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7話 お昼時
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時刻はお昼の十二時。
大村に居た頃は食べる時間も惜しくてゼリーやカロリーメイトなどで済ませていたのだが、仕事の少なさもあって時間にはかなり余裕がある。
どこかに食べに行こうかなんて考えていると、丁度区切りの良い所まで仕事が終わった様子の猫田さんが。
「良かったら食べに行かない? ここら辺の美味しい店知ってるからさ」
「良いんですか? で、では、お言葉に甘えて……」
社会人になってからは初めて食事に誘われた事による嬉しさから声が上擦ってしまったが猫田さんは気にする様子無く立ち上がり、他の先輩たちを誘い始める。
私はPCの画面を閉じてから立ち上がり、財布とスマホをポケットに入れてエレベータの方へと向かう猫田さんの後を追う。
すると彼はエレベーター前の自販機で飲み物を買おうとしていて、私に気付くと自販機を指差して。
「何か欲しいのあるか? 新入りってことで、何か買って上げるよ」
「じゃ、じゃあ、お茶をお願いします」
猫田さんはコーラとお茶のボタンを押してそれらを取り出し、私はお礼を言いながら受け取る。
そう言えば大村ではお茶を買って良いのは上司だけという暗黙の決まりがあったせいで、忙しい日はエナドリ以外飲めなかった記憶がある。
嫌な記憶のせいで思わず溜息を吐くと、猫田さんは何かを思い出したように。
「そう言えば大村にはお茶とジュースは上司しか買えない決まりあったっけ」
「ありましたね。おかげで忙しい日なんてエナドリしか飲めなかったですから」
あの部署だけの決まりだと思っていたのだが、大村ではどこでもこの決まりがあったらしい。
今思えば、あの会社は昭和の高校を引きずっていたのかもしれない。
その頃のことを思い出したらしい猫田さんは呆れたような笑みを浮かべて。
「ここにはそんな決まりないから、普通に飲みたいもの飲んでな。もし足りなくなった部長に」
「分かりました」
そう答えつつ自販機を見ると、大村のそれとは違ってエナドリは二つしか無く、ジュースやお茶、コーヒーなどの普通のものが並んでいる。
これはつまり、エナドリが必要になるような残業が少ないと言う事なのだろうか。
「猫田お待たせー。それじゃ行こうか」
何か準備をしていたらしい他の先輩たちの言葉で、猫田さんはいじってたスマホをポケットに仕舞いながら。
「おう、今日は二口食堂で良いよな?」
「良いよー」
聞いた事の無い料理店の名前に私は首を傾げると、狐っぽい雰囲気を持ち、私と同い年である狐塚さんが私の横に並んで。
「二口女の子孫が代々営業してる定食屋なの。凄く美味しいから安心してね」
「そうなんだ……ちょっと楽しみかも」
敬語は使わないで欲しいと言われたため、ため口でそう言うと彼女は「楽しみにしてて」と笑う。
そうして下から上がって来たエレベーターに乗り込んだ私たちは一階へと降り、お昼時なこともあって少し賑やかなロビーを通り抜け、二口食堂を目指して会社を出た。
大村に居た頃は食べる時間も惜しくてゼリーやカロリーメイトなどで済ませていたのだが、仕事の少なさもあって時間にはかなり余裕がある。
どこかに食べに行こうかなんて考えていると、丁度区切りの良い所まで仕事が終わった様子の猫田さんが。
「良かったら食べに行かない? ここら辺の美味しい店知ってるからさ」
「良いんですか? で、では、お言葉に甘えて……」
社会人になってからは初めて食事に誘われた事による嬉しさから声が上擦ってしまったが猫田さんは気にする様子無く立ち上がり、他の先輩たちを誘い始める。
私はPCの画面を閉じてから立ち上がり、財布とスマホをポケットに入れてエレベータの方へと向かう猫田さんの後を追う。
すると彼はエレベーター前の自販機で飲み物を買おうとしていて、私に気付くと自販機を指差して。
「何か欲しいのあるか? 新入りってことで、何か買って上げるよ」
「じゃ、じゃあ、お茶をお願いします」
猫田さんはコーラとお茶のボタンを押してそれらを取り出し、私はお礼を言いながら受け取る。
そう言えば大村ではお茶を買って良いのは上司だけという暗黙の決まりがあったせいで、忙しい日はエナドリ以外飲めなかった記憶がある。
嫌な記憶のせいで思わず溜息を吐くと、猫田さんは何かを思い出したように。
「そう言えば大村にはお茶とジュースは上司しか買えない決まりあったっけ」
「ありましたね。おかげで忙しい日なんてエナドリしか飲めなかったですから」
あの部署だけの決まりだと思っていたのだが、大村ではどこでもこの決まりがあったらしい。
今思えば、あの会社は昭和の高校を引きずっていたのかもしれない。
その頃のことを思い出したらしい猫田さんは呆れたような笑みを浮かべて。
「ここにはそんな決まりないから、普通に飲みたいもの飲んでな。もし足りなくなった部長に」
「分かりました」
そう答えつつ自販機を見ると、大村のそれとは違ってエナドリは二つしか無く、ジュースやお茶、コーヒーなどの普通のものが並んでいる。
これはつまり、エナドリが必要になるような残業が少ないと言う事なのだろうか。
「猫田お待たせー。それじゃ行こうか」
何か準備をしていたらしい他の先輩たちの言葉で、猫田さんはいじってたスマホをポケットに仕舞いながら。
「おう、今日は二口食堂で良いよな?」
「良いよー」
聞いた事の無い料理店の名前に私は首を傾げると、狐っぽい雰囲気を持ち、私と同い年である狐塚さんが私の横に並んで。
「二口女の子孫が代々営業してる定食屋なの。凄く美味しいから安心してね」
「そうなんだ……ちょっと楽しみかも」
敬語は使わないで欲しいと言われたため、ため口でそう言うと彼女は「楽しみにしてて」と笑う。
そうして下から上がって来たエレベーターに乗り込んだ私たちは一階へと降り、お昼時なこともあって少し賑やかなロビーを通り抜け、二口食堂を目指して会社を出た。
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