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3話 あやかし企業
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入院してから一週間が経ち、完全では無いが体は大分元気を取り戻した。
朝起きても疲れが残っているなんて事も無ければ、手足がしびれたり頭痛がしたりなんて事も無い。
こんなに元気なのは一体いつぶりだろうか。
寝起きの頭でそんな事を考えながら体をぐいと天井に向けて伸ばしていると、カーテンの向こうから聞き慣れた看護師の声で。
「深川さん、入って大丈夫ですか?」
「はい、どうぞ」
私の返事でカーテンを開けて入って来たのはいつもお世話になっている看護師の中田由奈さんだった。
「調子はどうですか?」
「かなり回復したと思います。あと何日か経てば完全回復しそうです」
「それなら、四週間も要らないかもしれませんね」
冗談めかして笑った彼女に、しかし私は本気でそう思う。
鳩山が帰った後にだが、医師の話では私の過労は深刻なもので、一ヶ月以上は入院する必要があるのだと言っていた。
しかし、昔から風邪も引いたことが無かった私のタフさが発揮されたのかは分からないが、目覚めて二日も経った頃にはふらつきも無く歩けるようになり、今では入院する前よりも元気になっている。
深刻な過労がどうのと言っていたが、本当はバッテリーが切れたようなものだったりするのだろうか?
ちなみに鳩山の件があってから面会は完全許可制にしてもらった。
というのも、クビを言い渡した翌日にも再び来て、仕事を押し付けようとしてきたのだ。
幸いにも中田さんが異変に気付いて来てくれたから良かったが、もしあのまま誰も来てくれなかったら、クビになったはずの会社の仕事をやる羽目になっていただろう。
と、点滴を交換した中田さんは「あっ」と何かを思い出したように呟いてポケットから一枚の紙を取り出す。
それは面会依頼の紙で、私はまた鳩山が来たのかと眉を顰めるが、彼女はニコリと微笑んで。
「今回はあの頭のおかしな方では無くて、どこかの企業の社長さんらしいです。是非お会いして話をしたい、とのことでした」
「社長が直々に?」
思わず呟きながらその紙を受け取る。
そこには株式会社大村がライバル視している広告代理店である株式会社あやかしデジタルと書かれてあり、私は思わず目を疑った。
「どうします? 面会しますか?」
「ええ、お願いします」
私が声を震わせながら言うと中田さんは「分かりました」とだけ言うと病室を出て行った。
あやかしデジタルはまだ小さい会社でありながら、大村なんて比較するのも馬鹿らしくなるほどホワイトだと聞いている。
大村の事もあって鵜呑みにするつもりは無いが、もし勧誘してくれるのであれば話はしっかりと聞いておこう。
軽く深呼吸しているとカーテンが開けられ、中田さんが入って来た。
彼女は私の耳元に口を近付けると小さな声で。
「見た目は凄く恐いですけど話してみるとすごく紳士的でしたので安心してください」
「は、はい」
見た目が恐い人なんてあの会社で何度も接して来た。おそらく大丈夫だろう。
私が内心でそう考えると中田さんは入って来るよう声を掛け。
姿を見せたのは身長二メートルはあるであろう筋骨隆々の巨体と、熊も逃げ出しそうな強面を持つ大男であった。
朝起きても疲れが残っているなんて事も無ければ、手足がしびれたり頭痛がしたりなんて事も無い。
こんなに元気なのは一体いつぶりだろうか。
寝起きの頭でそんな事を考えながら体をぐいと天井に向けて伸ばしていると、カーテンの向こうから聞き慣れた看護師の声で。
「深川さん、入って大丈夫ですか?」
「はい、どうぞ」
私の返事でカーテンを開けて入って来たのはいつもお世話になっている看護師の中田由奈さんだった。
「調子はどうですか?」
「かなり回復したと思います。あと何日か経てば完全回復しそうです」
「それなら、四週間も要らないかもしれませんね」
冗談めかして笑った彼女に、しかし私は本気でそう思う。
鳩山が帰った後にだが、医師の話では私の過労は深刻なもので、一ヶ月以上は入院する必要があるのだと言っていた。
しかし、昔から風邪も引いたことが無かった私のタフさが発揮されたのかは分からないが、目覚めて二日も経った頃にはふらつきも無く歩けるようになり、今では入院する前よりも元気になっている。
深刻な過労がどうのと言っていたが、本当はバッテリーが切れたようなものだったりするのだろうか?
ちなみに鳩山の件があってから面会は完全許可制にしてもらった。
というのも、クビを言い渡した翌日にも再び来て、仕事を押し付けようとしてきたのだ。
幸いにも中田さんが異変に気付いて来てくれたから良かったが、もしあのまま誰も来てくれなかったら、クビになったはずの会社の仕事をやる羽目になっていただろう。
と、点滴を交換した中田さんは「あっ」と何かを思い出したように呟いてポケットから一枚の紙を取り出す。
それは面会依頼の紙で、私はまた鳩山が来たのかと眉を顰めるが、彼女はニコリと微笑んで。
「今回はあの頭のおかしな方では無くて、どこかの企業の社長さんらしいです。是非お会いして話をしたい、とのことでした」
「社長が直々に?」
思わず呟きながらその紙を受け取る。
そこには株式会社大村がライバル視している広告代理店である株式会社あやかしデジタルと書かれてあり、私は思わず目を疑った。
「どうします? 面会しますか?」
「ええ、お願いします」
私が声を震わせながら言うと中田さんは「分かりました」とだけ言うと病室を出て行った。
あやかしデジタルはまだ小さい会社でありながら、大村なんて比較するのも馬鹿らしくなるほどホワイトだと聞いている。
大村の事もあって鵜呑みにするつもりは無いが、もし勧誘してくれるのであれば話はしっかりと聞いておこう。
軽く深呼吸しているとカーテンが開けられ、中田さんが入って来た。
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「見た目は凄く恐いですけど話してみるとすごく紳士的でしたので安心してください」
「は、はい」
見た目が恐い人なんてあの会社で何度も接して来た。おそらく大丈夫だろう。
私が内心でそう考えると中田さんは入って来るよう声を掛け。
姿を見せたのは身長二メートルはあるであろう筋骨隆々の巨体と、熊も逃げ出しそうな強面を持つ大男であった。
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