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案内された部屋は私の私室より少し広く、そして貴族街の並ぶ景色が眺められるとても良い部屋だった。
そんな素晴らしい景色を眺めながら、さっきメイドに淹れて貰った紅茶を飲んでいると、扉がコンコンとノックされた。
メイドが扉を開けると入って来たのはエルケとクラーラの二人で、私と目が合うと顔を輝かせてこちらへ駆けて来る。
「さっきはお疲れ様。あのポンコツ王子とバイバイ出来て良かったね」
「うん、二人も今日はわざわざ来てくれてありがとう」
「私たちがした事って見たことをそのまま伝えただけでしたけどね」
謙遜するようにそんな事を言って笑うクラーラだが、私にとっては親友とも呼べる二人が来てくれた時はとても頼もしかったものだ。
と、エルケは私の座るソファーに腰掛け、窓の外の景色を眺めながら。
「今の気持ちはどう? あのとんでも王子と別れて、気分はスッキリしてる?」
「うーん、実感が湧かなくてあんまりスッキリはしてないかな」
王城へ来た時は今日一日だけでは終わらず、もしかしたら裁判にまで発展するのではないかという不安があったのだが、さっきの一件であっさりと終わってしまって、数時間はたった今でも実感が湧かない。
何となくさっきまでの会話を振り返り、実感を得ようとしてみるが、フロイデンが「こいつらを全員殺せ」と言い出した時の底知れぬ恐怖を思い出し、私は思考を切り替えるべく紅茶をすする。
と、ソファには座らないでいたクラーラがエルケの肩をポンポンと叩いて耳打ちして、それで何かを思い出したような反応を見せた彼女は私の方を向いて。
「それじゃあ、私たちはそろそろ行くね。また来週会おう!」
「うん、またね」
もう少しゆっくりしていくのかと思っていたがそんなことは無かったらしく、二人はゆっくりとした足取りで部屋を出て行き。
静けさが戻った部屋の中で私は再び景色の方を向いて紅茶をすする。
もう少し二人と色々話したかったのだが、あの様子だとこれから何か用事があるようだ。
何か行事でもあったのかと記憶を掘り返していると、再びコンコンと扉がノックされた。
次は誰だろうと目を向けてみれば、入って来たのはレオナルト殿下で、何となく二人が早々に立ち去って行った理由を察しながら私は立ち上がる。
「この部屋は気に入って貰えたかい?」
「はい、とても良い眺めですし、広いですし、本当に良い部屋を用意して頂けて嬉しい限りです」
「それなら良かった。まあ、座りなよ」
緊張しているのかぎこちない動作で私の隣に腰掛けた彼を見て、不思議と可愛らしさを感じる。
すると彼は夕日に照らされて赤く染まっている顔を向けずに話し始める。
「あの教室で話したこと覚えてるかい?」
「好きだから手伝うって話ですか?」
「……そうだ」
目を泳がせながらも認めた彼の顔をよく見てみれば、赤いのは夕日のせいというより元から赤いだけである事に気付き、私まで気恥ずかしさに襲われる。
しばしの無言の間が出来上がるが、レオナルト殿下は大きく息を吐くと、覚悟を決めた目を私に向ける。
「良かったら夕食を共に取らないかい? 色々と話したいことがあるんだ」
「喜んでご一緒させていただきます」
そう答えると彼から嬉しそうな雰囲気が漂い、その分かりやすい反応に自然と私は笑っていた。
そんな素晴らしい景色を眺めながら、さっきメイドに淹れて貰った紅茶を飲んでいると、扉がコンコンとノックされた。
メイドが扉を開けると入って来たのはエルケとクラーラの二人で、私と目が合うと顔を輝かせてこちらへ駆けて来る。
「さっきはお疲れ様。あのポンコツ王子とバイバイ出来て良かったね」
「うん、二人も今日はわざわざ来てくれてありがとう」
「私たちがした事って見たことをそのまま伝えただけでしたけどね」
謙遜するようにそんな事を言って笑うクラーラだが、私にとっては親友とも呼べる二人が来てくれた時はとても頼もしかったものだ。
と、エルケは私の座るソファーに腰掛け、窓の外の景色を眺めながら。
「今の気持ちはどう? あのとんでも王子と別れて、気分はスッキリしてる?」
「うーん、実感が湧かなくてあんまりスッキリはしてないかな」
王城へ来た時は今日一日だけでは終わらず、もしかしたら裁判にまで発展するのではないかという不安があったのだが、さっきの一件であっさりと終わってしまって、数時間はたった今でも実感が湧かない。
何となくさっきまでの会話を振り返り、実感を得ようとしてみるが、フロイデンが「こいつらを全員殺せ」と言い出した時の底知れぬ恐怖を思い出し、私は思考を切り替えるべく紅茶をすする。
と、ソファには座らないでいたクラーラがエルケの肩をポンポンと叩いて耳打ちして、それで何かを思い出したような反応を見せた彼女は私の方を向いて。
「それじゃあ、私たちはそろそろ行くね。また来週会おう!」
「うん、またね」
もう少しゆっくりしていくのかと思っていたがそんなことは無かったらしく、二人はゆっくりとした足取りで部屋を出て行き。
静けさが戻った部屋の中で私は再び景色の方を向いて紅茶をすする。
もう少し二人と色々話したかったのだが、あの様子だとこれから何か用事があるようだ。
何か行事でもあったのかと記憶を掘り返していると、再びコンコンと扉がノックされた。
次は誰だろうと目を向けてみれば、入って来たのはレオナルト殿下で、何となく二人が早々に立ち去って行った理由を察しながら私は立ち上がる。
「この部屋は気に入って貰えたかい?」
「はい、とても良い眺めですし、広いですし、本当に良い部屋を用意して頂けて嬉しい限りです」
「それなら良かった。まあ、座りなよ」
緊張しているのかぎこちない動作で私の隣に腰掛けた彼を見て、不思議と可愛らしさを感じる。
すると彼は夕日に照らされて赤く染まっている顔を向けずに話し始める。
「あの教室で話したこと覚えてるかい?」
「好きだから手伝うって話ですか?」
「……そうだ」
目を泳がせながらも認めた彼の顔をよく見てみれば、赤いのは夕日のせいというより元から赤いだけである事に気付き、私まで気恥ずかしさに襲われる。
しばしの無言の間が出来上がるが、レオナルト殿下は大きく息を吐くと、覚悟を決めた目を私に向ける。
「良かったら夕食を共に取らないかい? 色々と話したいことがあるんだ」
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そう答えると彼から嬉しそうな雰囲気が漂い、その分かりやすい反応に自然と私は笑っていた。
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