【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓

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 フロイデンに連れて来られたのは校舎裏の普通なら来る事なんて無いようなじめじめとした薄暗い場所だった。
 雑草に混じって変な色のキノコが生えていたり、壁にはツタが垂れていたりと気味が悪く、早くこの場から立ち去りたいとすら思ってしまう。
 と、ある程度奥まで進んだ所で立ち止まったフロイデンは、誰も付いて来ていないか確認するかのように周囲を見回す。
 以前のようなことが起こらないようにと考えての行動なのだろうと察していると、彼は私と目を合わせて。

「婚約破棄は取り消すつもりはないんだな?」

「はい。書類はもう提出しましたので、時間の問題だと思います」

「らしいな」

 書類を提出した事は既に知っていたようだが、その余裕がありそうな態度は崩れる様子が無く、何を言われるのか分からない恐怖がふつふつと湧き上がる。
 そんな私の内心が読み取れたのか、嘲笑するような表情を浮かべると彼は数枚の書類を私に手渡して。

「単刀直入に言おう。お前の家の弱みを握った」

 その書類の内容は私の父が国税を横領したとする信じ難い一文と、その証拠だという数字が羅列している表が載せられたものだった。
 簿記などを取っていない事もあってこれが本当に証拠なのかは分からないが、この余裕のある態度から察するにきっと本物なのだろう。

「……これをバラされたくなかったら婚約破棄を取り消せ、と言う事ですか?」

「そう言う事だ」

 しばらく大人しいから私の事は諦めてくれたのかと期待していたが、あれはいわゆる嵐の前の静けさと言う奴だったらしい。
 私はこの本当なのかもよく分からない横領の話を逸らそうと、一つ疑問に思っていた事を尋ねる。

「何で私に固執するんです? あの日、殿下の周りにいた女の子たちだっているじゃないですか」

「あんな性格が悪いだけで何の役にも立たない女で妥協しろってのか」

「私の事をあの程度の女って言っていたじゃないですか」

「……いい加減口を閉じろ。そもそもお前が貴族でいられるのは俺が黙ってやってるからって事を忘れるな」

 あの会話を聞かれていたのは予想していなかったらしく、一瞬驚いた様子を見せた彼はすぐに表情をイラついた物に変えてそんな事を言う。
 これ以上口答えしても状況は良くならないと判断して口を閉じると、フロイデンは急に距離を詰めて私の髪を掴むと。

「とっとと婚約破棄を撤回するか、奴隷になるか選べ」

 その言葉と共に彼は私の髪を引っ張り上げ、痛みから変な声が出る。
 悔しさと怒りを堪えながら、私はイラついた表情を浮かべる彼に。

「……撤回、します」

「物分かりは良いんだな」

 そう言って乱暴に手を放したフロイデンは立ち去ろうとして、何かを思い出した様子で振り返る。

「言い忘れてたが、このことは誰にも話すな。家だからって油断するのも止めておけよ」

 最後にそんな事を言った彼は振り返る事無く去って行き。
 その場に一人取り残された私は、絶対に別れてやると心の中で誓いを立てた。
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