青の境界、カナタの世界

紺乃 安

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17 嵐の前に

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 この道を行くのは何度目だろうと、かなたは指折り数えていた。雲雀野自然公園までは十五分程度の行程で、目印となるような建物などない山間部の舗装路だ。アスファルトのひび割れや木々の特徴まで覚えた道のりを半分ほど歩いた頃、美希が突然灌木に分け入った。
「近道あるよ、一緒に来る?」
「スカートというのは……山歩き用に作られていないんだ」
「先行ってるね。斥候」
 そこにも美希だけが知っている道があるらしい。かなたと亜沙美は丁重に断り、現代人用の歩道を進む。木々の葉を揺らす音が頭上で聞こえ、遠ざかって行った。
 現場で合流した三人を待っていたのは、現場周辺に張られたままの警戒線テープだった。それもかなたが張った「CRIME SCENE DO NOT CROSS」と表記されたものだ。
「柳澤め、テープの回収を忘れたな」
 杏子による鑑識作業は終わっており、現場保護用のテープは既に無用の長物である。柳澤と杏子がかなたに気を使ったのか、単に忘れていただけなのかは不明だ。
「昨日は気にしてなかったけど、事件現場って感じ。これって入っちゃダメなやつ?」
「本当はダメなんだけど……もういいかな」
「かなたちゃんが張ったものですし」
 着いて早々ベンチに腰掛けてチョコ入りソフトクッキーを食べていた亜沙美も同意する。美希は胸の高さにあるテープを、くぐるのではなく飛び越えた。
「額田さんは山の中を通ってきたんだよね。そっちから公園に入った?」
「そう、そこのボロい柵」
 美希は公園外周の柵を指した。暴行犯がそれを越えて逃げていったと亜沙美が証言し、柳澤が確認した朽ちかけた木の柵だ。
「ここで犯行が行われて、犯人がそこから逃げたんだ」
「へえ。ここ壊れかけてて危ないのに」
「柳澤刑事も、そのようなことを言っていました」
「あたしは大丈夫だけどね、乗っても。今四六キロ。でも、体力つけるにはもう少し筋肉付けないとって師匠に言われてるから、そうしたらこれ壊れそう」
 女性が秘密にしたがる数字をあっさりと公言し、美希は柵に乗って見せた。それも一旦支柱部分に飛び乗り、横歩きで横木に移るという雑伎だった。
「立ってる支柱はまだ大丈夫だけど、横のは飛び乗ったらダメだねー」
「もしかして、身体の大きい男性とかが乗ったら折れる?」
「と思う」
「ということは……亜沙美ちゃん、カメラに映ってたの太った男の人だって言ってたよね」
「午前中の小森氏のような体格でした」
「額田さん、そこ、八〇キロとか九〇キロの人が乗ったとしたら?」
「無理無理。あたしだって勢いよく乗ったら折れるよ」
 そう言って美希は、柔軟体操のように脚を水平に開いてゆく。そうすれば荷重は両足へ均等に分散し、一点に全体重がかかることはない。
「そんなに脆いなら……柳澤もおそらく、自分の体重は支えられないと思ったから危ないと言ったんだろう。ということは」
「ということは?」
「偽装……肥満?」
 亜沙美がよくわからない新語を提案する。かなたは公園内を柵に沿って歩いた。
「やっぱりだ!」
 アベリアの植え込みの裏側にある柵は、二つに折れてしまっている
「わあ、なんか探偵みたい」
「額田さん、この先って、道はある?」
 かなたは一語ごとに高揚し、声が熱を帯びてきている。
「あーどうだろう。歩きやすい場所は限られてるから、あるって言えばあるかもね」
「それを辿れば、犯人の逃走ルートが掴めるかも、しれない!」
 美希と亜沙美が疎らな拍手をする。
 名誉挽回できるかもしれない、汚名返上の機会かもしれない、とかなたは興奮していた。取り返すべき名誉はまだ受けていないし、そそぐべき酷い汚名もまだ無いのだが。
 かなたはこの時点でようやく、先日磐船講で遭遇した羽鳥の言動を思い出した。あの様子なら柳澤につき出すだけで一件落着だろうが、せっかくなので証拠固めをして衆目を集めたい。
「よし、行ってみよう!」
「犯罪捜査らしくなってまいりました」
「こういうの何て言うんだっけ、カサス?」
 三人は柵を越え、獣道のような美希専用道に入った。かなたと亜沙美はまだ丈夫な部分を選んで越え、美希は後転跳びで越えた。
 美希が先導する道――のようなもの――は地面が硬く、周囲に比べて雑草などは少ない。だが、かなたが着替えたことを後悔する程度には悪路だ。せめてタイツを借りておけば、尖った雑草の先端が素肌を刺すようにくすぐることはなかっただろう。
 素人目には全く違いの分からない杉の木の間の道は、知らず知らずのうちに身体が誘導されるような感覚があった。地面の状態や木々の間隔によって、人の動線が規定されているようにも感じる。樹海の迷子などはこういった仕組みなのかも知れない。疲れて歩くペースが落ちてきた亜沙美が抱っこを要求しようとすると、美希が何かを見つけた。
「何だろうこれ。服?」
「服にしては形が変な……風船だこれ」
 かなたが手袋をしてつまみ上げると、それは服と見間違えるほど大きな厚手のゴム風船だった。サイズの小さなものも複数あり、色はすべて灰色だ。その下には、大根のような大きさの木の枝が転がっている。
「あー、やっぱりそうか……」
「かなたちゃん何か知っているので?」
「いや、うん、まあ……たぶん姿を偽るために、この大きな風船を服の代わりに被ってたんじゃない?」
「なるほど、そのような質感だったかも知れません」
「これって犯人の?」
「間違いないだろうね」
 あまりにも予定調和的なため、かなたは少々落胆していた。とりあえず柳澤に自慢できそうなネタではあるので、それで良しとしよう。
「やはりこれは、犯人が捨てたものだろうね。ここまで逃げてきて、変装か動きにくかったか、それで脱いだのかな。そして……やはり凶器と見るべきだろうな」
「じゃあこれ、持って帰って警察に連絡するの? あんまり触りたくないなあ」
「いや、証拠は発見したら基本的にそのまま。警察には私が連絡しよう」
 かなたはスマートフォンを取り出したが、アンテナの表示が一と〇を行ったり来たりして安定しない。この状態で通話しても、文字通り話にならないだろう。今はこのまま歩を進めることにした。
 五分ほど歩いたところで右手側の木々が疎らになって視界が開け、その先にナスやトマトの畑が見えた。美希が立ち止まり、周囲を見渡す。
「あたしがよく行ってたのは右側だけど、足跡はこっちに続いてる」
「足跡……?」
 美希はトマト畑に顔を向けながら、左手でかなたたちの前方やや左を指していた。足跡などかなたと亜沙美には見えない。美希の示す方向は登り坂になっており、より険しいルートだ。
「この、何か植えてあるほうじゃなく?」
「うん。あ、この場所だと……磐船講の南側にある農園のやつだ」
「何も考えずに進めば磐船講の近くに出るところを、避けて進んだわけか」
「でもこっち行っても、磐船講の遊歩道とか入口ある方だよ」
「どちらに行っても大差はないようです」
「それじゃあ、たとえば畑には人がいて、変なところから出てくる姿を見られるのを、避けたかったとか。罪を犯した後なら、尚更そう考えると思う。わざわざ厳しいルートを選ぶんだから、理由があったはずだ。まあとりあえずここを出ようか」
 今は立ち止まって考えるよりも、先に進むほうが真相への近道だろう。
 三人は険しい左側進路をあえて進み、短距離ながら足場の悪い坂を登り切った。苦難を超えた先の風景は、全員の記憶に新しいものだった。石畳の敷かれた遊歩道で、長さ四メートルほどの丸太が転がっている。
「わずか七メートルの距離です。あそこが出会いの場所でしたね。あの襲撃を受けた……」
「ほんとごめん。ごめんなさい」
「まあいいさ。ここまで来れば、あとはどこへでも逃げられるね」
「どっちに行ったか匂いとかで分かればいいんだけど、犬じゃないからなあ」
「人間は、そこまでできなくてもよいのでは……」
 超人的な身体能力を誇る美希でも、嗅覚は人並みらしい。
「そうだ、ここならどうだろう」
 スマートフォンの電波強度表示は、圏外から周期的に二に上がるといった不安定さだ。磐船講内では問題なく通話できていたことを思い出し、このまま戻ることにした。かなたは時々スマートフォンの画面を見ながら進み、電波状態が安定したところで柳澤に電話をかけた。
「私だ」
「おやチーフ、何かありました?」
「手がかりだ」
「お、マジですか。実は俺らも一件有力な証言を得まして」
 柳澤の声が、左右のバランスが取れていないステレオ音声のように聞こえる。
「こちらは物的証拠だ、犯人のものらしき衣類と凶器。凶器をDNA検査にかければ、犯行で使われたものであることは証明できるだろう」
「本当に? こりゃ案外さらっと解決できそうですね」
「柳澤、今どこに」
「チーフの後方左、六メートルほど」
 かなたが振り返ると、柳澤がスマートフォンを片手に手を振っていた。ジュラルミン製のツールボックスを持った杏子も一緒だ。なぜこの場所にいるのか柳澤に問おうとすると、瞳孔をハート型にした杏子が割って入ってきた。
「かなたちゃん? かなたちゃんよね! どうしたのこんな……こんな姿! 制服姿はこんな……生足も!」
「落ち着け進藤くん。ここは弁えたまえ」
「分かっています証拠でしょう聞こえていました。早速取りに行きましょう一緒にさあどこにあるの」
「あっちの、林の中に……」
「林の中! そんな、林の中に二人で!」
 こいつはもうダメだ、と柳澤は呟いた。証拠の件は杏子に任せて自分は聞き込みに回ろうと考えていたのだが、話にならない。
「ちなみにチーフ、詳しい場所は?」
「ああ、えーと、詳しくは……彼女なら案内できる。彼女は……額田美希ちゃん。剣根高校の一年生だ」
「額田美希です。刑事さん?」
「そう、雲雀野署の柳澤です。これは鑑識の……」
「これ呼ばわりとは失敬ですね。私は進藤杏子巡査、証拠の収集と分析が仕事よ。よろしくね美希ちゃん」
 杏子は膝を折って小柄な美希に目線を合わせ、両手で美希の右手を握って熱の込もった挨拶をした。美希が後ずさりしたのは、六歳の頃に土佐犬を見て以来のことだった。
「さて、では全員で証拠のとこまで行こう。進藤くん証拠袋は持ったか? 衣類が入るサイズのやつだ」
「私が準備を怠っていたことがありましたか? というか警官は私一人で問題ないでしょう?」
「そうか一人で行ってくれるか。少女たちも疲れているだろうしな」
「おのれ……私だけでは場所が分かりませんが!」
「じゃあ、あたしと進藤さん? で行けばいいんだよね。かなたさんたち疲れてるでしょ」
「彼女なら、大丈夫だ」
 美希ならば、いざというときも一人で対処可能なことを、柳澤に視線で伝えた。
 亜沙美はすでに、離れた場所にあるベンチに座って休んでいる。
「私はしばし休息を……」
「んじゃちょっと行ってきます。急いだ方がいい?」
「ゆっくりで、いいのよ」

「どうしてここに来たんだ?」
「そうそう、昼過ぎに矢加部さんから連絡が来ましてね。犯人らしき人物がここにいると」
「うん……まあそうか」
「俺もまだ具体的には聞いてませんけど。とりあえず入りますか」
 柳澤が立場上容疑者の名前を開かせないことを斟酌して、かなたは言葉を濁した――と柳澤は勘違いしている。
 エントランスホールへ向かいながら、かなたは地下でのことを話すべきか考えた。そろそろ自分の手には負えない状況になりつつあるのではないか、そんな気はしている。
「チーフ、本当にあの額田って子は大丈夫ですか?」
「もちろん。そうだな……お前は、ここの外にあった街灯みたいな太さの丸太を振り回したり、五十キロの荷物を抱えたまま坂道を何往復もできるかな?」
「本当に? そいつはすげえ。進藤くんも一度痛い目に遭って懲りてくれると、こっちも仕事がしやすくなるんだがなあ」
「警察の威信に関わるんじゃないか?」
「雲雀野署の女性警官、女子高生に対してわいせつ未遂か。そうなったら、一緒にいた俺も始末書ぐらい書かされるか」
 かなたもここに至って、杏子が妙に女子高校生たちに同行したがった昨日夕方の振る舞いや、初対面時に過剰に身体を見回していた視線から、どんな嗜好に基づく行動かは察しがついていた。
「そうだ、亜沙美ちゃんの言ってた犯人の体型だが、あれは偽装だった」
「ほう。シッスルは太った男って言ってましたが」
「もうすぐ額田さんたちが持って来る証拠品だが、風船だ。どうしてそんな偽装したのかは知らないが、野球場で飛んでるような長い風船を身体に巻いて、太ってるように見せてたんだろう」
「ほう、ほう」
 その証言は、柳澤が仮想的に立てた犯人像を補強するものだった。小森千鶴に何らかの恨みがあり、家庭事情を知っている者。わざわざ息子の小森玲のような外見とメールアドレスを偽って、暴行を加えた。その意図するところは、家族関係の崩壊ではないだろうか。柳澤は右の側頭部に小指を当て、そんなことを考えていた。
「あら、蓮見さん。そちらの方も先生?」
 エントランスホールに、真夏に冷房の利いた喫茶店のドアを開けた際に感じる風のような、涼やかな声が響いた。雛母離千花だ。
「ああ、これは、警察官の柳澤……です」
 これ呼ばわりで紹介された柳澤は、口を半開きにして呆けている。千花に魂を囚われてしまったかのようだ。
「雲雀野市警刑事課の柳澤警部補です。どうか、よろしく」
「あっ、コラ」
 これまでかなたが見たことのない慇懃な態度で自己紹介し、握手を求めて右手を差し出した。千花の瞳が妖しい輝きを帯びる。右手を差し出して握手に応じると一歩前に出て、左手を握った手の下に添える。首をかしげて一瞬天女のような微笑みを作ると、左手を外側に捻りつつ柳澤の腕の下をくぐって背後に回り、腕をレの字型に極めた。
「あーっ?! あーっ!」
 極めた腕に体重をかけて柳澤を腹這いにさせると、千花は左側面から自分の左脚を柳澤の左脚に絡みつけ、両手で左足をロックし、自分の脚を支点にして柳澤の脛を折るように絞り上げた。
「ほら、ほらぁ!」
 明らかに高揚した千花が、かなたを屈服させた時よりも遥かに強い力で締め上げるが、柳澤はギブアップの意思表示をしない。やがて、千花の嬌声が止み、静かに手を解いた。
「……わかるのよ。目の奥に媚態が見えるわ」
「もう、終わりですか……」
 柳澤は強がりでそう言ったのではない。顔は歓喜に満ちていた。
「初めから気持ちが土下座してる人なんて」
「そう言わずに……ああ、私は警察署の柔道部で、いやしくも年少部を指導させていただいております。ブラジリアン柔術部門でもサンボ部門でも何でも作るので、どうか、来てはいただけませんか……」
 柳澤は片膝を付き、こうべを垂れた。かなたは両手で口を押さえる。ショックで言葉を失う少女漫画の主人公のように。
「今は忙しいのです。まあ、考えておきましょう」
「ありがたき幸せ……」

「あそこの小会議室に呼ばれてたんですけどね。申し訳ないけど、チーフはここで待っててもらえますか。もちろんあとで話しますから。ああそうだ、進藤君が戻ったら、そっちに来るように言ってもらえると助かります」
「そ、そうか……伝えよう」
 西側エントランスホールの右側にある休憩スペースで、かなたは杏子たちを待つことになった。柳澤が小会議室へ向かう途中、総合受付で二人の男性が口論をしていた。一人は矢加部、もう一方のスーツを着た男は柳澤と面識のない、初瀬だった。
「初瀬さん、またあなたでしょう。羽鳥くんを焚き付けて」
「うむ……冗談のつもりだった、では済まないな」
「田んぼにハート型のミステリーサークル作ったのだって、あなたがけしかけたんでしょう?」
「いや全く、そこで気付くべきだったな。まさかきみが謝りに行ったというのに石川翁ときたら、真相を隠して採れた米をバレンタインデー用の商品として売り出すなんて事を言い出すとは。ばれたら僕らは詐欺の片棒を担いだことになるかね?」
「結果的に感謝されて、いいのか悪いのか……」
 役所へ聞き込みに行った際、そんなことを課長補佐の佐藤が言っていた。
「初瀬さん、ズボンの裾に草の実みたいなものが付いてますよ」
「おっと客人を迎えるという時に身仕舞いが」
「あのー、お取り込み中でしたか」
「柳澤刑事、お呼び立てしてすまない」
「うむ、僕も関係者だからお構いなく」
「会議室でと言いましたが……ここでもいいか。羽鳥くんは?」
「もう来てもいい頃だが。矢加部くんきみ呼んできたまえよ」
「やはり僕が行くべきか。仕方ない、柳澤刑事ちょっと待ってていただけますか」
「構いませんよ、うちのツレもまだ来てないですし」
 矢加部は建物の北側出入口に向かった。途中、柱の陰で聞き耳を立てていた制服姿のかなたを発見し、どどどうも、と挨拶された。
「やあ、柳澤刑事と言ったね。まだ自己紹介していなかった、僕は初瀬と言う」
「ああどうも柳澤です。あとで鑑識の進藤ってのも来ますんで」
「ほう。鑑識というと、証拠品でもあったかね」
「だそうです」
「この期に及んで逃走するとも思わんが、ないよりはあったほうが良かろう。まあ役者が揃うまで楽にしていたらどうかね」
 初瀬はそう言って、受付内からキャスター付きのOAチェアを滑らせた。
 矢加部は午前中に、暴行犯の目星がついたので話がしたいという連絡を柳澤に入れていた。今更なことではある。

 五分も経たないうちに、矢加部が羽鳥を連れて戻ってきた。入口の前でまごついていたところを説得してきたのだ。羽鳥は今にも泣き出さんばかりに萎縮している。
「来たようじゃないか、両方とも」
 受付カウンターに腰掛けていた初瀬からは、西側入口に三人の女性が見えた。そのうち長身の成人女性は、随分息を切らしている。
「早いな進藤くん」
「いや……この子のペース……何者ですか……」
 呼吸を整えながら話す杏子の傍には、美希と亜沙美の姿もあった。
「刑事さんって、走って犯人追いかけて殴る仕事じゃないの? って思って早足にしたんだけど……」
「そりゃ、昔の西部の警察だけだね」
「主任……亜沙美ちゃんの……目撃証言と一致する証拠品です。ここと、雲雀野自然公園の中間にある林の中に……捨ててありました。凶器も一緒です」
 杏子の手には、中身の入った証拠保管袋が握られている。
「役者は揃ったようだな」
 柱の陰から、かなたが姿を見せた。

「それでは」
 矢加部が一声発すると、全員の視線が集中した。
「いいですねこういうの。耳目を引くというのは。予定より観衆も多い」
「君の性癖のことは良いから、早く進めたまえ」
「えー、もちろん、先日雲雀野自然公園で起こった事件についてですが、これは僕が説明するよりも、羽鳥くん、いいね?」
 羽鳥は小さく頷き、ゆっくりと前に進み出た。
「昨日の……公園で、小森千鶴さんに暴行を働いたのは、私です」
 ざわつく聴衆の中でかなただけは、ほんとにお前だったのかよ、と他の者とは違う方向で驚いていた。
「事前面談で矢加部さんが書いてもらっていたアドレスに、偽のメールを送って……あそこの公園は、私が市役所にいた頃にカメラを設置していたけど、どうせ誰も見ていないので」
「それで、タイヤメーカーのキャラみたいに外見を偽って……というわけか」
 柳澤が証拠袋の風船と、受付のバルーンアートを見比べながら言う。かなたは腕組みして得意気に頷いていた。
「そういや矢加部さん、犯行時刻には全員農作業をやってたって昨日言ってましたが、そことの整合性は?」
「私……作業中に具合が悪いと言って、倉庫の陰で休むと言ったんです。そして倉庫の裏側から林に入って、急いで公園へ……」
「でもなぜです? 小森さんと一体どんな関係が」
「それについては僕から話そう。この二人は少々言いにくかろうしな」
 初瀬が進み出て、受付カウンターに左手を置いた。
「最初に、なぜ、からいこうか。まあ世の中いろんな人間がいるが、惹かれ合うのは男と女という組み合わせばかりじゃない。ああ、ちなみに矢加部には娘がいる」
 羽鳥は両手で顔を覆っている。その様子が記録欲を著しく殺いだのか、亜沙美は目を背けた。
「有り体に言ってしまえば、小森女史は羽鳥にとって恋敵だったというわけだ。ちなみに矢加部は現在独身だが」
 当事者二人を除く全員が、矢加部と羽鳥を交互に見た。
「僕にその気はないです。ストイックでないと崇拝の対象になれませんから」
「というわけだ。一方的な勘違いなんだが、話はまだ結末には遠い。そこで出てくるのが、この僕だ! ぶつくさと小森女史に対する恨み言を呟く羽鳥に対し、こう言ってやったんだ。怪奇現象でも起こして近づかないようにするのかね、と。もちろん冗談だ、言ってるこっちは冗談なんだが」
「彼は真に受けてしまいやすいもので」
「うむ。そこを理解していなかった僕の失態だ。気付く機会はあったはずだがな……というわけで、僕も立ち会っている。柳澤刑事、これは確か暴行の幇助と言うか教唆になるかね?」
「あー、どうすんだっけ教唆の場合は……ただ初瀬さんに、その意志は無かったわけですよね?」
「聞いてください。初瀬さんは暴行をふるえと言ったわけでなくて……わたしも脅かすだけのつもりだったんです」
「そこが、千鶴さんがセーラー服を着ていたのが悲劇の一端……と僕が言うと責任逃れですが。彼はセーラー服が大嫌いなんです」
「信じられないわ」
「進藤くん黙ってて」
「それはひょっとしてあれか? 以前に聞いたが、セーラー服のヒロインを攻略するゲームがどうしてもクリアできずに仲間内で孤立する原因になったという……」
 羽鳥はヘヴィーメタルでも聞いているように頭を上下させた。
「会議室で矢加部さんと話しているのを聞いて……子供が引きこもっているとか太っているとか……で脅かしに行ったらあの格好で……どれだけ私をバカにしているのとカッとなってしまって……」
 嗚咽するばかりでこれ以上は言葉が続かないと見て、柳澤がまとめに入る。
「事情は分かりました。では、えーと羽鳥さん、このまま署まで同行しますか? それとも自分で出頭しますか?」
「逮捕するのでは……?」
「現行犯ではありませんし、私たちは逮捕状の請求さえして来ていません」
「この期に及んで逃げたりはせんだろう羽鳥は。矢加部くんに顔向けができんしな」
「彼自身が出頭すべきだったんですが、どうも怖がってしまって。せめて僕が一緒に出頭できればよかったものの、都合がつかず申し訳ない」
「ではいっそ、あとで僕と三人、雁首揃えて出頭したらどうかね。ちょっと仕事を片付けたら付き合おう。僕も重要な参考人だろう? 供述調書の一つも取られようじゃないか」
「まあ小森さんもあんな様子だったし、起訴猶予かな」
「刑事がそれを言ってはダメでしょう」
 じゃあそういうことで、と柳澤が椅子から立ち上がる。推理小説終盤の全貌解明の儀式のようなものは、あっさり終了した。探偵が犯人を指差して詰問したり、関係者のうち一人が走り去ってそのまま飛び降り自殺したりといった展開は、ない。矢加部と羽鳥は受付奥の小会議室に入り、初瀬はすぐに北側出入口から出ていった。
「なんか、つまんね……」
 周りに聞こえないよう、かなたは呟いた。

「帰って報告書書いて、まあ事情聴取とかも一応あるかなあ、とりあえずこの件は終わりだ。ああ疲れた、俺も内勤の職員になりたいなあ」
「市民の目の前で、やる気のない発言は控えようか」
「刑事さんって、くすんだ色のコート着た無精ひげの太ったおじさんみたいな人ばっかじゃないんだ」
「もうすぐ、この人もそうなるのよ」
「もうすぐってことはないだろう。あと……二十年は、俺は維持するぞ」
 西側エントランスホール付近にある休憩スペースで、緊張の糸が切れて気の抜けた雑談が始まった。亜沙美はその中でも特に優雅で、小さなチョコケーキを食べながらスマートフォンを操作している。
「示談になってくれれば、俺のやることはさらに減るな」
「またサボるんですね」
「警察が暇だってのは良いことだぞ」
「……まあ実際、小森さんは被害届も出していませんし、示談となる可能性は高いですけれど」
「小森くんちはお父さんもお母さんも、優しそうな人だったしねー」
「無事に事件解決だ。さあ帰ろ帰ろ」
 悪逆非道の輩に「お前のようなクズを牢にブチ込むのが私の生き甲斐だ」と言ってみたかったかなたには不本意な結末だが、この世界は平和だ。
「そんじゃチーフ、みなさん。いやあ今日は来て良かった」
「それじゃ、また会いましょう。困ったことがあったら、いつでも電話してきてね」
 杏子は美希に名刺を手渡した。もちろん電話番号の裏書き付きだ。
「これで電話帳の番号三つ目」
「……柳澤待った! ちょっと待った」
 出口に向かおうとしていた警察官二人の背中を、かなたが呼び止めた。腰に両手を当てて俯き、わずかの間考え込む。どのように伝えれば格好良いかを妄想しているのだ。
「柳澤、事件はもう一つある」
「何です? ものものしい」
「そのために我々は埃だらけになったのでした」
「実は例の小森家に対し、強盗を目論んでいる輩がいる」
「は?」
「小森って、さっきの小森さん?」
 二人の大人は、怪訝そうにかなたを見つめた。
「うん……その、何を盗もうとしているかは分からなかった。小森家の協力を得て確認をしてみたが、厳重に保管されていた。どうも祖父の財産らしい」
「あ、小森くんの爺さんのものなんだ。あの酔っぱらいの」
「やっぱりそれは、お金になりそうなもの?」
「その祖父というのが資産家だったらしいから、おそらく……」
「カネ目当ての盗みか……しかし、どっからそんなネタを?」
「うん……昨日な、ここの近くで電話してるのが聞こえてな。残念ながら姿は確認できなかったが、トラックや重機を使うとか」
「ここで……? しかし随分と大ごとだ」
「なんか面白そう」
 美希にまでかなたの悪癖が伝染したのか、と警察官二人は脱力したが、本人の資質によるものである。
「いい? 美希ちゃんには証拠品の件で協力してもらったけど、ここからは警察の仕事。あとで結末は教えてあげるから、私達に任せて」
「運び出しは来週の日曜日だと言っていた。様子を見に行ってもいいんじゃないか」
「そうっすね。そこは確認しとくか。やれやれ一難去ってまた一難だ」
「場所が分からないだろう。何しろ、荒れ果てた庭園内の物置の中、階段のない地下室という奇妙な場所にあるんだ。出入りには梯子が必要だ」
「RPGのダンジョンに関する説明ではございません。あまねちゃんはまだ梯子を持っていますでしょうか」
「現場には縄梯子が……いや、やはりあった方がいいか」
 かなたと玲が登った縄梯子は、誰が下ろしたのか分からない代物だ。既に回収されている可能性もある。
「先輩が梯子? 日曜大工って柄でもないのに。まあいいや、場所だけ教えてください」
「蔓草があれば梯子くらい編めるけど、時間はかかっちゃうからなあ」
 この子は何を言ってるんだろう、と言いたげな顔で杏子は美希を眺めた。証拠回収時の極限まで訓練された兵士のような身のこなしといい、どうも昨日から会う女の子は必ず何かが過剰だ。
「柳澤警部、場所案内のついでに、我々を寮に送っていただけませんか?」
 亜沙美が柳澤の役職を間違えながら依頼した。自分が駅までの道を歩きたくない一心での懇願だったが、実は寮の門限に間に合う最終電車はすでに走り去っており、かなたにも利益はある。柳澤は生返事でスマートフォンを操作した。
「先輩、昨日はお疲れ様でした」
「柳くんこそ、大変でしたね」
「おかげで今日、無事に蹴りがつきましたよ。ところで先輩、梯子を持ってるそうで」
「……それはもしかして、蓮見さんたちがまた?」
「やっぱり先輩も知ってましたか。まあ後は俺たちの仕事ですんで、そこは任してください」
「それなら私も安心です。で、梯子でしたね」
「近くにいるなら借りられないかなーと」
「その梯子、私は矢加部氏から借りたもの……あ」
「どうしました?」
「一緒に借りた救急箱を返し忘れてました」
 梯子を借りた際「僕は用事があるので、農園の用具倉庫前に置いててくれればいいです」という矢加部の言葉に甘え、中原はそのとおりにして帰宅してしまったのだ。
「実はうちら、今磐船講にいるんです。じゃあ矢加部さんに言えば貸してくれますかね」
「ああ、そうでしたか。それなら大丈夫でしょう。また私もそっちに行かないと……ということは、蓮見さんたちもそこに?」
「もちろん」
「早く帰るように言ってください」

 休憩スペースを出て駐車場に向かいながら、乗車位置について前日と同様に柳澤と杏子が押し問答する。今回は、かなたが助手席を買って出ることで話をまとめた。前日と違うのは、年式の新しい立派なセダンであることと、柳澤が正式な運転者という点だ。必然的に女生徒三人のうち誰かが、後部座席で杏子の隣に座ることになる。制服姿で生脚を晒しているかなたには、杏子に隣席する勇気はなかった。矢加部に話をつけて梯子を借りてきた柳澤が、亜沙美のスーツケースと梯子をトランクに仕舞い、五人はそれぞれ所定の席に着いた。
 車に乗るとかなたはバッグから地図を取り出し、柳澤に現場の位置を説明する。美希情報記入済みのものだ。
「ここの家庭菜園に物置があるんだが、その下に地下室が作ってあるんだ。ここが、梯子でもないと出入りができないようになっている」
「俺らは小森さんに許可貰ってから現場確認するんで、場所教えてもらったら一旦寮に送りますよ。門限大丈夫ですよね?」
「まだ一時間は余裕があるな」
「んじゃ気楽に行きますか」
「一時間ドライブしてもいいですよ!」
 両側を女子高校生に囲まれた杏子が、わけのわからないことを言った。

「あれ? サングラスがない」
 制服姿になって使用を自重していたアイテムを紛失していることに、かなたは小森家へ向けて走り出した車の中で気付いた。
「午前中は持ってたよね。あー着替えたからか」
「そうかな……着替えた時は……その時点で持ってなかったかも」
 亜沙美の制服を借りて着替えた時、ポケットの中のものは全て移し替えたことを覚えている。だが、何があって何が無いかは確認していなかった。
「千花の部屋でコレの使い方聞いてる時も、無かったと思うけどなー」
「となると、先生の車の中か……うわどうしよう」
「メールして、持ってきてもらいましょう」
 言い終えるが早いか亜沙美は物凄い速さで、中原へ向けて今日二通目の珍妙なメールを作成し始めた。教師は大変な仕事だな、と柳澤が同情していると、運転席の電話ホルダーに固定してあった柳澤のスマートフォンに着信があった。亜沙美のいたずら電話、ではなく未登録の番号だ。イヤホンマイクの受話ボタンを押すと、発信者はひどく狼狽した小森千鶴だった。
「や、柳澤刑事さんでしょうか、小森です、昨日の」
「はい。小森千鶴さんですね、何かありましたか?」
 車内の全ての視線が、柳澤に集中する。
「あの、昨日の件ではないんです。すいません、その、ああ!」
「落ち着いてください。えー深呼吸して、見えてるものを一つずつ」
「は、はい、うちの敷地内に大きなトラックが来て、その、父の家庭菜園のあたりで何かしているみたいなんです。工事とかを頼んだりしてないんですけど、とてもそんな様子じゃなくて」
「いいですか、小森さん、我々がすぐ向いますから、戸締まりをして、外に出ないで。窓から様子を伺ったりするのも避けてください」
 千鶴の言葉は柳澤にしか聞こえていないが、その口ぶりから、ただならぬ事態だということは全員に伝わった。
「主任」
「予定が一週間早まったらしい。クソッ」
 柳澤は、軽い気持ちで女生徒たちを乗せてきたことを後悔した。連れていけば危険に晒す可能性があるし、存在が重荷になる状況も考えられる。だが小森家はもう間近で、事件現場付近に女子高校生を置き去りにすることもできない。
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