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私はフロイデンと早いところ別れるべきなのかと悩みながら、これから授業が行われる教室へ向かう。
と言うのも、父に相談する前は別れるつもりしか無かったのだが、書類を渡された時の言葉である「本当に愛していないと分かったら」が、その判断を留めることになった。
陰口を叩いている時点で愛なんて無いだろうとも思えるが、あの人の強がりな性格が災いして、思っても無い言葉を発している可能性が無いとは言い切れないのだ。
「おっはよー、あのクズ男と婚約破棄出来そう?」
「おはよう。お父さんは自分で決めなさいって言ってくれたし、書類も用意してくれたからやろうと思えば今週中に別れられるかも」
今日も元気な様子のエルケにそう答えると、彼女はおおっと歓声を上げる。
まだフロイデンの真意が分かっていないから確定では無いが、あの発言から考えるに私の事を愛している可能性の方が低いし、近い内には別れられるだろう。
と、私たちが向かっている方向からクラーラが歩いて来るのが見え、私が小さく手を振ると小走りでこちらへやって来た。
「どうでした? 婚約破棄は出来そうですか?」
「うん、お父さんは許してくれた。でもその前に、あの人に話を聞いてから決めようかなって考えてるんだよね」
「その返答次第で、と言う事ですか」
「うん」
私が頷くのと同時、後ろの方がガヤガヤと騒がしい事に気付いた。
何だろうと振り返ってみれば、フロイデンが貴族令嬢たちを侍らせて歩いているのが見え――私の中でくすぶっていたものが、完全に消え失せたのを感じ取った。
「い、イルメラ?」
「ちょっと待っててね」
冷や汗を浮かべるエルケとクラーラにそう言って、私はフロイデンの元へ近付く。
すると彼は見られたくない物を見られたかのような表情を一瞬だけ浮かべるが、すぐに余裕のありそうな笑みを見せる。
「どうした、何か話しでもあるのか?」
「ええ、一つお尋ねしたい事があります」
何か察した様子でフロイデンの周りにいた貴族令嬢たちがクスクスと腹立たしい笑みを浮かべるのを無視して、単刀直入な問いを投げかける。
「私のこと、どう思っていますか?」
「ど、どうって……妻のように思ってるが何か問題があるか」
「愛してはいないと?」
「……何が言いたい」
否定もせずに目を泳がせながら呟いた彼を見て、やはり私の事を愛してなどいないのだと察する。
するとフロイデンが肩を抱いていた男爵令嬢のフィーネが性格の悪そうな笑みを浮かべて。
「殿下に冷たく接してるあなたが今更愛してもらえるなんて思ってるんですか?」
「いえ、殿下と別れようか迷っていたので確認しに来ただけです。では、私はこれで」
何か勘違いしている様子の彼女にそう答え、フロイデンに頭を下げると、クスクスと笑っていた貴族令嬢たちは驚いた様子で目を見開き、フロイデンも間抜けな声を漏らした。
まるでそんな事を言われるなんて思ってもいなかった、とでも言いたげな彼の様子に何とも言い難い感触を味わいながら背を向け、あわわと戸惑いを見せるエルケとクラーラの元へ向かう。
「それじゃあ、行こうか」
「う、うん。授業もそろそろ始まるもんね」
そう言いながらエルケは私の右手をぎゅと握り、クラーラも左手を握った。
まるで自分たちはいつまでも味方だと言うかのようなその行動に、少し泣きそうになりながら教室へ向かって歩いた。
と言うのも、父に相談する前は別れるつもりしか無かったのだが、書類を渡された時の言葉である「本当に愛していないと分かったら」が、その判断を留めることになった。
陰口を叩いている時点で愛なんて無いだろうとも思えるが、あの人の強がりな性格が災いして、思っても無い言葉を発している可能性が無いとは言い切れないのだ。
「おっはよー、あのクズ男と婚約破棄出来そう?」
「おはよう。お父さんは自分で決めなさいって言ってくれたし、書類も用意してくれたからやろうと思えば今週中に別れられるかも」
今日も元気な様子のエルケにそう答えると、彼女はおおっと歓声を上げる。
まだフロイデンの真意が分かっていないから確定では無いが、あの発言から考えるに私の事を愛している可能性の方が低いし、近い内には別れられるだろう。
と、私たちが向かっている方向からクラーラが歩いて来るのが見え、私が小さく手を振ると小走りでこちらへやって来た。
「どうでした? 婚約破棄は出来そうですか?」
「うん、お父さんは許してくれた。でもその前に、あの人に話を聞いてから決めようかなって考えてるんだよね」
「その返答次第で、と言う事ですか」
「うん」
私が頷くのと同時、後ろの方がガヤガヤと騒がしい事に気付いた。
何だろうと振り返ってみれば、フロイデンが貴族令嬢たちを侍らせて歩いているのが見え――私の中でくすぶっていたものが、完全に消え失せたのを感じ取った。
「い、イルメラ?」
「ちょっと待っててね」
冷や汗を浮かべるエルケとクラーラにそう言って、私はフロイデンの元へ近付く。
すると彼は見られたくない物を見られたかのような表情を一瞬だけ浮かべるが、すぐに余裕のありそうな笑みを見せる。
「どうした、何か話しでもあるのか?」
「ええ、一つお尋ねしたい事があります」
何か察した様子でフロイデンの周りにいた貴族令嬢たちがクスクスと腹立たしい笑みを浮かべるのを無視して、単刀直入な問いを投げかける。
「私のこと、どう思っていますか?」
「ど、どうって……妻のように思ってるが何か問題があるか」
「愛してはいないと?」
「……何が言いたい」
否定もせずに目を泳がせながら呟いた彼を見て、やはり私の事を愛してなどいないのだと察する。
するとフロイデンが肩を抱いていた男爵令嬢のフィーネが性格の悪そうな笑みを浮かべて。
「殿下に冷たく接してるあなたが今更愛してもらえるなんて思ってるんですか?」
「いえ、殿下と別れようか迷っていたので確認しに来ただけです。では、私はこれで」
何か勘違いしている様子の彼女にそう答え、フロイデンに頭を下げると、クスクスと笑っていた貴族令嬢たちは驚いた様子で目を見開き、フロイデンも間抜けな声を漏らした。
まるでそんな事を言われるなんて思ってもいなかった、とでも言いたげな彼の様子に何とも言い難い感触を味わいながら背を向け、あわわと戸惑いを見せるエルケとクラーラの元へ向かう。
「それじゃあ、行こうか」
「う、うん。授業もそろそろ始まるもんね」
そう言いながらエルケは私の右手をぎゅと握り、クラーラも左手を握った。
まるで自分たちはいつまでも味方だと言うかのようなその行動に、少し泣きそうになりながら教室へ向かって歩いた。
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