【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓

文字の大きさ
上 下
27 / 27

27

しおりを挟む
 屋敷でも中々出ない食事を堪能してすっかり膨れたお腹を摩っていると、レオナルト殿下はグラスに残っていたワインを飲み干し、私と目を合わせる。
 食事中に色々と話をしていただけのことはあって食事に誘って来た時の緊張した雰囲気はすっかりなくなり、今はとにかく楽しそうだ。

「料理は口に合ったかい?」

「はい、とても美味しかったです。こんなに美味しい料理をご馳走して頂き、ありがとうございました」

「満足してくれたなら僕も嬉しいよ。さて、食休みもしたし、そろそろ行こうか」

 そう言って立ち上がったレオナルト殿下に続いて、私は一つ疑問を抱きながらも立ち上がる。
 ここはレオナルト殿下の私室である。それなのに、これから一体どこへ行くというのだろうか。
 部屋を出てゆっくりとした足取りで進む彼の横へ並び、私はそれについて尋ねる。

「あの、これからどこに行くんですか?」

「僕のお気に入りの場所さ。眺めの良い場所だから、きっと君も気に入るよ」

 そう言って柔らかな笑みを浮かべる彼を見て、その場所が楽しみになりながら並んで進む。
 メイドや執事、見回りをしている騎士たちとすれ違いながら廊下を歩いていくと、真っ白な扉の前でレオナルト殿下は立ち止まった。
 ここに来るまでに見て来た扉は全て何の部屋なのかが書かれてたプレートが張り付けられてあったのだが、この扉だけそのプレートが無く、よく見ればそれを取り外したような跡がある。

「ここは何の部屋なんですか?」

「入ってからのお楽しみだ。暗いから足元気を付けてね」

 そう言って彼はドアノブに手を掛け、ゆっくりと扉を押し開ける。
 すると露になったのは三日月が映し出された大きな窓と、その窓の前に置かれた広いソファだった。

「ここは僕が密かに通っている場所でね。疲れた日はよくここに来て、月をのんびり眺めるんだ」

「良い部屋ですね」

 思わずそんな素直な言葉が出た私の手を取って部屋の中へ踏み込んだレオナルト殿下は後ろ手で扉を閉め、ソファの方へ向かって歩き出す。
 その後に続いてソファに腰掛けると、扉の位置から見えた時よりも美しい三日月がその体を輝かせていた。
 
「どうだ、ここからの景色は最高だろう?」

「はい、凄いです」

 月全体を見られるのも十分凄いのだが、月に照らされる貴族街と、その周囲を取り囲むように広がる平民街、そして遠くに薄っすらと見える山々の景色は、今日泊まる事になっているあの部屋のそれよりも素晴らしい。
 気付けばぼーっと景色を眺めてしまっていて、慌ててレオナルト殿下の方を向くと。

「気に入って貰えたようで何よりだよ」

「す、すみません。見入ってしまって……」

「この景色を楽しんでほしくて連れて来たんだから謝ることは無いよ」

 こちらを見ずに言って笑ったレオナルト殿下はゆっくりとこちらを向くと、握ったままだった私の手を引いて。

「僕は君が好きだ。何年経ったって、ずっとこの気持ちが揺らいだことは無い」

 唐突なその台詞に思わず息を呑む。
 続く言葉が容易に想像出来てしまって、久しい胸の高鳴りが私の体を震わせる。
 私と目を合わせたまま顔を強張らせたレオナルト殿下は、小さく息を吸い込むと。

「……僕と婚約してくれないか」

「私で良ければ」

 考える間も無く自然とそう答えると、彼は分かりやすいほど顔を輝かせ――私をぎゅと抱き締めた。
しおりを挟む
感想 131

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(131件)

りた
2022.05.26 りた

完結後にすみませんが、皆さん、言葉遣いがなってない!!というのが一番最初に浮かんだ感想です。貴族なのに軽すぎるのでは?と思いました。読んでて、ん?これ、アウトなのでは?と思う場面がいくつもありました。
貴族制のある世界線なら身分の違いなどをはっきりさせた方がいいと思います。主様がそれで満足ならそれでもいいのですが、読み手としては物足りないと感じてしまいました。
ストーリーは面白かったです。これからも執筆応援しています。

解除
つっきー
2021.06.22 つっきー

フロイデン視点の本当の気持ちというか
そこら辺を書いてくださるのかと待ってるんですが無さそうですかね?

星野真弓
2021.06.22 星野真弓

 申し訳無いですが、彼の視点を書くことは無いです

解除
なぁ恋
2021.06.12 なぁ恋

完結でしたか。
お疲れ様でした✧

星野真弓
2021.06.12 星野真弓

 ご愛読いただきありがとうございました
 完結済みに切り替えるのを忘れていて、完結したことが分かり辛くなってしまって申し訳無いです

解除

あなたにおすすめの小説

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

今、婚約破棄宣言した2人に聞きたいことがある!

白雪なこ
恋愛
学園の卒業と成人を祝うパーティ会場に響く、婚約破棄宣言。 婚約破棄された貴族令嬢は現れないが、代わりにパーティの主催者が、婚約破棄を宣言した貴族令息とその恋人という当事者の2名と話をし出した。

婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。 だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。 世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何? せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。 貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます! ===== いつもの勢いで書いた小説です。 前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。 妹、頑張ります! ※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

[完結]婚約破棄したいので愛など今更、結構です

シマ
恋愛
私はリリーナ・アインシュタインは、皇太子の婚約者ですが、皇太子アイザック様は他にもお好きな方がいるようです。 人前でキスするくらいお好きな様ですし、婚約破棄して頂けますか? え?勘違い?私の事を愛してる?そんなの今更、結構です。

他の人を好きになったあなたを、私は愛することができません

天宮有
恋愛
 公爵令嬢の私シーラの婚約者レヴォク第二王子が、伯爵令嬢ソフィーを好きになった。    第三王子ゼロアから聞いていたけど、私はレヴォクを信じてしまった。  その結果レヴォクに協力した国王に冤罪をかけられて、私は婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。  追放された私は他国に行き、数日後ゼロアと再会する。  ゼロアは私を追放した国王を嫌い、国を捨てたようだ。  私はゼロアと新しい生活を送って――元婚約者レヴォクは、後悔することとなる。

穏便に婚約解消する予定がざまぁすることになりました

よーこ
恋愛
ずっと好きだった婚約者が、他の人に恋していることに気付いたから、悲しくて辛いけれども婚約解消をすることを決意し、その提案を婚約者に伝えた。 そうしたら、婚約解消するつもりはないって言うんです。 わたくしとは政略結婚をして、恋する人は愛人にして囲うとか、悪びれることなく言うんです。 ちょっと酷くありません? 当然、ざまぁすることになりますわね!

【完結】「妹が欲しがるのだから与えるべきだ」と貴方は言うけれど……

小笠原 ゆか
恋愛
私の婚約者、アシュフォード侯爵家のエヴァンジェリンは、後妻の産んだ義妹ダルシニアを虐げている――そんな噂があった。次期王子妃として、ひいては次期王妃となるに相応しい振る舞いをするよう毎日叱責するが、エヴァンジェリンは聞き入れない。最後の手段として『婚約解消』を仄めかしても動じることなく彼女は私の下を去っていった。 この作品は『小説家になろう』でも公開中です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。