206 / 247
ジュニエスの戦い
79 フリークルンドとアルバレス 4
しおりを挟む
交わす言葉の噛み合わなさに、フリークルンドは違和感を隠せずにいた。
フリークルンドが見ているのは、リーパーとして類まれな力を持ちながら近衛兵への入隊を却下された過去を持つ、オラシオ・アルバレスだ。オラシオ・ロードストレームはフリークルンド自身ではなく、近衛兵が象徴するものを見ている。
交えた刃のようには、二人の心は正対していない。
「見下げ果てた奴だ。逆恨みで俺の前に立つとはな」
「……では言葉を並べるより、私を斬り倒してはいかがですか。あなたは元来そうしたやり方がお好きでしょう?」
「思い上がるな!」
フリークルンドが疾駆し、地面を薄っすらと覆っていた雪が煙のように舞い上がった。
フリークルンドは長大な斧槍を、小枝を振るうように軽々と扱い、敏捷なロードストレームを攻め立てる。ロードストレームはその攻撃を一度として受けることなく、風に木の葉が舞うように避け切って見せた。
「いっそう腕を上げられたようですね。四日間戦い続けた後でなお、恐ろしいまでの力と鋭さ」
「ふん。貴様も金持ちに飼われながら、牙は研ぎ続けていたようだな」
「そうですか? あいにく私、戦いは嫌いでして……」
「この期に及んでまだ、つまらん諧謔を弄するか!」
「いいえ、冗談ではありませんよ。特にあなたとなど、なるべくなら戦いたくはりません。勝負ごとはしょせん水物、どれだけ技を磨いたところで、始まってどう転ぶかなど分かったものではありませんから」
「その揺らぐ死線を越えることこそが強さだ」
「ええ、それが嫌いなんです」
フリークルンドは苛立ちを覚えていた。自分と並ぶ力を持ち、打ち倒すことが強さの証明となるだけの好敵手が、強さという尺度に価値を全く認めていない。
まるで無視されているような不快感に歯ぎしりし、斧槍を握る手に力がこもる。
「……お前もそれだけの力を持っているなら、相応の修練を積んでいるだろう。それは一心に強さを求めねば不可能な、苛烈なものだったはずだ」
「あいにく私は、ただ力を得ることを目的とした修練はしていません。私があなたと伍するだけの力を持ちえたことは、単なる結果です。それ以上でも以下でもない」
「では何のために修練を積んだ! 貴様は何のために戦う?!」
「私の力は、世界を変えるための力です。新しくより良い世界を、次の世代に残すためのね!」
ロードストレームが一瞬だけ、ふわりと宙を舞ったように見えたかと思うと、次の瞬間には目にも留まらぬ速度でフリークルンドに斬りかかっていた。周囲の者からは二本のジャマダハルが、光跡と金属音だけの存在としか感じられないほどの速さだ。
それほどの攻撃にフリークルンドは正面から応戦し、ロードストレームは反撃を避け、浮き上がるように距離をとる。
「なんと凄まじい……こんな戦いができる人間が、この世に二人もいるとは……」
近衛兵副隊長のハセリウスはノルドグレーン兵と戦いながら、戦慄とともにつぶやいた。彼は幾度も、フリークルンドの訓練相手を務めたことがある。――その時は、実力の半分も出してはいなかったのだろう。
まるで背中に見えない翼があるかのように重さを感じさせない、だが恐ろしいまでの敏捷さが、特色として際立ったロードストレームの戦闘様式だった。
巻き起こる風が雪を舞い上げ、不鮮明になった視界が二人の戦いを覆い隠す。それが明瞭に見えていたところで、彼らと同じリーパーの力を持つハセリウスでさえ、戦いのすべてを目で追えていたかどうかは疑わしい。
「あなたや私のような戦士の時代は、もうすぐ終わるのです! 次代の主役は、間違いなくローセンダール様のような方」
「知ったことか! 俺は貴様を倒し、ノーラント世界に冠絶する武名を打ち立てるのだ」
「我らの行く末など、せいぜい見世物の剣闘士……そんな栄光をお望みですか」
「貴様は……武の力をそこまで嘲弄するのか!」
フリークルンドが怒りに任せて強く打ち込み、空を切り大地を打った斧槍の衝撃が、間欠泉のように砂利や雪を噴き上げる。そしてわずかに、フリークルンドの体勢が崩れた。フリークルンドは前のめりの上体を戻そうとするが、その左肩口をロードストレームのジャマダハルが切り裂いた。
フリークルンドが見ているのは、リーパーとして類まれな力を持ちながら近衛兵への入隊を却下された過去を持つ、オラシオ・アルバレスだ。オラシオ・ロードストレームはフリークルンド自身ではなく、近衛兵が象徴するものを見ている。
交えた刃のようには、二人の心は正対していない。
「見下げ果てた奴だ。逆恨みで俺の前に立つとはな」
「……では言葉を並べるより、私を斬り倒してはいかがですか。あなたは元来そうしたやり方がお好きでしょう?」
「思い上がるな!」
フリークルンドが疾駆し、地面を薄っすらと覆っていた雪が煙のように舞い上がった。
フリークルンドは長大な斧槍を、小枝を振るうように軽々と扱い、敏捷なロードストレームを攻め立てる。ロードストレームはその攻撃を一度として受けることなく、風に木の葉が舞うように避け切って見せた。
「いっそう腕を上げられたようですね。四日間戦い続けた後でなお、恐ろしいまでの力と鋭さ」
「ふん。貴様も金持ちに飼われながら、牙は研ぎ続けていたようだな」
「そうですか? あいにく私、戦いは嫌いでして……」
「この期に及んでまだ、つまらん諧謔を弄するか!」
「いいえ、冗談ではありませんよ。特にあなたとなど、なるべくなら戦いたくはりません。勝負ごとはしょせん水物、どれだけ技を磨いたところで、始まってどう転ぶかなど分かったものではありませんから」
「その揺らぐ死線を越えることこそが強さだ」
「ええ、それが嫌いなんです」
フリークルンドは苛立ちを覚えていた。自分と並ぶ力を持ち、打ち倒すことが強さの証明となるだけの好敵手が、強さという尺度に価値を全く認めていない。
まるで無視されているような不快感に歯ぎしりし、斧槍を握る手に力がこもる。
「……お前もそれだけの力を持っているなら、相応の修練を積んでいるだろう。それは一心に強さを求めねば不可能な、苛烈なものだったはずだ」
「あいにく私は、ただ力を得ることを目的とした修練はしていません。私があなたと伍するだけの力を持ちえたことは、単なる結果です。それ以上でも以下でもない」
「では何のために修練を積んだ! 貴様は何のために戦う?!」
「私の力は、世界を変えるための力です。新しくより良い世界を、次の世代に残すためのね!」
ロードストレームが一瞬だけ、ふわりと宙を舞ったように見えたかと思うと、次の瞬間には目にも留まらぬ速度でフリークルンドに斬りかかっていた。周囲の者からは二本のジャマダハルが、光跡と金属音だけの存在としか感じられないほどの速さだ。
それほどの攻撃にフリークルンドは正面から応戦し、ロードストレームは反撃を避け、浮き上がるように距離をとる。
「なんと凄まじい……こんな戦いができる人間が、この世に二人もいるとは……」
近衛兵副隊長のハセリウスはノルドグレーン兵と戦いながら、戦慄とともにつぶやいた。彼は幾度も、フリークルンドの訓練相手を務めたことがある。――その時は、実力の半分も出してはいなかったのだろう。
まるで背中に見えない翼があるかのように重さを感じさせない、だが恐ろしいまでの敏捷さが、特色として際立ったロードストレームの戦闘様式だった。
巻き起こる風が雪を舞い上げ、不鮮明になった視界が二人の戦いを覆い隠す。それが明瞭に見えていたところで、彼らと同じリーパーの力を持つハセリウスでさえ、戦いのすべてを目で追えていたかどうかは疑わしい。
「あなたや私のような戦士の時代は、もうすぐ終わるのです! 次代の主役は、間違いなくローセンダール様のような方」
「知ったことか! 俺は貴様を倒し、ノーラント世界に冠絶する武名を打ち立てるのだ」
「我らの行く末など、せいぜい見世物の剣闘士……そんな栄光をお望みですか」
「貴様は……武の力をそこまで嘲弄するのか!」
フリークルンドが怒りに任せて強く打ち込み、空を切り大地を打った斧槍の衝撃が、間欠泉のように砂利や雪を噴き上げる。そしてわずかに、フリークルンドの体勢が崩れた。フリークルンドは前のめりの上体を戻そうとするが、その左肩口をロードストレームのジャマダハルが切り裂いた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。
聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~
猫野 にくきゅう
ファンタジー
国を追放された聖女が、隣国で幸せになる。
――おそらくは、そんな内容の小説に出てくる
『嫌われ役』の王子に、転生してしまったようだ。
俺と俺の暮らすこの国の未来には、
惨めな破滅が待ち構えているだろう。
これは、そんな運命を変えるために、
足掻き続ける俺たちの物語。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる