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26話
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コンバイン三台を無事に購入し、一週間後に屋敷へ運ばれてくる事などが決定した。
しかし、それは言い換えれば一週間もの時間が暇になるという事で、しばらく何もすることが無くなってしまった。
畑仕事を手伝うでも良いのだけれど――
「ダメです。夏月様が怪我をしては一大事なんですよ?」
「そうは言ってもさ、私暇なんだよね」
「ダメなものはダメです。尻尾触らせてあげますから、それで我慢して下さい」
「求めてるのは尻尾じゃないんだけど……」
畑仕事組のリーダーである琴葉にお願いしてみるが、もこもこ尻尾で頬をビンタされ、一先ずそれをナデナデしながら考える。
今回のコンバインは付属の端末でルートの設定などを行うため事前にプログラミングしておくことも出来ない。
そのため、その暇な時間はたぬきたちの手伝いでもしてあげたいと思っていたのだけれど、毎回尻尾でビンタされて断られている。
就活でお祈りメールを八回連続で送られて来た事を思い出してしまいながら、琴葉に礼を言ってその場を後にする。
やることもないため縁側に出て朝日を浴びていると、警備服で身を包んだ千春が玄関から出て来た。
「あ、夏月さん。おはようございます」
「おはよう。会計のお仕事は良いの?」
「昨日のうちに終わらせましたから。周辺の見回りついでにお散歩して来ます。夏月さんも来ますか?」
「じゃあ、行こうかな」
玄関の方へ移動した私は靴を履き、両開きの引き戸を開けて外に出る。
門の近くで待っていた千春の元へ駆け寄り、彼女と共に見回りという名の散歩を始めた。
「ねえ、千春ちゃんって暇な時間は何してる?」
「ゲームか運動です。夏月さんはどうですか?」
「私も似た感じなんだよね。それで、コンバインが届くまでの一週間はやること無くてどうしようかなって。お仕事を手伝うって話したら断られちゃったし」
「なるほど……」
帽子を取って考える素振りを見せ始めた千春のたぬき耳を横目に、塀に沿って続くあぜ道を歩く。
変なものが無いか見ながらのんびり歩いていると、彼女は思い付いた顔をして。
「では、私と警備員のお仕事しませんか? 朝と夜にちょこっと仕事がある程度で、そこまで忙しくは無いですから」
「そっか……って、なに?!」
藪の中からにょろろと出て来た蛇に、素っ頓狂な声を上げながら後退った。
私の大きな声に驚いた様子で蛇もビクッと跳ね、すささと音も無く逃げ帰り、千春が横でおかしそうに笑った。
「笑ったなー?」
「誰が見ても笑いますよ」
笑い過ぎて咳き込み始めた彼女の背中を摩ってやりながら、無事に暇潰しと仕事を手に入れられたことにホッとする。
前の三日間で新しく買ったゲームなどの大半は飽きてしまっていたし、体力作りなんかも疲れてしまうし、何よりも時間を無駄にしているような気がしてしまって焦燥感に駆り立てられた。
……働いている方が私には合っているのかもしれない。
「それで、仕事内容は?」
「ええっと、基本的には朝の見回りと防犯カメラの確認です。ですが、暇な期間の長い時は夜中に見回りもしています」
「へえ、ちょっとそれやってみようよ」
「良いですけど……昼夜逆転しちゃうので大変ですよ?」
「慣れてるから平気。あ、でも、千春は無理しないでね」
高校や大学の長期休暇では必ず昼夜逆転していたし、その度に昼夜逆転から立ち直るために苦しんだものだ。
と、千春はそこまで嫌そうでは無い顔をして。
「全然構いません! 夏月さんと夜中のお屋敷で遊びたいです!」
「遊ぶって言っちゃってるじゃん」
彼女のポンコツな部分に笑っていると、いつの間にやらぐるりと屋敷を一周していた。
「見回りは終わったし、次は防犯カメラ?」
「はい、カメラの映像確認です。とは言っても、大体移ってるのは野生動物ですけどね」
「青白い人が突然現れたり?」
「あ、昔ありました」
「……え?」
あっさりと言ってのけた千春に思わず体を硬直させると、彼女はにゃははと笑う。
「冗談ですよ。生まれてこの方、幽霊とか見たことありませんから」
「悪い子めー!」
ほっぺをむにーっと引っ張ってみれば、満更でも無さそうに笑い、お返しとばかりにほっぺを引っ張り返して来る。
「何をしてるのじゃ」
呆れた美農の声でそちらを向けば、じょうろを手に苦笑するちびっ子の姿があった。
しかし、耳と尻尾は正直なもので、構って欲しそうに揺れ動き、撫で回せば満面の笑みを浮かべた。
「かわゆいねー」
「バカにするでない」
「うんうん、可愛いねー」
「うぬー」
ほっぺをムニムニされて変な声を出す美農を千春も撫で始め、それから数分程度戯れたところで、庭園に咲く植物への水やりを手伝った。
しかし、それは言い換えれば一週間もの時間が暇になるという事で、しばらく何もすることが無くなってしまった。
畑仕事を手伝うでも良いのだけれど――
「ダメです。夏月様が怪我をしては一大事なんですよ?」
「そうは言ってもさ、私暇なんだよね」
「ダメなものはダメです。尻尾触らせてあげますから、それで我慢して下さい」
「求めてるのは尻尾じゃないんだけど……」
畑仕事組のリーダーである琴葉にお願いしてみるが、もこもこ尻尾で頬をビンタされ、一先ずそれをナデナデしながら考える。
今回のコンバインは付属の端末でルートの設定などを行うため事前にプログラミングしておくことも出来ない。
そのため、その暇な時間はたぬきたちの手伝いでもしてあげたいと思っていたのだけれど、毎回尻尾でビンタされて断られている。
就活でお祈りメールを八回連続で送られて来た事を思い出してしまいながら、琴葉に礼を言ってその場を後にする。
やることもないため縁側に出て朝日を浴びていると、警備服で身を包んだ千春が玄関から出て来た。
「あ、夏月さん。おはようございます」
「おはよう。会計のお仕事は良いの?」
「昨日のうちに終わらせましたから。周辺の見回りついでにお散歩して来ます。夏月さんも来ますか?」
「じゃあ、行こうかな」
玄関の方へ移動した私は靴を履き、両開きの引き戸を開けて外に出る。
門の近くで待っていた千春の元へ駆け寄り、彼女と共に見回りという名の散歩を始めた。
「ねえ、千春ちゃんって暇な時間は何してる?」
「ゲームか運動です。夏月さんはどうですか?」
「私も似た感じなんだよね。それで、コンバインが届くまでの一週間はやること無くてどうしようかなって。お仕事を手伝うって話したら断られちゃったし」
「なるほど……」
帽子を取って考える素振りを見せ始めた千春のたぬき耳を横目に、塀に沿って続くあぜ道を歩く。
変なものが無いか見ながらのんびり歩いていると、彼女は思い付いた顔をして。
「では、私と警備員のお仕事しませんか? 朝と夜にちょこっと仕事がある程度で、そこまで忙しくは無いですから」
「そっか……って、なに?!」
藪の中からにょろろと出て来た蛇に、素っ頓狂な声を上げながら後退った。
私の大きな声に驚いた様子で蛇もビクッと跳ね、すささと音も無く逃げ帰り、千春が横でおかしそうに笑った。
「笑ったなー?」
「誰が見ても笑いますよ」
笑い過ぎて咳き込み始めた彼女の背中を摩ってやりながら、無事に暇潰しと仕事を手に入れられたことにホッとする。
前の三日間で新しく買ったゲームなどの大半は飽きてしまっていたし、体力作りなんかも疲れてしまうし、何よりも時間を無駄にしているような気がしてしまって焦燥感に駆り立てられた。
……働いている方が私には合っているのかもしれない。
「それで、仕事内容は?」
「ええっと、基本的には朝の見回りと防犯カメラの確認です。ですが、暇な期間の長い時は夜中に見回りもしています」
「へえ、ちょっとそれやってみようよ」
「良いですけど……昼夜逆転しちゃうので大変ですよ?」
「慣れてるから平気。あ、でも、千春は無理しないでね」
高校や大学の長期休暇では必ず昼夜逆転していたし、その度に昼夜逆転から立ち直るために苦しんだものだ。
と、千春はそこまで嫌そうでは無い顔をして。
「全然構いません! 夏月さんと夜中のお屋敷で遊びたいです!」
「遊ぶって言っちゃってるじゃん」
彼女のポンコツな部分に笑っていると、いつの間にやらぐるりと屋敷を一周していた。
「見回りは終わったし、次は防犯カメラ?」
「はい、カメラの映像確認です。とは言っても、大体移ってるのは野生動物ですけどね」
「青白い人が突然現れたり?」
「あ、昔ありました」
「……え?」
あっさりと言ってのけた千春に思わず体を硬直させると、彼女はにゃははと笑う。
「冗談ですよ。生まれてこの方、幽霊とか見たことありませんから」
「悪い子めー!」
ほっぺをむにーっと引っ張ってみれば、満更でも無さそうに笑い、お返しとばかりにほっぺを引っ張り返して来る。
「何をしてるのじゃ」
呆れた美農の声でそちらを向けば、じょうろを手に苦笑するちびっ子の姿があった。
しかし、耳と尻尾は正直なもので、構って欲しそうに揺れ動き、撫で回せば満面の笑みを浮かべた。
「かわゆいねー」
「バカにするでない」
「うんうん、可愛いねー」
「うぬー」
ほっぺをムニムニされて変な声を出す美農を千春も撫で始め、それから数分程度戯れたところで、庭園に咲く植物への水やりを手伝った。
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