【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓

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 引っ張られた事で少し乱れてしまった髪の毛を手で整え、教室へ続く廊下をのんびり歩きながら考える。
 父が横領した証拠を掴んだなんて言っていたが、あれは果たして本当なのだろうか、と。
 あの時は何をされるのか分からない恐怖と、本当だった時のことを考えて撤回すると答えたが、やはり父が横領なんてするとは到底思えない。
 父に相談すべきなのだろうが……去り際に放った一言の「家だからって油断するな」がどうにも引っ掛かる。
 一体、私はどうするべきなのだろうか。

「浮かない顔してどうしたの?」

 突然横から話しかけて来た声の主、エルケに目を向けると心配そうな表情を浮かべてこちらをじいっと見ていた。
 全て打ち明けたい気持ちを堪え、いつも通りを装って。

「ううん、大丈夫。ちょっと考え事してただけだから」

「……そっか。話せるようになったら話してね」

「うん、ありがと」

 いつものお茶らけた態度が嘘だったかのようにこんなに優しい対応をされると胸が締め付けられて仕方ない。
 周りに人が全くいない環境になったら話してみるのもアリかもしれない。
 と、私たちが向かっていた教室から不安で彩られた表情を浮かべるクラーラが出て来たのが見え、こちらに気付くと慌てた様子で駆けて来た。

「酷い事されませんでしたか?」

「そこまで酷い事はされなかったから心配しないで」

 髪を引っ張られた件に関しても、周りに沢山人がいるこの状況ではまだ話さない方が良いだろう。
 しかし、クラーラは私の言葉を全く信頼していないらしく、更に心配そうな表情を浮かべて。

「何をされたんです? お腹とか、跡になりにくい場所を殴られたんですか?」

「ち、違うから、殴られたりはしてないから!」

 より悪い方に捉え始めたクラーラに慌てて否定するが、心配そうな雰囲気は全く消える様子を見せず、どうしたものかと頭を悩ませる。
 すると丁度良いタイミングで授業開始のチャイムが鳴り始め、私は二人の背を押して教室に駆け込んだ。
 
 二人にこれ以上心配をかける訳にはいかない。
 出来るだけ早い内にあの男を何とかして、平和な学園生活を送れるようにしよう。
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