【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓

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 二日連続で父の部屋を訪れるのは何だかんだで初めてかもしれない。
 昨日ほどでは無い緊張を深呼吸で緩めながらドアをノックして、父の返事が聞こえたタイミングでゆっくりと開く。
 こちらを見つめる父は機嫌が悪そうで、やはり婚約を破棄して欲しくないのではないかと言う不安が湧き上がる。

「取りあえず、座りなさい」

「は、はい」

 口調は落ち着いているように聞こえるが、それも少し恐ろしく感じられて、父の仕事机の前に置かれた椅子へ向かって進む足が重い。
 昨日の比では無いほど激しい心臓の鼓動によって不安が少しずつ大きくなっていくのが感じられ、ちゃんと話せるのかと言う不安に襲われる。
 
「さて、フロイデン殿下に何をされたのか、話して貰おうか」

「は、はい」

 返事をするだけでも声が震えてしまい、父の目付きが少し鋭くなったように感じて不安が増幅する。
 私は一先ず自分を落ち着かせるべく、一呼吸をしてからゆっくりと何があったのかの説明を始めた。
 フロイデンが貴族令嬢たちを侍らせていた事や呼び出されて引き留められた事、そしてそれを断ったら胸ぐらを掴まれた事。
 全て詳しく正直に話している内に緊張は和らぎ、気付けば父の目を見て話せていた。
 何も言わずに話を聞いていた父は一つ大きな溜息を吐くと。

「そうか。あの男は手を出したか」

 明らかな苛立ちがその言葉から感じられ、不機嫌そうな雰囲気の原因は私ではないのだと察せられ、安心感が湧き上がる。
 すると父は話を始める前に私が差し出した婚約破棄の書類を手に取り、何かを確認すると。

「これは明日にでも提出して来よう。もしもまたあの男に何かされたら私に言いなさい」

「はい」

 話を全て信じてくれたらしい父に嬉しいものを感じるが、少し疑問に思った私は尋ねてみることにした。

「あの……私の話、全て信じてくれるんですか?」

「そんなに声を震わせながら話されたら信じるだろう。それに、お前が嘘はヘタクソなのは知っているしな」

「そ、そうでしたか」

 声が震えていたのは別の理由だが、嘘が下手なのは認めざるを得ない。
 幼いころから嘘を付いてもすぐにバレて、その度に笑われたり怒られたりした記憶しか無い。
 恥ずかしさから思わず目を伏せると、父は笑みを浮かべて。

「嘘が下手なのは悪いことじゃない。そんなに恥ずかしがるな」

「は、はい」

 貴族なのに嘘が苦手なのは恥ずべきなのではとも思うが、もう気にしない事にしよう。
 私は父に礼を言って椅子から立ち上がり、やるべきことを全て終えた時と似たサッパリとしたものを感じながら一礼して部屋を後にした。
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