青の境界、カナタの世界

あとがき

　本作は4年ほど前とある小説賞に応募したものを、加筆修正して公開したものです。TVドラマ「TRICK」のようなコメディタッチのサスペンスを書こう、という大変たよりない動機づけで執筆をはじめました。初稿からは二度ほど大幅に改稿しており、主人公が玲からかなたに変更されたり、作中の雰囲気が随分お気楽になったりしています。変更の都度、作品のテーマも変えざるを得ず、いつしか作者の書きたいものよりも「作品の構造からの要請によって内容が更新される」という方向性での執筆を余儀なくされました。これは面白い経験でしたが、これほど一つの作品を改稿する機会が今後あるとは思えないため、おそらく一度限りのことでしょう。

　本作は当初、宮城県石巻市を舞台としていましたが、結局は架空の自治体を作ることにしました。理由は「現代よりも経済的に没落した架空の日本」という世界設定が必要になったためで……と書いたのが2019年の10月でした。以後「山賊王女と楽園の涯」の執筆に取りかかったためこの跋文ばつぶんは放置されていたのですが、その間に現実が小説を追い越しつつあります。

　あらゆるリソースの余裕がないので、作中の人物たちはみな協力し合い、手元にあるものを使いまわす状況が多くなりました。とりわけ大人たちは、自分の持っている資源をかき集めて、子どもたちの成長を促すために活用しています。子どもが大人のように活躍するお話は他の方に任せ、自分は違うものを書こうと考えた時、浮かび上がってきたのがこの「当たり前の大人」の姿でした。それも我が身を削る悲愴なものでなく、当人たちもどこか気楽で穏やかな姿です。初瀬のみ左記のカテゴリーからは外れていますが、ベクトルは異なれども同じ思いを共有しています。その活動は本作の趣旨からかけ離れ、「別の世界」の出来事になるため、敢えて描かずに終わらせました。もしかしたら今後、名前や状況は変わっても、初瀬の目指すものを書くことはあるかも知れません。

二〇二〇年四月三十日