15 / 27
15
しおりを挟む
フロイデンに連れて来られたのは校舎裏の普通なら来る事なんて無いようなじめじめとした薄暗い場所だった。
雑草に混じって変な色のキノコが生えていたり、壁にはツタが垂れていたりと気味が悪く、早くこの場から立ち去りたいとすら思ってしまう。
と、ある程度奥まで進んだ所で立ち止まったフロイデンは、誰も付いて来ていないか確認するかのように周囲を見回す。
以前のようなことが起こらないようにと考えての行動なのだろうと察していると、彼は私と目を合わせて。
「婚約破棄は取り消すつもりはないんだな?」
「はい。書類はもう提出しましたので、時間の問題だと思います」
「らしいな」
書類を提出した事は既に知っていたようだが、その余裕がありそうな態度は崩れる様子が無く、何を言われるのか分からない恐怖がふつふつと湧き上がる。
そんな私の内心が読み取れたのか、嘲笑するような表情を浮かべると彼は数枚の書類を私に手渡して。
「単刀直入に言おう。お前の家の弱みを握った」
その書類の内容は私の父が国税を横領したとする信じ難い一文と、その証拠だという数字が羅列している表が載せられたものだった。
簿記などを取っていない事もあってこれが本当に証拠なのかは分からないが、この余裕のある態度から察するにきっと本物なのだろう。
「……これをバラされたくなかったら婚約破棄を取り消せ、と言う事ですか?」
「そう言う事だ」
しばらく大人しいから私の事は諦めてくれたのかと期待していたが、あれはいわゆる嵐の前の静けさと言う奴だったらしい。
私はこの本当なのかもよく分からない横領の話を逸らそうと、一つ疑問に思っていた事を尋ねる。
「何で私に固執するんです? あの日、殿下の周りにいた女の子たちだっているじゃないですか」
「あんな性格が悪いだけで何の役にも立たない女で妥協しろってのか」
「私の事をあの程度の女って言っていたじゃないですか」
「……いい加減口を閉じろ。そもそもお前が貴族でいられるのは俺が黙ってやってるからって事を忘れるな」
あの会話を聞かれていたのは予想していなかったらしく、一瞬驚いた様子を見せた彼はすぐに表情をイラついた物に変えてそんな事を言う。
これ以上口答えしても状況は良くならないと判断して口を閉じると、フロイデンは急に距離を詰めて私の髪を掴むと。
「とっとと婚約破棄を撤回するか、奴隷になるか選べ」
その言葉と共に彼は私の髪を引っ張り上げ、痛みから変な声が出る。
悔しさと怒りを堪えながら、私はイラついた表情を浮かべる彼に。
「……撤回、します」
「物分かりは良いんだな」
そう言って乱暴に手を放したフロイデンは立ち去ろうとして、何かを思い出した様子で振り返る。
「言い忘れてたが、このことは誰にも話すな。家だからって油断するのも止めておけよ」
最後にそんな事を言った彼は振り返る事無く去って行き。
その場に一人取り残された私は、絶対に別れてやると心の中で誓いを立てた。
雑草に混じって変な色のキノコが生えていたり、壁にはツタが垂れていたりと気味が悪く、早くこの場から立ち去りたいとすら思ってしまう。
と、ある程度奥まで進んだ所で立ち止まったフロイデンは、誰も付いて来ていないか確認するかのように周囲を見回す。
以前のようなことが起こらないようにと考えての行動なのだろうと察していると、彼は私と目を合わせて。
「婚約破棄は取り消すつもりはないんだな?」
「はい。書類はもう提出しましたので、時間の問題だと思います」
「らしいな」
書類を提出した事は既に知っていたようだが、その余裕がありそうな態度は崩れる様子が無く、何を言われるのか分からない恐怖がふつふつと湧き上がる。
そんな私の内心が読み取れたのか、嘲笑するような表情を浮かべると彼は数枚の書類を私に手渡して。
「単刀直入に言おう。お前の家の弱みを握った」
その書類の内容は私の父が国税を横領したとする信じ難い一文と、その証拠だという数字が羅列している表が載せられたものだった。
簿記などを取っていない事もあってこれが本当に証拠なのかは分からないが、この余裕のある態度から察するにきっと本物なのだろう。
「……これをバラされたくなかったら婚約破棄を取り消せ、と言う事ですか?」
「そう言う事だ」
しばらく大人しいから私の事は諦めてくれたのかと期待していたが、あれはいわゆる嵐の前の静けさと言う奴だったらしい。
私はこの本当なのかもよく分からない横領の話を逸らそうと、一つ疑問に思っていた事を尋ねる。
「何で私に固執するんです? あの日、殿下の周りにいた女の子たちだっているじゃないですか」
「あんな性格が悪いだけで何の役にも立たない女で妥協しろってのか」
「私の事をあの程度の女って言っていたじゃないですか」
「……いい加減口を閉じろ。そもそもお前が貴族でいられるのは俺が黙ってやってるからって事を忘れるな」
あの会話を聞かれていたのは予想していなかったらしく、一瞬驚いた様子を見せた彼はすぐに表情をイラついた物に変えてそんな事を言う。
これ以上口答えしても状況は良くならないと判断して口を閉じると、フロイデンは急に距離を詰めて私の髪を掴むと。
「とっとと婚約破棄を撤回するか、奴隷になるか選べ」
その言葉と共に彼は私の髪を引っ張り上げ、痛みから変な声が出る。
悔しさと怒りを堪えながら、私はイラついた表情を浮かべる彼に。
「……撤回、します」
「物分かりは良いんだな」
そう言って乱暴に手を放したフロイデンは立ち去ろうとして、何かを思い出した様子で振り返る。
「言い忘れてたが、このことは誰にも話すな。家だからって油断するのも止めておけよ」
最後にそんな事を言った彼は振り返る事無く去って行き。
その場に一人取り残された私は、絶対に別れてやると心の中で誓いを立てた。
201
お気に入りに追加
6,354
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ?
青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。
チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。
しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは……
これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で
す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦)
それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今、婚約破棄宣言した2人に聞きたいことがある!
白雪なこ
恋愛
学園の卒業と成人を祝うパーティ会場に響く、婚約破棄宣言。
婚約破棄された貴族令嬢は現れないが、代わりにパーティの主催者が、婚約破棄を宣言した貴族令息とその恋人という当事者の2名と話をし出した。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
[完結]婚約破棄したいので愛など今更、結構です
シマ
恋愛
私はリリーナ・アインシュタインは、皇太子の婚約者ですが、皇太子アイザック様は他にもお好きな方がいるようです。
人前でキスするくらいお好きな様ですし、婚約破棄して頂けますか?
え?勘違い?私の事を愛してる?そんなの今更、結構です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
他の人を好きになったあなたを、私は愛することができません
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私シーラの婚約者レヴォク第二王子が、伯爵令嬢ソフィーを好きになった。
第三王子ゼロアから聞いていたけど、私はレヴォクを信じてしまった。
その結果レヴォクに協力した国王に冤罪をかけられて、私は婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。
追放された私は他国に行き、数日後ゼロアと再会する。
ゼロアは私を追放した国王を嫌い、国を捨てたようだ。
私はゼロアと新しい生活を送って――元婚約者レヴォクは、後悔することとなる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
穏便に婚約解消する予定がざまぁすることになりました
よーこ
恋愛
ずっと好きだった婚約者が、他の人に恋していることに気付いたから、悲しくて辛いけれども婚約解消をすることを決意し、その提案を婚約者に伝えた。
そうしたら、婚約解消するつもりはないって言うんです。
わたくしとは政略結婚をして、恋する人は愛人にして囲うとか、悪びれることなく言うんです。
ちょっと酷くありません?
当然、ざまぁすることになりますわね!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】「妹が欲しがるのだから与えるべきだ」と貴方は言うけれど……
小笠原 ゆか
恋愛
私の婚約者、アシュフォード侯爵家のエヴァンジェリンは、後妻の産んだ義妹ダルシニアを虐げている――そんな噂があった。次期王子妃として、ひいては次期王妃となるに相応しい振る舞いをするよう毎日叱責するが、エヴァンジェリンは聞き入れない。最後の手段として『婚約解消』を仄めかしても動じることなく彼女は私の下を去っていった。
この作品は『小説家になろう』でも公開中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる