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屋敷でも中々出ない食事を堪能してすっかり膨れたお腹を摩っていると、レオナルト殿下はグラスに残っていたワインを飲み干し、私と目を合わせる。
食事中に色々と話をしていただけのことはあって食事に誘って来た時の緊張した雰囲気はすっかりなくなり、今はとにかく楽しそうだ。
「料理は口に合ったかい?」
「はい、とても美味しかったです。こんなに美味しい料理をご馳走して頂き、ありがとうございました」
「満足してくれたなら僕も嬉しいよ。さて、食休みもしたし、そろそろ行こうか」
そう言って立ち上がったレオナルト殿下に続いて、私は一つ疑問を抱きながらも立ち上がる。
ここはレオナルト殿下の私室である。それなのに、これから一体どこへ行くというのだろうか。
部屋を出てゆっくりとした足取りで進む彼の横へ並び、私はそれについて尋ねる。
「あの、これからどこに行くんですか?」
「僕のお気に入りの場所さ。眺めの良い場所だから、きっと君も気に入るよ」
そう言って柔らかな笑みを浮かべる彼を見て、その場所が楽しみになりながら並んで進む。
メイドや執事、見回りをしている騎士たちとすれ違いながら廊下を歩いていくと、真っ白な扉の前でレオナルト殿下は立ち止まった。
ここに来るまでに見て来た扉は全て何の部屋なのかが書かれてたプレートが張り付けられてあったのだが、この扉だけそのプレートが無く、よく見ればそれを取り外したような跡がある。
「ここは何の部屋なんですか?」
「入ってからのお楽しみだ。暗いから足元気を付けてね」
そう言って彼はドアノブに手を掛け、ゆっくりと扉を押し開ける。
すると露になったのは三日月が映し出された大きな窓と、その窓の前に置かれた広いソファだった。
「ここは僕が密かに通っている場所でね。疲れた日はよくここに来て、月をのんびり眺めるんだ」
「良い部屋ですね」
思わずそんな素直な言葉が出た私の手を取って部屋の中へ踏み込んだレオナルト殿下は後ろ手で扉を閉め、ソファの方へ向かって歩き出す。
その後に続いてソファに腰掛けると、扉の位置から見えた時よりも美しい三日月がその体を輝かせていた。
「どうだ、ここからの景色は最高だろう?」
「はい、凄いです」
月全体を見られるのも十分凄いのだが、月に照らされる貴族街と、その周囲を取り囲むように広がる平民街、そして遠くに薄っすらと見える山々の景色は、今日泊まる事になっているあの部屋のそれよりも素晴らしい。
気付けばぼーっと景色を眺めてしまっていて、慌ててレオナルト殿下の方を向くと。
「気に入って貰えたようで何よりだよ」
「す、すみません。見入ってしまって……」
「この景色を楽しんでほしくて連れて来たんだから謝ることは無いよ」
こちらを見ずに言って笑ったレオナルト殿下はゆっくりとこちらを向くと、握ったままだった私の手を引いて。
「僕は君が好きだ。何年経ったって、ずっとこの気持ちが揺らいだことは無い」
唐突なその台詞に思わず息を呑む。
続く言葉が容易に想像出来てしまって、久しい胸の高鳴りが私の体を震わせる。
私と目を合わせたまま顔を強張らせたレオナルト殿下は、小さく息を吸い込むと。
「……僕と婚約してくれないか」
「私で良ければ」
考える間も無く自然とそう答えると、彼は分かりやすいほど顔を輝かせ――私をぎゅと抱き締めた。
食事中に色々と話をしていただけのことはあって食事に誘って来た時の緊張した雰囲気はすっかりなくなり、今はとにかく楽しそうだ。
「料理は口に合ったかい?」
「はい、とても美味しかったです。こんなに美味しい料理をご馳走して頂き、ありがとうございました」
「満足してくれたなら僕も嬉しいよ。さて、食休みもしたし、そろそろ行こうか」
そう言って立ち上がったレオナルト殿下に続いて、私は一つ疑問を抱きながらも立ち上がる。
ここはレオナルト殿下の私室である。それなのに、これから一体どこへ行くというのだろうか。
部屋を出てゆっくりとした足取りで進む彼の横へ並び、私はそれについて尋ねる。
「あの、これからどこに行くんですか?」
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「入ってからのお楽しみだ。暗いから足元気を付けてね」
そう言って彼はドアノブに手を掛け、ゆっくりと扉を押し開ける。
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「良い部屋ですね」
思わずそんな素直な言葉が出た私の手を取って部屋の中へ踏み込んだレオナルト殿下は後ろ手で扉を閉め、ソファの方へ向かって歩き出す。
その後に続いてソファに腰掛けると、扉の位置から見えた時よりも美しい三日月がその体を輝かせていた。
「どうだ、ここからの景色は最高だろう?」
「はい、凄いです」
月全体を見られるのも十分凄いのだが、月に照らされる貴族街と、その周囲を取り囲むように広がる平民街、そして遠くに薄っすらと見える山々の景色は、今日泊まる事になっているあの部屋のそれよりも素晴らしい。
気付けばぼーっと景色を眺めてしまっていて、慌ててレオナルト殿下の方を向くと。
「気に入って貰えたようで何よりだよ」
「す、すみません。見入ってしまって……」
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「僕は君が好きだ。何年経ったって、ずっとこの気持ちが揺らいだことは無い」
唐突なその台詞に思わず息を呑む。
続く言葉が容易に想像出来てしまって、久しい胸の高鳴りが私の体を震わせる。
私と目を合わせたまま顔を強張らせたレオナルト殿下は、小さく息を吸い込むと。
「……僕と婚約してくれないか」
「私で良ければ」
考える間も無く自然とそう答えると、彼は分かりやすいほど顔を輝かせ――私をぎゅと抱き締めた。
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