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5話 体験入社
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一ヶ月後。
私は目の前に聳え立つあやかしデジタルの本社を前にして、緊張を和らげるべく大きく深呼吸していた。
そう、今日は楽しみにしていた体験入社の日だ。
楽しみにしていたというのも、鬼塚社長がやって来た後日、私はあやかしデジタルについてしっかりと調べ上げ、ほぼ満点に近い評価をいくつも目にしたのだ。
忙しい時を除いて基本的に定時退社を義務付けている外、有休や育児休暇の取りやすさなども挙げられていて、理想の会社と言って間違いない。
それに加え、事前に渡された資料にはホワイト企業の片鱗が見え隠れしてる。
例えば、本来誇るべき好待遇がさも当然のようにちゃっかり書かれていたり、短所や残業についてもしっかり記されてあったり、どこかのブラック企業が配布した資料とは天と地ほどの差があると言える。
これだけホワイト企業の要素があったらここで働くのが楽しみになるというものである。
「お、もう来てたのか」
唐突な聞き覚えのある声に驚いて振り返ると、そこには社用車を降りて来たと思われる鬼塚社長の姿があった。
私は慌てて頭を下げて。
「今日よりお世話になります、深川桂里奈です。よろしくお願い申し上げます」
「そんな硬くするな。来るように頼んだのは俺だからな」
そう言って私の肩に手を置いた彼は「行こうか」と言って歩き出し、私は短く返事をしてその後を追う。
すると後ろにスーツ姿にサングラスを掛けた、さながらボディーガードのような二人の男が付いた。
チラと見てみると二人は何かは分からないが普通の人とは違う雰囲気があり、妖怪の血を持っているのだと分かる。
「二人が気になるか?」
「す、すみません。気になります」
「あやかし枠として採用したやつは全員気になるらしいからな、そんな申し訳無さそうにするな」
そう言って社長は笑い、二人の紹介を始める。
「こいつらは天狗の兄弟だ。苗字も天狗木で、正に天狗の子って言ったところだ」
「す、凄いですね」
鬼が来たと思えば、次は天狗と来たか。この場に三大妖怪の内の二つが揃っているとは末恐ろしい。
すると社長は「そうだな」と言って笑って。
「後もう一人、河童の血を持ってる奴もいるんだが、家族旅行に行ってて今は居ないんだ。あいつもいれば、ここに三大妖怪が揃ったんだがな」
「河童のお方も何か特性を引き継いでいたりするんですか?」
「ああ、力の強さと恩義の厚さは河童譲りだな。それときゅうりへの愛もだ」
河童が恩義に厚いのは初耳だ。少なくとも良い人なのは間違いない。
そんな会話をしている間に会社の中へと入った私は、付いて来るよう言う社長の後を追って中へと入る。
「そう言えば、何のあやかしの血を受け継いでるのか分かったか?」
私はその質問に首を振って。
「全く分かりませんでした。母や祖母に連絡してみましたが、伝承のようなものは無いみたいでしたし」
「となると、何かの理由で先祖がその存在を隠匿したか、どこかの代で伝承が途切れたのかもしれないな。この会社にもそういう奴はかなり居る。俺の方でも調べておこう」
「よろしくお願いします」
調べて貰えるのは有難い。私も祖母や祖父に調べてもらおうようお願いしておこう。
今後やることを決めながら社長の後を追ってエレベーターに乗ると同時、この大企業のトップと同じ空間にいることによる緊張から鼓動が早くなる。
バレないように息を吐いて落ち着けていると、社長は何か思い出した様子で私を見て。
「これからあんたに働いて貰う部署は他に比べて忙しい方だ。もし厳しいようだったら遠慮無く言ってくれ」
「分かりました。頑張ります」
事前に渡された資料のおかげで大村に居た頃の仕事内容とそう大きくは変わらないことは分かっている。
仕事量がどの程度かは知らないが、多い時では六人分の仕事をこなしていた私ならきっと何とかなるに違いない。
私は自分にそう言い聞かせ、緊張で少し痛むお腹を押さえながら、社長と共にエレベーターを降りた。
私は目の前に聳え立つあやかしデジタルの本社を前にして、緊張を和らげるべく大きく深呼吸していた。
そう、今日は楽しみにしていた体験入社の日だ。
楽しみにしていたというのも、鬼塚社長がやって来た後日、私はあやかしデジタルについてしっかりと調べ上げ、ほぼ満点に近い評価をいくつも目にしたのだ。
忙しい時を除いて基本的に定時退社を義務付けている外、有休や育児休暇の取りやすさなども挙げられていて、理想の会社と言って間違いない。
それに加え、事前に渡された資料にはホワイト企業の片鱗が見え隠れしてる。
例えば、本来誇るべき好待遇がさも当然のようにちゃっかり書かれていたり、短所や残業についてもしっかり記されてあったり、どこかのブラック企業が配布した資料とは天と地ほどの差があると言える。
これだけホワイト企業の要素があったらここで働くのが楽しみになるというものである。
「お、もう来てたのか」
唐突な聞き覚えのある声に驚いて振り返ると、そこには社用車を降りて来たと思われる鬼塚社長の姿があった。
私は慌てて頭を下げて。
「今日よりお世話になります、深川桂里奈です。よろしくお願い申し上げます」
「そんな硬くするな。来るように頼んだのは俺だからな」
そう言って私の肩に手を置いた彼は「行こうか」と言って歩き出し、私は短く返事をしてその後を追う。
すると後ろにスーツ姿にサングラスを掛けた、さながらボディーガードのような二人の男が付いた。
チラと見てみると二人は何かは分からないが普通の人とは違う雰囲気があり、妖怪の血を持っているのだと分かる。
「二人が気になるか?」
「す、すみません。気になります」
「あやかし枠として採用したやつは全員気になるらしいからな、そんな申し訳無さそうにするな」
そう言って社長は笑い、二人の紹介を始める。
「こいつらは天狗の兄弟だ。苗字も天狗木で、正に天狗の子って言ったところだ」
「す、凄いですね」
鬼が来たと思えば、次は天狗と来たか。この場に三大妖怪の内の二つが揃っているとは末恐ろしい。
すると社長は「そうだな」と言って笑って。
「後もう一人、河童の血を持ってる奴もいるんだが、家族旅行に行ってて今は居ないんだ。あいつもいれば、ここに三大妖怪が揃ったんだがな」
「河童のお方も何か特性を引き継いでいたりするんですか?」
「ああ、力の強さと恩義の厚さは河童譲りだな。それときゅうりへの愛もだ」
河童が恩義に厚いのは初耳だ。少なくとも良い人なのは間違いない。
そんな会話をしている間に会社の中へと入った私は、付いて来るよう言う社長の後を追って中へと入る。
「そう言えば、何のあやかしの血を受け継いでるのか分かったか?」
私はその質問に首を振って。
「全く分かりませんでした。母や祖母に連絡してみましたが、伝承のようなものは無いみたいでしたし」
「となると、何かの理由で先祖がその存在を隠匿したか、どこかの代で伝承が途切れたのかもしれないな。この会社にもそういう奴はかなり居る。俺の方でも調べておこう」
「よろしくお願いします」
調べて貰えるのは有難い。私も祖母や祖父に調べてもらおうようお願いしておこう。
今後やることを決めながら社長の後を追ってエレベーターに乗ると同時、この大企業のトップと同じ空間にいることによる緊張から鼓動が早くなる。
バレないように息を吐いて落ち着けていると、社長は何か思い出した様子で私を見て。
「これからあんたに働いて貰う部署は他に比べて忙しい方だ。もし厳しいようだったら遠慮無く言ってくれ」
「分かりました。頑張ります」
事前に渡された資料のおかげで大村に居た頃の仕事内容とそう大きくは変わらないことは分かっている。
仕事量がどの程度かは知らないが、多い時では六人分の仕事をこなしていた私ならきっと何とかなるに違いない。
私は自分にそう言い聞かせ、緊張で少し痛むお腹を押さえながら、社長と共にエレベーターを降りた。
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