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21話

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 約一週間が経ち、ようやくドローンの自動操縦が可能となった。
 一日で往来だけのプログラミングは出来たものの、微妙なズレで一部に農薬を撒けないなどの問題が起こったため、それの修正と対策に大分時間が掛かってしまった。
 しかし、無事に農薬を散布するドローンたちを見ていると機械化に大きな一歩を踏み出せた達成感に包まれる。
 と、畑仕事組のたぬき娘たちをまとめるたぬ美、改め琴葉がこちらにやって来て。

「夏月様、ありがとうございます。おかげさまですごく仕事が楽になりました」

「みんなが優しくて可愛いから私もやる気になれたんだよ。だから、私だけじゃなくてみんなのおかげ」

 そう言いながら肩をポンポンすると、彼女は嬉しそうに尻尾と耳を揺らす。
 畑の方では他のたぬき娘たちがキャッキャ言いながらドローンを眺め、彼女たちの喜ぶ姿を見ているとこちらも嬉しくなってしまう。
 と、見覚えのあるセダンが畑のすぐ傍の道路に停車していることに気付き、後部座席の窓から顔を覗かせる猫耳幼女の姿が見えた。

「あれって猫又ちゃんだよね」

「あ、ホントですね。ドローンを見に来たんでしょうか?」

「ちょっと話して来るね」

 パソコンの管理を琴葉に任せてそちらへ向かう。
 あちらも私の存在に気付いたらしく、運転席から猫耳を生やしたクールな雰囲気のある女の子が現れた。
 身長は百七十センチほどでジーパンと白シャツというシンプルな服装が、彼女のスタイルの良さを際立たせている。

「あなたが人の子?」

「は、はい。そうです」

「ふーん……」

 身長差が十五センチ程度はあるため見下ろす形になり、冷ややかな目がじいっと見つめる。
 完全に無表情で何を考えているのか分からない彼女だが、灰色っぽくて毛深い尻尾がピーンと伸びていて、見下しているわけではないことは分かる。
 すると、車から降りて来た猫又が呆れたように笑いながら彼女の手を引いて。

「困ってるだろうが。ちょっとは笑え」

「ご、ごめんなさい……」

 ハッとした顔をして頭を下げた彼女に代わり、猫又が紹介を始める。

「此奴は風見かざみ。仏頂面で恐いかもしれんが、初めて人間と会うから緊張しておるだけだ」

「うぐっ……よろしく」

「よろしくね」

 言わないで欲しいことを言われたようで、恥ずかしそうな顔をしながら風見の差し出した手を握ると、背後で尻尾がくねくねと動く。
 色々と分かりやすい彼女を見ていると気持ちがほっこりさせられ、仲良くなってみたいなと興味が湧きながら猫又に尋ねる。

「それで、今日はどうしたの? 必要なら美農を呼んで来るよ?」

「通りがかっただけだ。その必要は無い。それよりあの飛び回っているのはなんだ?」

「農薬散布用のドローンだよ。この前話したじゃん」

「あー……」

 思い出した様子で小さな声を出した彼女は、納得した表情を浮かべる。
 と、何か思いついた顔をした彼女は、農薬を撒くドローンを指差して。

「魚の餌やりにも使えるか?」

「うん、使えると思う。それ専用のもの買うか、改造するかしないとダメだけどね」

「なるほどな。そのうち、我のところも世話になるかもな」

「こっちが片付いたらね」

 白い髪の毛と耳を一緒に撫で回すと、彼女の背後では尻尾がクネクネと揺れる。
 しばらく撫でたところで満足したらしく、猫又は風見と共に車へ戻り、街の方角へ向けて走り去っていった。
 ふわふわな猫耳の感触が手に残り、また撫で回したく思いながら、畑の仕事をするたぬき娘たちの元へ戻ろうとして、美農が歩いて来ているのが見えた。
 タイミングの悪さに苦笑してしまいながら彼女の元へ駆け寄る。

「お疲れー。さっき猫又ちゃんが来てたよ」

「む、ちょっとくらい寄って行けば良いものを」

「通り過ぎようとしたらドローン飛んでて観察してたみたい。あの子の所でもドローン欲しいとか言ってたよ」

「こっちが片付いて暇になったら手伝ってやるのも良いな。たんまり稼いで来るのじゃ」

「いつも美味しいお魚貰ってるし、半額とかにするつもりだけどね」

「こっちも野菜をあげてるから気にする必要は無いのじゃ」

 そう言えば、値段を維持するためとかで、実際に取れた数のうちの何割かは敢えて出荷せず、ご近所に配っていると聞いている。
 美農はもちろん、猫又や土地神、そして近隣の農家もやっているようで、互いにウィンウィンの関係らしい。
 黄金色のもこもこ尻尾をもみもみしながらぼんやり考えていると、今度は軽トラが畑の前までやって来た。

 我が家の軽トラと似ているが荷台に載っているものが全く異なり、そして降りて来たのは真っ白な犬耳とふさふさな尻尾を生やした偉丈夫で、キョロキョロと辺りを見回し始める。 
 やがてこちらに気付くと手を振りながらこちらへとやって来て。

「よお、面白いことやってんな」

「お久しぶりです。ドローンの自動操縦が出来るようになったところなんですよー」

 男の人と話すのが久しぶりなこともあって、少し緊張しながらそう言うと、彼は驚いた様子で畑の上を飛び回るドローンを振り返る。

「あれ、あそこのたぬきが操作してんじゃないのか?」

「あの子たちは農薬の補充係りで、操作はしてないですよ。手に持ってるのもお菓子ですし」

「はえー……」

 興味津々らしく、毛深い尻尾がぶんぶん振り回される。
 そちらも撫でてみたくなるがグッと堪えていると、土地神は幼い子供の用に目を輝かせてドローンを指差す。

「あれ、俺も欲しい」

「何に使うんですか?」

「俺も飛ばして遊びたい。楽しそうじゃん?」

 初対面の時に感じ取れた不思議な雰囲気はどこへやら、年下のおこちゃまのように目を輝かせる彼に笑ってしまいながら答える。

「趣味用の物がありますから、それを買ってみたら良いんじゃないですかね。それと、高度は気を付けないと捕まっちゃいますから気を付けてくださいね」

「おっけー、明日買って来るわ。あ、それとイタズラ狐にも用があんだよ」

「なんじゃ?」

 ヘンテコな呼び方をされるのは慣れているのか、それとも本当にイタズラしたのか、気にする様子無く返事をした美農に、土地神はおいでおいでと手招きして車の方へ戻って行った。
 荷台から降ろされた発泡スチロールの箱を美農が受け取ったのを見て、今日か明日のご飯がお肉料理になるのが察せられた。
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