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28話
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「詩音ちゃーん」
上の階に響かない程度の声量で彼女の名を呼ぶ。
さっきのお菓子が貯蓄されている部屋は確認したがその姿は無く、他にお菓子などの食べ物がありそうな部屋にもいなかった。
そのため、今はしらみつぶしに部屋を開けて捜索を続けている。千春はカメラに映っていないかの確認、逃がしてしまったたぬき娘の二人と私ははそれぞれ分かれて屋敷内を捜索している。
「どこ行ったんだろ……」
思わず呟きながら襖を開けると、部屋の奥に置かれている箱から尻尾がひょっこりとはみ出ていた。
頭隠して尻隠さずなその有様に苦笑してしまいながら近付き、驚かせてしまわないようにゆっくりと開ける。
「やっぱり」
「な、なんで?」
「お姉さんには丸分かりなの」
「うー」
悔しそうに呻いた彼女だが、見つけて貰えたのが嬉しいのか、尻尾はご機嫌そうに揺れて、ぎゅーっと抱き着く。
スマホで発見したことを千春に伝えながら彼女の小さな背中を摩り、疑問を投げかける。
「どうして隠れたりなんてしたの? みんな詩音ちゃんのこと心配してたんだよ?」
「あそびたかったんだもん……」
「それならお日様が出てるうちの方が良いんじゃないかな?」
「みんなかまってくれないし……」
悪い事をした自覚はあるようでしょんぼりと目を伏せる彼女を見て、この屋敷に同じ年頃の女の子がいないことに気付いた。
遊び相手がいない故に彼女はいつも独りぼっちで寂しかったのだろうと察しが悪い私でもすぐに分かり、なんだか私まで寂しくなってしまいながら彼女のちみっちゃい体を抱き締める。
「そっか、寂しかったんだね。詩音ちゃんの気持ちわかるよ」
「おねえちゃん、好き!」
むぎゅーっと抱き着きながら尻尾を振り回す詩音を見ていると、高校で初めて友達が出来た時のことを思い出す。
寂しさから解放された時は嬉しかったなと思い出すと同時に、友達に彼氏が出来てから私と関わろうとしなくなった悲しみで血を吐きそうになる。
「詩音ちゃん、そろそろ――」
声を掛けようとした時には抱き着いたまま寝息を立てていて、その自由奔放っぷりを見ていると千春たちも苦労しているのが伺える。
と、詩音の体がぽんと音を立てて子どものたぬきの姿になり、もこもこでふわふわでちびっこい体をむぎゅと抱き締めながら立ち上がる。
まるでぬいぐるみのように可愛らしく、湯たんぽのように温かく、たぬきはどうしてこんなに可愛いのだろうと考えてしまう。
と、後ろでドタドタと足音が聞こえて来た。
「夏月さん、ありがとうございます……もしかして寝ちゃいました?」
「うん、寝ちゃった。寂しかったんだって」
「……なるほど」
大体察した様子で静かに呟いた彼女は、すやすやと眠る詩音の頭を撫でる。
耳がピクピクと反応するものの、全く目覚める様子は無く、その無防備っぷりは清々しさがある。
「この子、部屋に戻したら休憩入りましょうか」
「そうだね、休憩しよっか」
詩音を抱っこし直した私は立ち上がり、二階の彼女の部屋へ向かう。
途中でたぬき娘二人を回収しつつ彼女の部屋へ向かい、子供用ベッドにポンと乗せて布団を掛ける。
「いい夢見てね」
頭をヨシヨシしてあげるとむにゃむにゃ言いながら寝返りを打ち、枕元にあったぬいぐるみに頭が乗っかる。
この光景を見たらどちらがぬいぐるみなのか分からなくなる。ネットでシェアしてみたいものだが……屋敷の決まりでそれが出来ないのが悲しいところだ。
「とりあえず、警備員室戻りましょっか」
「だね。二人もお疲れ様」
「「ご迷惑をおかけしました……」」
心底申し訳なさそうに頭を下げた二人に気にしないよう言って部屋を出た私と千春は真っ直ぐ警備員室へと向かう。
正直なところ、何も起きないのでは暇だったし、ちょっとしたイベントが発生してくれた方が楽しいというものだ。
それにしても、あれだけ屋敷の中を歩き回ったと言うのにまだ二時か。
広いお屋敷の中を歩き回るのは楽しかったけれど、脚はあんまり鍛えてないこともあって少し疲れて来てしまった。
モニター前のパイプ椅子に腰掛けながら疲労の溜まった足を伸ばしていると、千春はテーブル上に放置されていたトランプを手に取りシャッフルしながら。
「どうすればあの子が寂しくならないんでしょうね」
「うーん……同い年くらいの子ってこの辺にいないの?」
「あ、猫又様のところに幼い猫がいた覚えがあります。あちらの屋敷を訪問した時、可愛らしい猫がお出迎えしてくださいました」
「じゃあその子と遊ばせてみるのもアリかもね。私しばらく暇だから、明日か明後日にでも話してみようかな」
「その時はご一緒します。私も暇なので」
そう言いながら私と自分の元にトランプを配り始めた千春に礼を言いつつ、チラとモニターに目を向ける。
するとそこには眠たげな目を擦りながらトイレの方へ歩く美農の姿が映し出されていた。
「そう言えばさ、なんで美農と一緒に住んでるのはたぬきなの?」
「詳しいことは私も知りませんが、妖狐様が生まれたばかりの頃、化けるたぬきと仲良くなったから……と聞いたことがあります」
「そっか……あの子ってずっと昔から生きてるんだもんね」
思えば美濃については知らないことばかりだ。
いつの日か、彼女の持つ歴史を教えてもらえる時が来るのだろうか。
「じゃ、ババ抜きでもしましょっか」
「うん」
返事しながらいらないカードをポイポイ捨てて手持ちを整える。
さて、明日はちょこっとだけ忙しくなりそうだ。
上の階に響かない程度の声量で彼女の名を呼ぶ。
さっきのお菓子が貯蓄されている部屋は確認したがその姿は無く、他にお菓子などの食べ物がありそうな部屋にもいなかった。
そのため、今はしらみつぶしに部屋を開けて捜索を続けている。千春はカメラに映っていないかの確認、逃がしてしまったたぬき娘の二人と私ははそれぞれ分かれて屋敷内を捜索している。
「どこ行ったんだろ……」
思わず呟きながら襖を開けると、部屋の奥に置かれている箱から尻尾がひょっこりとはみ出ていた。
頭隠して尻隠さずなその有様に苦笑してしまいながら近付き、驚かせてしまわないようにゆっくりと開ける。
「やっぱり」
「な、なんで?」
「お姉さんには丸分かりなの」
「うー」
悔しそうに呻いた彼女だが、見つけて貰えたのが嬉しいのか、尻尾はご機嫌そうに揺れて、ぎゅーっと抱き着く。
スマホで発見したことを千春に伝えながら彼女の小さな背中を摩り、疑問を投げかける。
「どうして隠れたりなんてしたの? みんな詩音ちゃんのこと心配してたんだよ?」
「あそびたかったんだもん……」
「それならお日様が出てるうちの方が良いんじゃないかな?」
「みんなかまってくれないし……」
悪い事をした自覚はあるようでしょんぼりと目を伏せる彼女を見て、この屋敷に同じ年頃の女の子がいないことに気付いた。
遊び相手がいない故に彼女はいつも独りぼっちで寂しかったのだろうと察しが悪い私でもすぐに分かり、なんだか私まで寂しくなってしまいながら彼女のちみっちゃい体を抱き締める。
「そっか、寂しかったんだね。詩音ちゃんの気持ちわかるよ」
「おねえちゃん、好き!」
むぎゅーっと抱き着きながら尻尾を振り回す詩音を見ていると、高校で初めて友達が出来た時のことを思い出す。
寂しさから解放された時は嬉しかったなと思い出すと同時に、友達に彼氏が出来てから私と関わろうとしなくなった悲しみで血を吐きそうになる。
「詩音ちゃん、そろそろ――」
声を掛けようとした時には抱き着いたまま寝息を立てていて、その自由奔放っぷりを見ていると千春たちも苦労しているのが伺える。
と、詩音の体がぽんと音を立てて子どものたぬきの姿になり、もこもこでふわふわでちびっこい体をむぎゅと抱き締めながら立ち上がる。
まるでぬいぐるみのように可愛らしく、湯たんぽのように温かく、たぬきはどうしてこんなに可愛いのだろうと考えてしまう。
と、後ろでドタドタと足音が聞こえて来た。
「夏月さん、ありがとうございます……もしかして寝ちゃいました?」
「うん、寝ちゃった。寂しかったんだって」
「……なるほど」
大体察した様子で静かに呟いた彼女は、すやすやと眠る詩音の頭を撫でる。
耳がピクピクと反応するものの、全く目覚める様子は無く、その無防備っぷりは清々しさがある。
「この子、部屋に戻したら休憩入りましょうか」
「そうだね、休憩しよっか」
詩音を抱っこし直した私は立ち上がり、二階の彼女の部屋へ向かう。
途中でたぬき娘二人を回収しつつ彼女の部屋へ向かい、子供用ベッドにポンと乗せて布団を掛ける。
「いい夢見てね」
頭をヨシヨシしてあげるとむにゃむにゃ言いながら寝返りを打ち、枕元にあったぬいぐるみに頭が乗っかる。
この光景を見たらどちらがぬいぐるみなのか分からなくなる。ネットでシェアしてみたいものだが……屋敷の決まりでそれが出来ないのが悲しいところだ。
「とりあえず、警備員室戻りましょっか」
「だね。二人もお疲れ様」
「「ご迷惑をおかけしました……」」
心底申し訳なさそうに頭を下げた二人に気にしないよう言って部屋を出た私と千春は真っ直ぐ警備員室へと向かう。
正直なところ、何も起きないのでは暇だったし、ちょっとしたイベントが発生してくれた方が楽しいというものだ。
それにしても、あれだけ屋敷の中を歩き回ったと言うのにまだ二時か。
広いお屋敷の中を歩き回るのは楽しかったけれど、脚はあんまり鍛えてないこともあって少し疲れて来てしまった。
モニター前のパイプ椅子に腰掛けながら疲労の溜まった足を伸ばしていると、千春はテーブル上に放置されていたトランプを手に取りシャッフルしながら。
「どうすればあの子が寂しくならないんでしょうね」
「うーん……同い年くらいの子ってこの辺にいないの?」
「あ、猫又様のところに幼い猫がいた覚えがあります。あちらの屋敷を訪問した時、可愛らしい猫がお出迎えしてくださいました」
「じゃあその子と遊ばせてみるのもアリかもね。私しばらく暇だから、明日か明後日にでも話してみようかな」
「その時はご一緒します。私も暇なので」
そう言いながら私と自分の元にトランプを配り始めた千春に礼を言いつつ、チラとモニターに目を向ける。
するとそこには眠たげな目を擦りながらトイレの方へ歩く美農の姿が映し出されていた。
「そう言えばさ、なんで美農と一緒に住んでるのはたぬきなの?」
「詳しいことは私も知りませんが、妖狐様が生まれたばかりの頃、化けるたぬきと仲良くなったから……と聞いたことがあります」
「そっか……あの子ってずっと昔から生きてるんだもんね」
思えば美濃については知らないことばかりだ。
いつの日か、彼女の持つ歴史を教えてもらえる時が来るのだろうか。
「じゃ、ババ抜きでもしましょっか」
「うん」
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