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「それじゃあ、また明日」
「うん、もっとクオリティが高い落書き用意するから期待しててね」
馬車の窓から手を振りながら禄でも無い事を言い始めるにエルケに、私は苦笑しながら手を振り返す。
するとタイミングを見計らったように馬が鳴き声を上げ、蹄の音を響かせて走り出し、やがて建物の影に隠れて馬車も見えなくなった。
「お嬢様、お待たせしました」
その聞き慣れた声の主に目をやると、幼い頃から私の面倒を見てくれている執事のルドルフの姿と、その後ろには私の家の紋章が描かれた馬車が停まっていた。
お疲れ様とだけ一声掛けて馬車に乗り込むと、ルドルフは御者の席へ移動する。
「それでは出発します」
「うん」
短く返事をするとルドルフは前を向き、それと同時に馬車は軋む音を立てて動き出す。
ゆっくりと流れていく窓の外の景色を眺めながら私はどうやって父を説得しようかと考え始めていると、御者席側の小窓からルドルフが顔を覗かせて。
「今日の学校は如何でしたか?」
そのいつも聞いて来る質問に、私は今考えていたことを話してみることにした。
「フロイデン殿下が私の事を要らないって言ってるの聞いちゃったんだ」
「……そんな事が」
「うん。それで、もうあの人とは別れようと思うんだ」
「えっ」
私がそう言うのと同時、さっきも聞いたような声が目を見開いたルドルフの口から漏れる。
「婚約を破棄なされるのですか?」
「ダメ、かな?」
「いえ、私は特に反対しませんが……旦那様はお許しになるでしょうか」
それは私も分からないから何とも言えないのが本音だ。
基本的に何でも好きにやらせてくれるし、多少のわがままだって許してくれる父だが、次期国王とも言われるフロイデンと婚約破棄するとなると話は別だろう。
自分の子どもが王族と婚約し、その婚約相手が王になったなら、それによって得られる恩恵はかなり多く、それら全てを失うとなれば、流石にそれは良しとしてくれないような気がする。
ダメだと言われる未来しか見えなくなり始め、どうしようかと悩んでいるとルドルフが前を向いたまま口を開く。
「旦那様はお仕事をお休みになっております。私が先に話だけ通しておきましょうか?」
「じゃあ、お願いしようかな。余計な仕事増やしちゃってごめんね」
「構いませんよ、これも私の仕事ですから」
ルドルフの口からいつもの台詞が出て来るのと同時に馬車は停まり、窓の外に目を向ければ既に屋敷の前に着いていた。
私は若干の緊張を覚えながらリュックを片手に馬車を降りて、ルドルフと共に屋敷の中へ向かって歩いた。
「うん、もっとクオリティが高い落書き用意するから期待しててね」
馬車の窓から手を振りながら禄でも無い事を言い始めるにエルケに、私は苦笑しながら手を振り返す。
するとタイミングを見計らったように馬が鳴き声を上げ、蹄の音を響かせて走り出し、やがて建物の影に隠れて馬車も見えなくなった。
「お嬢様、お待たせしました」
その聞き慣れた声の主に目をやると、幼い頃から私の面倒を見てくれている執事のルドルフの姿と、その後ろには私の家の紋章が描かれた馬車が停まっていた。
お疲れ様とだけ一声掛けて馬車に乗り込むと、ルドルフは御者の席へ移動する。
「それでは出発します」
「うん」
短く返事をするとルドルフは前を向き、それと同時に馬車は軋む音を立てて動き出す。
ゆっくりと流れていく窓の外の景色を眺めながら私はどうやって父を説得しようかと考え始めていると、御者席側の小窓からルドルフが顔を覗かせて。
「今日の学校は如何でしたか?」
そのいつも聞いて来る質問に、私は今考えていたことを話してみることにした。
「フロイデン殿下が私の事を要らないって言ってるの聞いちゃったんだ」
「……そんな事が」
「うん。それで、もうあの人とは別れようと思うんだ」
「えっ」
私がそう言うのと同時、さっきも聞いたような声が目を見開いたルドルフの口から漏れる。
「婚約を破棄なされるのですか?」
「ダメ、かな?」
「いえ、私は特に反対しませんが……旦那様はお許しになるでしょうか」
それは私も分からないから何とも言えないのが本音だ。
基本的に何でも好きにやらせてくれるし、多少のわがままだって許してくれる父だが、次期国王とも言われるフロイデンと婚約破棄するとなると話は別だろう。
自分の子どもが王族と婚約し、その婚約相手が王になったなら、それによって得られる恩恵はかなり多く、それら全てを失うとなれば、流石にそれは良しとしてくれないような気がする。
ダメだと言われる未来しか見えなくなり始め、どうしようかと悩んでいるとルドルフが前を向いたまま口を開く。
「旦那様はお仕事をお休みになっております。私が先に話だけ通しておきましょうか?」
「じゃあ、お願いしようかな。余計な仕事増やしちゃってごめんね」
「構いませんよ、これも私の仕事ですから」
ルドルフの口からいつもの台詞が出て来るのと同時に馬車は停まり、窓の外に目を向ければ既に屋敷の前に着いていた。
私は若干の緊張を覚えながらリュックを片手に馬車を降りて、ルドルフと共に屋敷の中へ向かって歩いた。
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