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4話
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ーー鬼。
その男を一目見て頭に浮かんだのはその一文字だった。
すると彼は私に対して礼儀正しく一礼してこちらへ来ると、名刺を取り出して。
「初めまして、あやかしデジタルで社長を務める鬼塚勝二だ」
「ど、どうも。株式会社大村で働いていました、深川桂里奈です」
名刺を受け取りながら私も自己紹介をすると、彼は優し気な微笑みを浮かべ、中田さんに二人で会話させて欲しいと声を掛ける。
こちらに目で判断を仰ぐ彼女に、二人で話したいと考えた私はコクリと頷くと、彼女もコクリと頷いて去って行った。
そうして二人きりになったところで彼はベッド脇の椅子に腰掛けると。
「そんじゃ、早速だが一つ質問だ。俺を見た時、鬼を連想したか?」
「……失礼ながら、連想しました」
全てを見透かしている様な鬼塚社長の雰囲気に嘘を吐いてもバレると見た私は素直にそう答えた。
すると彼は「やはり」とどこか嬉しそうに呟くと、少し前屈みになって。
「鬼を連想したのは失礼なことじゃあない。実際、俺には鬼の血が流れている」
「え?」
ふざけているのかと思ったが冗談を言っている雰囲気では無く、少し頭のおかしな人なのかと失礼な考えが脳裏を過り、愛想笑いを浮かべることしか出来ない。
「おっと、いきなりこんなこと言われても困るよな。なら、少し見せてやろうか」
そう言って彼は前髪を持ち上げると同時、しわ一つない額に二本の角が現れ、私は言葉を失った。
鬼塚社長はそんな私を見て面白そうに笑うと。
「どうだ、これで信じてくれたか?」
「し、信じます」
マジックや特殊メイクの類かとも思ったがそんな事は無く、明らかにそれは鬼の角で、最早私はその話を信じる外無い。
と、彼は楽しげだった雰囲気を真面目な物に戻し、私もそれ合わせて脳内で湧き出す解決するはずのない疑問を一度捨てる。
「おふざけはこのくらいにして本題に入ろう。まず、俺が会いに来た理由だが、あんたにも俺同様、何かしらあやかしの血が流れているのが一つ目だ。あんたが俺を見て鬼だと分かったように、俺もあんたが何か強力なあやかしの血を持っているのは見れば分かんだ」
「あやかしの血……ですか」
「ああ。だけどな、あんたの場合は俺のように見た目や雰囲気には出ないタイプで、俺にはその正体が何なのか全く分からん。自分で何か心当たりは無いか?」
そう言われれば心当たりはいくつかある。
今までどんな怪我をしても翌日、遅くても三日以内に全て治っていたり、生まれてから一度とて風邪を引かなかったり、そして今回入院することになった過労も今では見る影も無い。
それを伝えると鬼塚社長は考える素振りを見せ、
「俺と同じ鬼の仲間か、それとももっと強力な何かか……今の情報だけじゃ分からんな」
言わずもがな私も分からない。
そもそもあやかしの血が流れている人がいるなんて話を聞いた事も無いのだから、それが普通だろう。
と、一度それについて考えるのは辞めたらしい彼は、私に会いに来たもう一つの理由とやらを話し始める。
「もう一つの理由は、あやかしデジタルは極秘にではあるが、あやかしの血を持つ人間を集めている。ってことで、俺の会社で働いてみる気は無いか?」
何となく察してはいたがやはりそれが目的だったか。
私はそう思いつつ、真剣な目をする彼におずおずと。
「その……大村に入社してすぐの頃、ブラックすぎてもっと調べておけば良かったと後悔したんです。なので少し時間を頂けませんか?」
「ああ、なるほど。じゃあ体験入社でもしてみるか? やる事は同じ広告代理店である以上、大村とそこまで変わらないはずだしな」
それは嬉しい。職場の雰囲気や仕事量についても知れるわけだし、これなら安心だろう。
そう考えた私は体験入社を引き受ける事に決め、後日連絡を取り合う形で話が纏まり、今日は解散となった。
再就職という小さな不安の種が早い段階で摘まれたことに安心と、ホワイト企業と名高い企業で働ける嬉しさに胸が躍る。
もしもホワイト企業だったなら、年老いて働けなくなるまで尽くしてみるのも良いかもしれない。
その男を一目見て頭に浮かんだのはその一文字だった。
すると彼は私に対して礼儀正しく一礼してこちらへ来ると、名刺を取り出して。
「初めまして、あやかしデジタルで社長を務める鬼塚勝二だ」
「ど、どうも。株式会社大村で働いていました、深川桂里奈です」
名刺を受け取りながら私も自己紹介をすると、彼は優し気な微笑みを浮かべ、中田さんに二人で会話させて欲しいと声を掛ける。
こちらに目で判断を仰ぐ彼女に、二人で話したいと考えた私はコクリと頷くと、彼女もコクリと頷いて去って行った。
そうして二人きりになったところで彼はベッド脇の椅子に腰掛けると。
「そんじゃ、早速だが一つ質問だ。俺を見た時、鬼を連想したか?」
「……失礼ながら、連想しました」
全てを見透かしている様な鬼塚社長の雰囲気に嘘を吐いてもバレると見た私は素直にそう答えた。
すると彼は「やはり」とどこか嬉しそうに呟くと、少し前屈みになって。
「鬼を連想したのは失礼なことじゃあない。実際、俺には鬼の血が流れている」
「え?」
ふざけているのかと思ったが冗談を言っている雰囲気では無く、少し頭のおかしな人なのかと失礼な考えが脳裏を過り、愛想笑いを浮かべることしか出来ない。
「おっと、いきなりこんなこと言われても困るよな。なら、少し見せてやろうか」
そう言って彼は前髪を持ち上げると同時、しわ一つない額に二本の角が現れ、私は言葉を失った。
鬼塚社長はそんな私を見て面白そうに笑うと。
「どうだ、これで信じてくれたか?」
「し、信じます」
マジックや特殊メイクの類かとも思ったがそんな事は無く、明らかにそれは鬼の角で、最早私はその話を信じる外無い。
と、彼は楽しげだった雰囲気を真面目な物に戻し、私もそれ合わせて脳内で湧き出す解決するはずのない疑問を一度捨てる。
「おふざけはこのくらいにして本題に入ろう。まず、俺が会いに来た理由だが、あんたにも俺同様、何かしらあやかしの血が流れているのが一つ目だ。あんたが俺を見て鬼だと分かったように、俺もあんたが何か強力なあやかしの血を持っているのは見れば分かんだ」
「あやかしの血……ですか」
「ああ。だけどな、あんたの場合は俺のように見た目や雰囲気には出ないタイプで、俺にはその正体が何なのか全く分からん。自分で何か心当たりは無いか?」
そう言われれば心当たりはいくつかある。
今までどんな怪我をしても翌日、遅くても三日以内に全て治っていたり、生まれてから一度とて風邪を引かなかったり、そして今回入院することになった過労も今では見る影も無い。
それを伝えると鬼塚社長は考える素振りを見せ、
「俺と同じ鬼の仲間か、それとももっと強力な何かか……今の情報だけじゃ分からんな」
言わずもがな私も分からない。
そもそもあやかしの血が流れている人がいるなんて話を聞いた事も無いのだから、それが普通だろう。
と、一度それについて考えるのは辞めたらしい彼は、私に会いに来たもう一つの理由とやらを話し始める。
「もう一つの理由は、あやかしデジタルは極秘にではあるが、あやかしの血を持つ人間を集めている。ってことで、俺の会社で働いてみる気は無いか?」
何となく察してはいたがやはりそれが目的だったか。
私はそう思いつつ、真剣な目をする彼におずおずと。
「その……大村に入社してすぐの頃、ブラックすぎてもっと調べておけば良かったと後悔したんです。なので少し時間を頂けませんか?」
「ああ、なるほど。じゃあ体験入社でもしてみるか? やる事は同じ広告代理店である以上、大村とそこまで変わらないはずだしな」
それは嬉しい。職場の雰囲気や仕事量についても知れるわけだし、これなら安心だろう。
そう考えた私は体験入社を引き受ける事に決め、後日連絡を取り合う形で話が纏まり、今日は解散となった。
再就職という小さな不安の種が早い段階で摘まれたことに安心と、ホワイト企業と名高い企業で働ける嬉しさに胸が躍る。
もしもホワイト企業だったなら、年老いて働けなくなるまで尽くしてみるのも良いかもしれない。
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