【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓

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「……なるほどな」

 私の話を聞き終えてしばらく無言だった父は溜息を吐くように呟いた。
 怒りとも呆れとも取れないその様子にどんな言葉が出て来るのだろうという不安が湧き上がり、話している間に和らいでいた緊張が再び湧き上がる。
 すると父は私の話を聞きながら眺めていた書類をポンとテーブルに置いて。

「もし、レオナルト殿下と出会わなかったらこの問題を一人で抱えようとしたのか?」

「……申し訳ありません」

「全く、アホな子だなあ」

 可愛がるような、小馬鹿にするような、そんな何とも言えない言葉に、私は恥ずかしさから目を逸らす。
 すると父は気にするなと言って笑うと、リラックスするように背もたれへ上体を預ける。

「さて、物的証拠も手に入った事だ。お前に散々な思いをさせた罰を受けさせてやろう」

「あの……その書類ってやはり捏造したものなんですか?」

「当たり前だ。解説してやろうか?」

 そう言って書類を私の方へ向けた父は、そこに書かれている数字がどう間違っているのかを簡潔に、かつ分かりやすく教えてくれた。
 十分と掛からずにその書類がどれだけ馬鹿げた物なのか理解して、さっきのそれよりも大きな羞恥心が湧き上がる。
 すると父は私の頭を撫でながら笑いかけて。

「そんなに恥ずかしがらなくて良い。誰でも最初はそんなものだ」

「は、はい……」

 とは言われても、やはりこんなに稚拙な物であそこまで悩むことになっただと考えると恥ずかしくて仕方ない。
 ……来年に受ける簿記論は今まで以上にしっかり取り組もう。
 そんな決心をしていると、父は書類を机の端に避けて真面目な雰囲気を見せ、私は慌てて姿勢を正す。

「あの王子の内通者がいるかもしれないと話していたな」

「はい、家だからと油断するな、と言っていたので、可能性はあると思います」

 そして私が父に話して良いのか悩む原因を作った台詞でもある。しかし、この偽物の書類を証拠として私に突き付けて来た辺り、それも嘘である可能性が高そうだが。
 すると父は唐突に、どこからともなく取り出した手のひらサイズのベルを左右に揺らした。
 何をしているのだろうと思わず首を傾げると、後ろで扉が開いた音がして、後ろを振り返るとルドルフの姿があった。

「お呼びでしょうか、旦那様」

「ああ。この屋敷に裏切者がいる可能性がある。屋敷内の人間を調査して欲しい」

「かしこまりました」

 ルドルフは一礼して部屋を出て行き、父はそれを見て一安心とでも言うかのように背もたれへ上体を預ける。
 私はそんなに安心して良いのかと疑問に思って問うてみると、父はニコリと笑って。

「詳しい事は話さないが、あいつは何でも出来るんだ」

「それは知っていますが……」

「さて、お前はもう部屋に戻ってゆっくり休むと良い。近い内に忙しくなるからな」

「は、はい」

 ルドルフについてはこれ以上話すつもりが無いのだと察した私は椅子から立ち上がり、父に一礼してから部屋を出た。
 別のもやもやが出来てしまったが、それよりも大きな悩みが無くなった事で、気分はいつにもなくスッキリしている。
 さて、今日出された課題を終わらせるとしよう。
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