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ジュニエスの戦い
79 フリークルンドとアルバレス 4
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交わす言葉の噛み合わなさに、フリークルンドは違和感を隠せずにいた。
フリークルンドが見ているのは、リーパーとして類まれな力を持ちながら近衛兵への入隊を却下された過去を持つ、オラシオ・アルバレスだ。オラシオ・ロードストレームはフリークルンド自身ではなく、近衛兵が象徴するものを見ている。
交えた刃のようには、二人の心は正対していない。
「見下げ果てた奴だ。逆恨みで俺の前に立つとはな」
「……では言葉を並べるより、私を斬り倒してはいかがですか。あなたは元来そうしたやり方がお好きでしょう?」
「思い上がるな!」
フリークルンドが疾駆し、地面を薄っすらと覆っていた雪が煙のように舞い上がった。
フリークルンドは長大な斧槍を、小枝を振るうように軽々と扱い、敏捷なロードストレームを攻め立てる。ロードストレームはその攻撃を一度として受けることなく、風に木の葉が舞うように避け切って見せた。
「いっそう腕を上げられたようですね。四日間戦い続けた後でなお、恐ろしいまでの力と鋭さ」
「ふん。貴様も金持ちに飼われながら、牙は研ぎ続けていたようだな」
「そうですか? あいにく私、戦いは嫌いでして……」
「この期に及んでまだ、つまらん諧謔を弄するか!」
「いいえ、冗談ではありませんよ。特にあなたとなど、なるべくなら戦いたくはりません。勝負ごとはしょせん水物、どれだけ技を磨いたところで、始まってどう転ぶかなど分かったものではありませんから」
「その揺らぐ死線を越えることこそが強さだ」
「ええ、それが嫌いなんです」
フリークルンドは苛立ちを覚えていた。自分と並ぶ力を持ち、打ち倒すことが強さの証明となるだけの好敵手が、強さという尺度に価値を全く認めていない。
まるで無視されているような不快感に歯ぎしりし、斧槍を握る手に力がこもる。
「……お前もそれだけの力を持っているなら、相応の修練を積んでいるだろう。それは一心に強さを求めねば不可能な、苛烈なものだったはずだ」
「あいにく私は、ただ力を得ることを目的とした修練はしていません。私があなたと伍するだけの力を持ちえたことは、単なる結果です。それ以上でも以下でもない」
「では何のために修練を積んだ! 貴様は何のために戦う?!」
「私の力は、世界を変えるための力です。新しくより良い世界を、次の世代に残すためのね!」
ロードストレームが一瞬だけ、ふわりと宙を舞ったように見えたかと思うと、次の瞬間には目にも留まらぬ速度でフリークルンドに斬りかかっていた。周囲の者からは二本のジャマダハルが、光跡と金属音だけの存在としか感じられないほどの速さだ。
それほどの攻撃にフリークルンドは正面から応戦し、ロードストレームは反撃を避け、浮き上がるように距離をとる。
「なんと凄まじい……こんな戦いができる人間が、この世に二人もいるとは……」
近衛兵副隊長のハセリウスはノルドグレーン兵と戦いながら、戦慄とともにつぶやいた。彼は幾度も、フリークルンドの訓練相手を務めたことがある。――その時は、実力の半分も出してはいなかったのだろう。
まるで背中に見えない翼があるかのように重さを感じさせない、だが恐ろしいまでの敏捷さが、特色として際立ったロードストレームの戦闘様式だった。
巻き起こる風が雪を舞い上げ、不鮮明になった視界が二人の戦いを覆い隠す。それが明瞭に見えていたところで、彼らと同じリーパーの力を持つハセリウスでさえ、戦いのすべてを目で追えていたかどうかは疑わしい。
「あなたや私のような戦士の時代は、もうすぐ終わるのです! 次代の主役は、間違いなくローセンダール様のような方」
「知ったことか! 俺は貴様を倒し、ノーラント世界に冠絶する武名を打ち立てるのだ」
「我らの行く末など、せいぜい見世物の剣闘士……そんな栄光をお望みですか」
「貴様は……武の力をそこまで嘲弄するのか!」
フリークルンドが怒りに任せて強く打ち込み、空を切り大地を打った斧槍の衝撃が、間欠泉のように砂利や雪を噴き上げる。そしてわずかに、フリークルンドの体勢が崩れた。フリークルンドは前のめりの上体を戻そうとするが、その左肩口をロードストレームのジャマダハルが切り裂いた。
フリークルンドが見ているのは、リーパーとして類まれな力を持ちながら近衛兵への入隊を却下された過去を持つ、オラシオ・アルバレスだ。オラシオ・ロードストレームはフリークルンド自身ではなく、近衛兵が象徴するものを見ている。
交えた刃のようには、二人の心は正対していない。
「見下げ果てた奴だ。逆恨みで俺の前に立つとはな」
「……では言葉を並べるより、私を斬り倒してはいかがですか。あなたは元来そうしたやり方がお好きでしょう?」
「思い上がるな!」
フリークルンドが疾駆し、地面を薄っすらと覆っていた雪が煙のように舞い上がった。
フリークルンドは長大な斧槍を、小枝を振るうように軽々と扱い、敏捷なロードストレームを攻め立てる。ロードストレームはその攻撃を一度として受けることなく、風に木の葉が舞うように避け切って見せた。
「いっそう腕を上げられたようですね。四日間戦い続けた後でなお、恐ろしいまでの力と鋭さ」
「ふん。貴様も金持ちに飼われながら、牙は研ぎ続けていたようだな」
「そうですか? あいにく私、戦いは嫌いでして……」
「この期に及んでまだ、つまらん諧謔を弄するか!」
「いいえ、冗談ではありませんよ。特にあなたとなど、なるべくなら戦いたくはりません。勝負ごとはしょせん水物、どれだけ技を磨いたところで、始まってどう転ぶかなど分かったものではありませんから」
「その揺らぐ死線を越えることこそが強さだ」
「ええ、それが嫌いなんです」
フリークルンドは苛立ちを覚えていた。自分と並ぶ力を持ち、打ち倒すことが強さの証明となるだけの好敵手が、強さという尺度に価値を全く認めていない。
まるで無視されているような不快感に歯ぎしりし、斧槍を握る手に力がこもる。
「……お前もそれだけの力を持っているなら、相応の修練を積んでいるだろう。それは一心に強さを求めねば不可能な、苛烈なものだったはずだ」
「あいにく私は、ただ力を得ることを目的とした修練はしていません。私があなたと伍するだけの力を持ちえたことは、単なる結果です。それ以上でも以下でもない」
「では何のために修練を積んだ! 貴様は何のために戦う?!」
「私の力は、世界を変えるための力です。新しくより良い世界を、次の世代に残すためのね!」
ロードストレームが一瞬だけ、ふわりと宙を舞ったように見えたかと思うと、次の瞬間には目にも留まらぬ速度でフリークルンドに斬りかかっていた。周囲の者からは二本のジャマダハルが、光跡と金属音だけの存在としか感じられないほどの速さだ。
それほどの攻撃にフリークルンドは正面から応戦し、ロードストレームは反撃を避け、浮き上がるように距離をとる。
「なんと凄まじい……こんな戦いができる人間が、この世に二人もいるとは……」
近衛兵副隊長のハセリウスはノルドグレーン兵と戦いながら、戦慄とともにつぶやいた。彼は幾度も、フリークルンドの訓練相手を務めたことがある。――その時は、実力の半分も出してはいなかったのだろう。
まるで背中に見えない翼があるかのように重さを感じさせない、だが恐ろしいまでの敏捷さが、特色として際立ったロードストレームの戦闘様式だった。
巻き起こる風が雪を舞い上げ、不鮮明になった視界が二人の戦いを覆い隠す。それが明瞭に見えていたところで、彼らと同じリーパーの力を持つハセリウスでさえ、戦いのすべてを目で追えていたかどうかは疑わしい。
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フリークルンドが怒りに任せて強く打ち込み、空を切り大地を打った斧槍の衝撃が、間欠泉のように砂利や雪を噴き上げる。そしてわずかに、フリークルンドの体勢が崩れた。フリークルンドは前のめりの上体を戻そうとするが、その左肩口をロードストレームのジャマダハルが切り裂いた。
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