり膨れた腹を摩る。
昼食を満足に食べたのは一体いつぶりだろうか。少なくとも就職してからこんなに満足に食べたことは無い気がする。
と、私の横で満足そうな溜息を吐いた狐塚さんがこちらを見て。
「どう、美味しかったでしょ?」
「うん、本当に美味しかった」
その言葉に嬉しそうな笑みを見せた彼女はコップに残っていた水を飲み干して。
「私の自己紹介まだだったよね。会社で教えたと思うけど、私の名前は狐塚七海。名前にも狐が入っているから分かると思うけど、先祖は妖狐だったみたい」
「物に化ける能力があったり?」
「それが無いんだよね。木の葉を頭に乗せてみたりしたんだけど何も出来なかった」
木の葉を頭に乗せている狐塚さんを想像すると絶対に可愛いであろうことが予想出来る。
それはさて置き、昔話のように変身が出来ないとなると、狐の雰囲気があるだけなのだろうか。それとも、分かり難いだけで何か別の力があるのだろうか。
解けることのない謎が脳内に浮かび上がっていると、サービスで出されたお茶を一口飲んだ猫田さんが「ちょっといいかい」と私に声を掛けて。
「深川さんも自己紹介しちゃって。俺たちが一番知りたいのは君のことだから」
「分かりました」
その言葉で居住まいを正した私は先輩たちの方を向く。
「私は深川桂里奈です。大村で働いていましたが諸々の事情で解雇されて、鬼塚社長に勧誘して頂き、あやかしデジタルに入社しました。改めてよろしくお願いします」
言い終えると同時に頭を下げると全員が「よろしく」と声を掛け、小さいが拍手もされた。
その温かさにここなら上手くやっていけるかもしれないという思いが脳裏を過ると同時、木綿谷先輩が興味ある様子で。
「あやかしはまだ分かって無いんだよね? 自分の好き嫌いとか身体的特徴とかであやかしと関係ありそうだなってことは何か無いの?」
「今のところ分かっているのは物理的にも精神的にもかなりタフなことくらいです。これと言って得意なことはありませんし……」
運動も勉強も頑張ればそれなりの成績を出せたがその程度で、これと言って得意な物は特に無い。
すると猫田さんが何か思い出した様子で小さく手を上げて。
「今日初めて会った時、何でか知らないけど深川さんを見た時すげえ恐かったんだよ。何て言うか、食われそうって感じ?」
「食べませんよ?」
「分かっとるわ」
笑いながらツッコミを入れた猫田さんによって小さな笑いが起きる中、私もその時のことを思い出した。
初対面でいきなり警戒されたり、目を向けたら体を震わせたりと、今考えてみれば天敵に怯える猫のようだ。猫の天敵が関係していたりするのだろうか。
と、矢壁先輩が水を飲み干して。
「もしかしたらだけどさ、深川さんのあやかしって俺たちが考えてるよりもずっと強力なものかもな。鬼塚社長、何か言ってなかった?」
「そう言えば私のタフさを知ったら、鬼の仲間かそれよりもっと強力な存在かもしれないって話してました」
勧誘に来た時、私には強力なあやかしの気配を感じると話していた。お世辞だったのかもしれないが、鬼に並ぶような妖怪の可能性もあるかもしれない。
「まあ、深川さんのあやかしの正体はまだ分からなさそうだし、そろそろ会社戻ろうか」
猫田さんの言葉に私は頷き、立ち上がると他の先輩たちもスマホや財布を手にしてぞろぞろと立ち上がる。
そうして会計を済ませた私たちは残りの仕事をするべく、雑談をしながら会社へと戻った。
昼食を満足に食べたのは一体いつぶりだろうか。少なくとも就職してからこんなに満足に食べたことは無い気がする。
と、私の横で満足そうな溜息を吐いた狐塚さんがこちらを見て。
「どう、美味しかったでしょ?」
「うん、本当に美味しかった」
その言葉に嬉しそうな笑みを見せた彼女はコップに残っていた水を飲み干して。
「私の自己紹介まだだったよね。会社で教えたと思うけど、私の名前は狐塚七海。名前にも狐が入っているから分かると思うけど、先祖は妖狐だったみたい」
「物に化ける能力があったり?」
「それが無いんだよね。木の葉を頭に乗せてみたりしたんだけど何も出来なかった」
木の葉を頭に乗せている狐塚さんを想像すると絶対に可愛いであろうことが予想出来る。
それはさて置き、昔話のように変身が出来ないとなると、狐の雰囲気があるだけなのだろうか。それとも、分かり難いだけで何か別の力があるのだろうか。
解けることのない謎が脳内に浮かび上がっていると、サービスで出されたお茶を一口飲んだ猫田さんが「ちょっといいかい」と私に声を掛けて。
「深川さんも自己紹介しちゃって。俺たちが一番知りたいのは君のことだから」
「分かりました」
その言葉で居住まいを正した私は先輩たちの方を向く。
「私は深川桂里奈です。大村で働いていましたが諸々の事情で解雇されて、鬼塚社長に勧誘して頂き、あやかしデジタルに入社しました。改めてよろしくお願いします」
言い終えると同時に頭を下げると全員が「よろしく」と声を掛け、小さいが拍手もされた。
その温かさにここなら上手くやっていけるかもしれないという思いが脳裏を過ると同時、木綿谷先輩が興味ある様子で。
「あやかしはまだ分かって無いんだよね? 自分の好き嫌いとか身体的特徴とかであやかしと関係ありそうだなってことは何か無いの?」
「今のところ分かっているのは物理的にも精神的にもかなりタフなことくらいです。これと言って得意なことはありませんし……」
運動も勉強も頑張ればそれなりの成績を出せたがその程度で、これと言って得意な物は特に無い。
すると猫田さんが何か思い出した様子で小さく手を上げて。
「今日初めて会った時、何でか知らないけど深川さんを見た時すげえ恐かったんだよ。何て言うか、食われそうって感じ?」
「食べませんよ?」
「分かっとるわ」
笑いながらツッコミを入れた猫田さんによって小さな笑いが起きる中、私もその時のことを思い出した。
初対面でいきなり警戒されたり、目を向けたら体を震わせたりと、今考えてみれば天敵に怯える猫のようだ。猫の天敵が関係していたりするのだろうか。
と、矢壁先輩が水を飲み干して。
「もしかしたらだけどさ、深川さんのあやかしって俺たちが考えてるよりもずっと強力なものかもな。鬼塚社長、何か言ってなかった?」
「そう言えば私のタフさを知ったら、鬼の仲間かそれよりもっと強力な存在かもしれないって話してました」
勧誘に来た時、私には強力なあやかしの気配を感じると話していた。お世辞だったのかもしれないが、鬼に並ぶような妖怪の可能性もあるかもしれない。
「まあ、深川さんのあやかしの正体はまだ分からなさそうだし、そろそろ会社戻ろうか」
猫田さんの言葉に私は頷き、立ち上がると他の先輩たちもスマホや財布を手にしてぞろぞろと立ち上がる。
そうして会計を済ませた私たちは残りの仕事をするべく、雑談をしながら会社へと戻った。
25
お気に入りに追加
1,439
あなたにおすすめの小説
雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う
ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。
煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。
そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。
彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。
そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。
しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。
自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。
ルナール古書店の秘密
志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。
その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。
それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。
そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。
先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。
表紙は写真ACより引用しています
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる