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31話

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 三つのコンバインをそれぞれ積んだトラックが屋敷の前で止まり、業者の人が乗り込んで荷台から降ろす。
 尻尾と耳を隠したたぬき娘たちがキャッキャと大興奮な様子ではしゃぎ、そんな彼女たちを微笑ましく思いながら、荷台から降ろされたコンバインの一つに近付く。
 それは店で一番最初に発見した水稲専用の製品で他の二つよりも少し大きく、そして近未来的なデザインが良い味を出している。
 と、業者の人たちと話を終えた美農が戻って来た。

「それじゃあ、このコンバインは農具用倉庫に止めておくから、後は任せて良いかな?」

「うん、任せて。楓ちゃん借りて良い?」

「良いよー」
 
 短く答えた彼女は業者が去って行ったのを確認するといつもの幼女の姿に戻り、たぬき娘たちも隠していた耳と尻尾を出現させる。
 この屋敷に来てからふわふわな尻尾がある光景を見ている時間の方が圧倒的に長い事もあり、それの無い皆を見ていると物足りなく感じてしまう。
 と、畑仕事組の子たちがやって来て。

「夏月様、頑張って下さい!」

「任せて。可愛いみんなのためなら頑張れるから」

「お仕事終わったら尻尾触らせてあげます」

 そう言って尻尾を動かして誘惑して来る琴葉を見て噴き出す。
 
「じゃあ、尻尾のために頑張って来るね。楓、来て」

「はい!」

 楓を呼び寄せた私は、屋敷の裏側へ向けて移動を開始したコンバインを横目に屋敷の中へ一度戻る。
 前までだったら迷子になったであろう廊下を通り抜け、屋敷に関する資料が保管されている資料室へと向かう。
 
「私、ここ入るの五十年ぶりです」

「五十年って……私の両親が生まれたくらい前じゃん」

 そんな会話をしながら中へ入ると、以前入った時と変わらず埃臭くて咳き込んでしまう。
 ここに用がある人が少ないから仕方ないとはいえ、ここまで雑に扱ってしまっては紙が痛んでしまいそうだ。
 いくつかのデータは今後も必要になるだろうし、パソコンの方でも保管しておくとしよう。

 そんなことを考えながら和室に無造作に並べた棚の一つに近付き、畑に関する資料をいくつか手に取る。
 それらを小脇に挟んで他に必要な資料が無いか、スマホのメモを見て確認していると、部屋の奥で何かしていた楓が尻尾をピンと立てる。
 
「どうしたの?」

「ご、ごめんなさい。五十年前、ここで失くしたおもちゃ見つけちゃって」

「あらら」

 申し訳なさそうな顔をした楓は、埃を被った赤い髪留めを見せて来る。
 古めかしいデザインのそれは私が小学生の時に付けていた物とそっくりで、懐かしい気持ちになる。

「今度は無くさないようにね」

「もう使わないですけどね」

 そう言って笑った彼女はそれの埃を払ってポケットに突っ込み、それを見た私は資料を脇に挟んで部屋を出る。
 そのまま裏口から屋敷を出て、駐車場からほど近い位置にある農具用倉庫へまっすぐ向かう。

「夏月さん、私は何をしたら良いんですか?」

「畑仕事組としてアドバイスが欲しいの。コンバインで収穫してる時に注意することとか、意識した方が良いこととかさ」

「分かりました! お任せください!」

 そう言って笑って見せた彼女を微笑ましく思いながら歩き、目的の倉庫が見え始める。
 建てられてからだいぶ時間が経っているようであちらこちらが錆び付いているが、ちょっとやそっとでは崩れることは無さそうだ。
 そんな倉庫の前にはコンバインが三両、綺麗に並べられていて、その近くには運転をしてくれた子たちが楽しげに会話していた。
 と、こちらに気付いた一人が他の二人に教え、明るい表情を浮かべて走って来た。

「頑張ってください!」

「ありがとう、頑張るね」

「夏月様、もしも手伝えることありましたら言ってください!」

「ありがとうね、あったら言うからもう戻って大丈夫だよ」

 キラキラと目を輝かせ、手を振りながら屋敷の方へ戻って行った彼女たちを微笑ましく思いながら、コンバインと一緒に置かれている段ボールに近付く。
 付属品の詰め込まれているそこから端末を取り出した私は、取扱説明書と合わせて機能の確認をする。
 調べて行くと初心者でも扱えるように設計されているらしく、私じゃなくても出来てしまいそうな雰囲気がある。
 
「じゃあ、ちょっと動かしてみるから、楓は運転席に座って貰って良いかな? もしもの時にブレーキ踏んで欲しいの」

「かしこまりました!」

 威勢の良い返事をした彼女は運転席に乗り込み、それを横目に簡単なプログラムを組む。
 前方に十メートル進んだら停車し、また十メートル下がるだけの簡素な物が出来上がったところで、楓に合図しながら発動させる。

 エンジンが遠隔で動き出したそれはゆっくりと十メートルほど進み、そしてゆっくりと下がる。
 綺麗にタイヤ痕と重なったのを見て精度の高さに驚いていると、楓が運転席から顔を出して。

「本当に全部自動で動くんですね。流石は夏月さんです」

「凄いのはこれ作った人だけどね。それよりこっち来て」

 降りて来た彼女に、ピッタリタイヤ痕の上に乗っているのを見せると、心底驚いた様子で。

「知らない間にここまで進歩していたんですね……」

「ここまで凄いのが出て来たのはまあまあ最近だけどね」

 しばらくそんな会話を交わしたところで、他の様々な機能の確認作業に入った。
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