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ジュニエスの戦い
77 フリークルンドとアルバレス 2
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「あれは……馬鹿な」
「……近衛兵は、ラインフェルトに同行していたのではなかったの……?」
近衛兵に比肩する力を持った傭兵アネモネ――リースベットの力を見込んでラインフェルトが講じた偽装工作が、見事に功を奏した。
リースベットの参戦が自明のこととなっていた四日目の戦いで、ベアトリスがリースベット個人に対して、特別に対策を講じた様子はなかった。
その時点でのラインフェルトの仮定は、ベアトリスは、リーパーが増えたのではなく近衛兵が分散配置されたのだと判断した、というものだった。その仮定には、一定の蓋然性がある。
ならば、リースベットが戦いフリークルンドがその力を潜めていれば、ベアトリスに近衛兵の位置情報を誤らせることができる――ラインフェルトの目論見は成就し、近衛兵フリークルンド隊と主力軍騎兵からなるリードホルム軍第二攻撃部隊の前には、2000に満たないレーフクヴィスト連隊が配置されているだけ、という状況を作り出した。
ノルドグレーンに数的優位はあっても、フリークルンドの突撃を押し返すほどの重層防御陣は展開できず、その用意もされていない。
フリークルンドを先頭とした第二攻撃部隊は、一本の槍のように突撃し、レーフクヴィスト連隊の方陣にその穂先を突き立てた。
彼らは左右から挟撃されるのも構わず、ひたすらベアトリスめがけて直進している。それを阻止すべく激流のように殺到するノルドグレーン兵を、近衛兵副隊長ハセリウスや他の騎兵が身を挺して排し、勝利への血路を開こうとしていた。
冷たく乾いた空気に舞う血煙の中、ついにフリークルンドはレーフクヴィスト連隊の陣を抜けた。
彼とベアトリスの乗る戦闘馬車のあいだに、遮るノルドグレーン軍部隊はもはや存在しない。
「ついに来てやったぞ……敵将ローセンダール!」
斧槍をベアトリスの戦闘馬車に向け、フリークルンドは雷鳴のように叫んだ。岩のような幅の広い肩を上下させ、吐息は白くけぶっているが、その目には揺るぎない闘志がみなぎっている。
彼の後方では、まだリードホルム軍騎兵とレーフクヴィスト連隊が戦いを続けている。
ベアトリスは表情を変えず、凍ったすみれ色の瞳でフリークルンドを眺め下ろしていた。
「ついに来ましたか……」
ロードストレームが長身を静かに伸ばし、後頭部で結った長い黒髪を風に揺らしながら、ゆっくりと歩み出た。
「……あなたに、こんな真似をさせたくはなかったのだけれど……」
「もとより、この時のための親衛隊。ここで私が出ねば示しがつきません」
「そう、ね……」
「こうした考え方は好みませんが……やはり運命だったようです。あの男を倒さなければ、私は先に進めないということでしょう」
ベアトリスが不安げな瞳を向ける。強くなり始めた寒風に、二人の長い髪がたなびく。ロードストレームの黒髪にひとひらの白い雪が落ちた。
「……愚かなロマンチシズムに浸っているのではありません。どうかご心配なく」
ロードストレームは穏やかな笑顔を見せ、フリークルンドに正対した。
「……近衛兵は、ラインフェルトに同行していたのではなかったの……?」
近衛兵に比肩する力を持った傭兵アネモネ――リースベットの力を見込んでラインフェルトが講じた偽装工作が、見事に功を奏した。
リースベットの参戦が自明のこととなっていた四日目の戦いで、ベアトリスがリースベット個人に対して、特別に対策を講じた様子はなかった。
その時点でのラインフェルトの仮定は、ベアトリスは、リーパーが増えたのではなく近衛兵が分散配置されたのだと判断した、というものだった。その仮定には、一定の蓋然性がある。
ならば、リースベットが戦いフリークルンドがその力を潜めていれば、ベアトリスに近衛兵の位置情報を誤らせることができる――ラインフェルトの目論見は成就し、近衛兵フリークルンド隊と主力軍騎兵からなるリードホルム軍第二攻撃部隊の前には、2000に満たないレーフクヴィスト連隊が配置されているだけ、という状況を作り出した。
ノルドグレーンに数的優位はあっても、フリークルンドの突撃を押し返すほどの重層防御陣は展開できず、その用意もされていない。
フリークルンドを先頭とした第二攻撃部隊は、一本の槍のように突撃し、レーフクヴィスト連隊の方陣にその穂先を突き立てた。
彼らは左右から挟撃されるのも構わず、ひたすらベアトリスめがけて直進している。それを阻止すべく激流のように殺到するノルドグレーン兵を、近衛兵副隊長ハセリウスや他の騎兵が身を挺して排し、勝利への血路を開こうとしていた。
冷たく乾いた空気に舞う血煙の中、ついにフリークルンドはレーフクヴィスト連隊の陣を抜けた。
彼とベアトリスの乗る戦闘馬車のあいだに、遮るノルドグレーン軍部隊はもはや存在しない。
「ついに来てやったぞ……敵将ローセンダール!」
斧槍をベアトリスの戦闘馬車に向け、フリークルンドは雷鳴のように叫んだ。岩のような幅の広い肩を上下させ、吐息は白くけぶっているが、その目には揺るぎない闘志がみなぎっている。
彼の後方では、まだリードホルム軍騎兵とレーフクヴィスト連隊が戦いを続けている。
ベアトリスは表情を変えず、凍ったすみれ色の瞳でフリークルンドを眺め下ろしていた。
「ついに来ましたか……」
ロードストレームが長身を静かに伸ばし、後頭部で結った長い黒髪を風に揺らしながら、ゆっくりと歩み出た。
「……あなたに、こんな真似をさせたくはなかったのだけれど……」
「もとより、この時のための親衛隊。ここで私が出ねば示しがつきません」
「そう、ね……」
「こうした考え方は好みませんが……やはり運命だったようです。あの男を倒さなければ、私は先に進めないということでしょう」
ベアトリスが不安げな瞳を向ける。強くなり始めた寒風に、二人の長い髪がたなびく。ロードストレームの黒髪にひとひらの白い雪が落ちた。
「……愚かなロマンチシズムに浸っているのではありません。どうかご心配なく」
ロードストレームは穏やかな笑顔を見せ、フリークルンドに正対した。
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